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資本金の増資を検討する際のポイントを解説

米国公認会計士 杉山陽祐
資本金の増資を検討する際のポイントを解説

資本金の増資を検討したい。でもいつから検討を開始すればいいのかわからない。資本金を増資することで企業にどういった影響があるのか知りたい。資本金を増資するための流れを知りたい。
そのようなお悩みを抱える企業の担当者の方に向けて、今回は資本金の増資を検討する際のポイントについて解説していきます。

資本金の増資とは?

資本金の増資とは、資本金を積み増すことです。
資本金を積みますということは、企業が新たに株式を発行して、その株式と交換に出資者から現金や資産を受け取ることを指します。株式を渡す相手である出資者は、既存の出資者である株主かもしれませんし、今回新しく出資を行う出資者かもしれません。いずれにしても企業の株式と交換ですから、出資者はその企業の株主になります。

資本金の増資を行う理由とは?

なぜ企業は資本金の増資を行うのでしょうか。
資本金の増資を行うことで自己資金を増やすことができます。それによって既存の借金の返済を行ったり、会社の信用力を上げたり、更なる事業拡大を狙うことなどが考えられます。
企業は資金が必要なタイミングで増資を検討することになります。

資本金の増資を行うメリット・デメリットについて

資本金の増資を検討する際には、そのメリットおよびデメリットを理解しておく必要があります。それぞれについてしっかり理解した上で資本金の増資を行うか決定していきます。

増資のメリット

増資のメリットは何といっても返済義務のない資金調達が可能になることです。

銀行からの借入とは異なり、支払利息も発生しませんから企業の自己資金として自由に使える資金が手に入るという意味では大きなメリットです。
資本金が増えることで自己資本比率が増加します。これにより企業価値が向上し、経営の安定化につながります。

経営の安定化につながれば銀行からの融資を拡大することも可能でしょう。
資本金が大きくなればそれだけ企業の規模も大きくなりますから、今まで取引ができなかった大手の企業などとも取引を行うことができるようになり、取引拡大も狙えるようになります

増資のデメリット

資本金を増資することはデメリットもあります。
資本金の増資は企業が新しく株式を発行して出資者から株式と交換に出資をしてもらうことですが、そもそも出資者が見つからなければ増資はできません。ですからまずは出資者を探して集めるところから始める必要があります。

また、出資者はボランティアではありませんから、借入金のように返済スケジュールが存在するわけではないものの、企業が儲かったらその一部を配当金という形で自分の出資に対する分け前をもらうことを期待して出資しています。

増資により出資者が増えるということは、企業が出資者に対して払わなければならない配当金も増えるということですから、企業としてより大きく儲けなければならないプレッシャーはかかります。

資本金が大きくなることは企業規模が大きくなることであり、企業の信用力が増すことは増資のメリットでした。しかし、企業規模が大きいということはそれだけ会社が安定していると受け止められるため税金の負担力もあるとみなされ、法人住民税の均等割などの税負担が増すのです。中小企業は、優遇税制が受けられなくなる可能性もあります

増資を行うことで法人登記の変更が必要になり、それら一連の手続きのためにコストも発生します。手続きにはある程度時間がかかりますから、資金調達を急いでいる場合は注意が必要です。

資本金の増資には種類がある?

資本金を増資するメリット・デメリットを理解した上で実際に増資を行うとなった場合、増資の方法を決定する必要があります。
増資の方法には大きく分けて、有償増資無償増資の2種類があります。

有償増資とは?

有償増資とは、企業が新しく株式を発行し、株式と交換に払い込みを受けることを指します。株式と交換に現金の振り込みを受けた場合は、企業に現金が入ってきます。

株式との交換は現金だけではなく、機械や設備などの現物資産も交換の対象となります。これを現物出資と言います。その名の通り現金ではなく、現物で出資を受けるということです。

現物出資の応用編としてデッドエクイティースワップ(Debt Equity Swapのこと、通称DES)という方法もあります。これは読んで字の如く、DebtをEquityにSwapする、つまり借金を資本金に振り替えるということです。借入先が株主になることを意味します。借金をチャラにしてもらう代わりに株を発行して株主になってもらうということですね。

有償増資は企業が新しく発行する株式の引受先によって細かく分かれています。

公募増資

公募による増資を行います。一般の投資家に向けて出資を呼び掛ける方法です。ただし、公募増資で増資できるのは上場企業のみです。非上場企業は公募増資は利用できないことになっています。

株主割当増資

既存の株主に対して、企業が新しく株式を発行することで増資を行います。新しく第三者に株式を発行するわけではありませんから、増資を行っても株主構成や支配関係、出資比率は変わりません。

第三者割当増資

特定の決められた第三者に対して企業が新しく株式を発行することで増資を行います。企業が自ら出資者を指定するので敵対的な株主を避けることができます。株式の価格も話し合いで決められますから企業には有利です。ただし、既存株主の理解は必要になるでしょう。

無償増資とは?

無償増資とは、今まで企業が稼いできた利益である利益剰余金や資本準備金などから資本金に振り替えることを指します。帳簿上で振り替えるだけですから、有償増資のように現金が振り込まれたり、資産が増えたりすることはありません。単純に名目の変更を行うだけです。

資本金の増資を行うための手続き方法

資本金を増資することが決まった。増資の方法も決まった。あとは増資の手続きを淡々と進めていきましょう。

資本金の増資を行ったら、登記の内容を変更しなければなりません。変更日から2週間以内に登記を変更しなければなりませんので、速やかに変更申請を行ってください。登記の申請は本店所在地を管轄する法務局に行います。増資には株主総会での決議等が必要なため、増資手続きに時間がかかることが予想されます。時間に余裕をもって計画的に増資手続きを進めてください。

登記手続きを行うと、増額した資本金の金額の0.7%は登録免許税としてかかります。3万円に満たない場合は3万円を支払う必要があります。
これら増資の手続きを司法書士にお願いする場合は、司法書士に対する報酬もかかりますのでご注意ください。

登記の変更申請を法務局に行い、登記が完了しましたら登記事項証明書を取得します。変更内容が正しく反映されていることを確認できれば登記変更手続きは完了となります。

まとめ:資金調達の手段として増資も選択肢の一つです

今回は資本金の増資を検討する際のポイントについて解説しました。
いかがでしたでしょうか。企業における資金調達の手段としては銀行からの融資が真っ先に思い浮かびますが、資本金の増資も立派な資金調達手段の一つです。増資のメリットやデメリット、増資手続きのリードタイムなどを考慮しながら資金調達における幅広い選択肢を持てるようになるといいですね。

この記事を書いたライター

商社勤務中に米国公認会計士(USCPA)のライセンスを取得。2015年からフィリピンに赴任。フィリピンにて日系企業を中心に会計税務のアドバイザリー業務に従事。日系企業のフィリピン投資、工場設立、各種ライセンス取得支援など幅広い業務に携わる。
カテゴリ:コラム・学び

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