株式分割は、発行済みの株式を複数に分割することです。すべての株主の持ち株数を均等に増加できるので、持ち株比率への影響を考える必要はなく、また、株式買取請求権が認められていることから既存株主が大きな不利益を被ることはありません。
ただ、株主の構成比率に変動を生じないのであれば、なぜわざわざ株式分割をする必要があるのでしょうか?今回は、株式分割のメリット・デメリットについて詳しく解説していきます。
「株式分割(会社法第183条)」とは、発行済みの株式を分割してそれよりも多い数の株式にすることです。これとは逆に、発行済みの数個の株式を合わせてそれよりも少数の株式にすることを「株式の併合(会社法第180条)」といいます。
株式分割・株式併合は、どちらも各株主の保有株式数を一律もしくは一定の比率で増加・減少させる行為なので、会社財産には変動を生じないという特徴があります。
なお、株式分割の概要については、以下のコラムで詳しく解説しています。あわせてご参照ください。
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それでは、株式分割のメリットについて見ていきましょう。具体的には次の4点です。
①株式を売買しやすくなる
②上場市場の指定替えに対応できる
③配当金の増配・株主優待が拡充される場合がある
④銘柄の魅力が上昇する
それでは、それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。
高値を付けている株は、売買がされにくく、市場における流動性が低下してしまいます。したがって株式分割を行うことによって1株当たりの価格を下げることができるので、個人投資家でも株式を購入しやすくなるというメリットが得られます。
一般に、株は1株から売買できるわけではありません。最低の売買単位数があります。最低売買単位は1単元と呼ばれ、日本の企業の株式は、1単元で1,000株ということが多くなっています。
そして、日本の株式のなかには、株価が低迷しているといっても、1株当たりの株価が何千円もしている株式もあります。たとえば、株価が3,000円、1単元が1,000株の場合、この株式に投資するためには、投資家は最低でも3,000円×1,000株=300万円の資金が必要ということになります。
最低投資金額は、株式の投資単位と呼ばれますが、株式の投資単位が高すぎると個人投資家が株式投資しづらくなってしまい、流動性が低下する可能性があります。つまり、株式の流動性を向上させるためには、株式投資単位の引き下げが必要となります。
投資単位の引き下げ手段としては、①売買単位の引き下げと、②大幅な株式分割が主な手段として考えられますが、株式分割は企業にとって株式の流動性を高める施策であると考えることができます。
たとえば、NISA制度(小額投資非課税制度)では、年間投資金額の上限を120万円と定めていますが、分割することによって株がその範囲内で買えるようになれば、投資家の幅がぐっと広がといえるでしょう。
一方、株主にとっても、高値の株というのは買い手がつかず売りづらいものです。株式分割で購入希望者が増えることで、株式を売りやすくなります。
株価の総額に変わりがないとすれば、株式分割によって株式数が増加するので、株価はそれに見合って低下することになります。たとえば、上の例で株価を3,000円にしている場合、分割比率が1対10であれば、分割後には株価は10分の1の300円に低下することになります。売買単位に変わりがなくても、株式分割によって株価が低下するので、株式投資単位は、300円×1,000株=30万円に引き下げることができるというわけです。
上場会社の場合、どの株式市場に所属するかによって会社の”格”が決まることになります。そして、たとえば東証二部から東証一部、東証マザーズから東証二部など、上位の市場の適合基準を充たすことができれば、所属市場のランクアップを目指せます。これを「指定替え」と呼びます。
たとえば、JASDAQから東証一部へ指定替えする場合には、株主数2,200人以上、流通株式数2万単位以上などの要件が課されます。しかし、株式が市場で流通しにくい状況が発生していると、指定替えの要件を充たすことはできません。
そこで、株式分割をすることによって発行済み株式総数自体を増やし、市場に広く流通しやすい状況を作り出すことによって、上場市場の指定替えの要件を充たすことが可能となります。このように、株式分割を利用すれば、指定替えにも対応できるというメリットが生じます。
株式会社では、1株あたり配当金の金額が定められています。つまり、株式分割によって株主の持ち株数が増えるので、そのまま配当金の増配に繋がるというメリットが得られます。たとえば、1株が5株に株式分割される場合であれば、受け取ることができる配当金も5倍になります。
また、各株式会社が定めている株主優待制度は、一般的に保有株式総数を基準に優待内容を定めているのが一般的です。つまり、株式分割後はより多くの株式数を保有することになるので、より多くの株主がより高いランクの株主優待の対象になります。
このように、機関投資家の関心の対象である配当金・株主優待においてメリットがあるため、株式市場におけるポジティブな評価に繋がりやすいというメリットが得られます。
株式分割によって株主側がメリットを受け取るということは、その株式銘柄の魅力が上昇するということです。そして、株式市場において高評価の株式については、次の2つのメリットがさらに得られることになります。
①株価が上昇する
②キャピタルゲインが得られる
③企業の時価総額が上昇する
④長期的に見て銘柄のファンを獲得できる
つまり、株主分割が成功すれば、市場における好循環のサイクルに入ることができるということです。特に、企業の時価総額が上昇すれば、その資金を元手として新たな経営判断や新規事業への展望も広がるはず。企業価値をさらに高めることを目指せます。
持株比率に影響を与えないために既存株主の反発を受けにくい株式分割ですが、もちろん、一定のデメリットがあることも考慮しなければいけません。
具体的なデメリットは次の3点です。
①株式数が増えることによってコストが増加する
②機関投資家の投資対象になるので株価が安定しない
③短期的な投資対象にされて長期的・安定的な企業基盤を作りにくい
それでは、各デメリットについて見ていきましょう。
株式分割によって発行済み株式総数が増えるということは、必然的に株主数も増える可能性が高いということです。つまり、株主総会や株式対応など、労力・費用が従来よりもかさむというデメリットが生じます。
また、株式分割を行うためには、株主総会を開催し、登記、据置資料の作成などの手間もかかります。メリットの大きい株式分割ですが、長期的に見たときに求められるコストはかなり膨れ上がるでしょう。
株式分割によって株式が購入しやすくなるということは、機関投資家の投資対象になりやすいということです。つまり、市場における期待感から株価が上昇する可能性は高いですが、その一方で短期的に上下変動のリスクがつきまとうために、企業の実態と時価総額の乖離が発生してしまいます。
特に、近年では株主の安定志向の傾向が強いので、株価が不安定な銘柄のリスクはかなり注目されます。すると、最終的には投資家が手をひいて慢性的な株価の降下を招くおそれもあります。
株式会社にとって株価の上昇は課題の1つではありますが、同時に、長期的に株主になってくれるファンを集めることも重要な課題です。そして、不安定な株価推移を見せる銘柄には、長期的な株主はつきにくいという特徴があります。
したがって、株式分割によって株式の流動性が高くなってしまうと、どうしても長期的・安定的な企業基盤を作りにくいというデメリットが生じます。株式分割を仕掛けるタイミングは経営判断とセットだと理解しておきましょう。
株式会社は常に相反する要請と戦わなければいけません。株価の上昇・株式の流動性・安定的な株主構成・株式市場における注目度など、どの要請を最優先にすべきかは、その時々の経営判断に左右されるものです。
そして、株式分割は既存株主だけではなく、新規の株主や株式会社にとってもメリットがあるからこそ、仕掛け時を間違えずに実施すれば、株式市場における大きな好循環のダイナミズムに乗ることができます。
株式分割は直接的な資金調達の手法ではありませんが、株式市場の構造を利用したチャレンジになるので、時機を見誤らないことが重要です。
企業の資金調達方法については以下のコラムでも詳しく解説しています。あわせてご確認ください。