大学を卒業した後、リース会社に就職。その後父親の会計事務所にアシスタントとして入所。プライベートでの挫折、日々の業務と2児の子育てで忙しい中、8年間かけて税理士試験に合格し、その後独立して事務所を持たれた伯母敏子(うばとしこ)先生。
本業に加えてyoutubeの発信やオンラインサロン運営など、小規模経営者を支えることに力を注いでいる先生のキャリアをHUPRO編集部がお話を伺いました。
【ご経歴】
1998年 | 駒澤大学経営学部経営学科卒業 |
1998年 | オリックス株式会社に入社 |
2000年 | 飯沼会計事務所入社 |
2016年 | 税理士登録 |
2017年 | 伯母敏子税理士事務所開業、現在に至る |
-大学卒業後の最初のキャリアについて教えてください
新卒時の就職活動をする際に、様々な仕事を見てみたいと、業界が絞りきれませんでした。それで見方を変えて、様々な業界と関われる仕事は何かと考えた時に、これだと思ったのが金融業界でした。。そこでリース会社やコンサル会社に就職活動をしました。
-金融=リース会社、はすぐには思いつかない選択ですよね
就職活動をした当初はリース会社への就職は考えていませんでした。ただ、様々な業界と関われる仕事がしたいということの他に、働き方として、アシスタント的な仕事ではなくて自分が対外的に出ていくような仕事がしたいという思いを持っていました。
当時は就職氷河期で、銀行やコンサル会社に女性が総合職で入るのはかなりの狭き門でした。ところがリース会社は積極的に女性総合職を取り入れる方向性があって、大手から中小の会社まで女性総合職での募集枠が結構ありました。加えて地域限定型の総合職という、転勤があっても引っ越しを伴わない職種の募集もあり、魅力を感じ、最終的にリース会社に入社しました。
-リース会社ではどんな経験をされましたか
様々な業界が見たいという思いは叶ったのですが、働く現実は厳しかったですね。中小企業を担当する部署に入って新規営業の営業職になったのですが、仕事のメインはいわゆる飛び込み営業。ノルマも大きな金額でした。
営業先は自分が普段関わることがない業界の会社が多く、ラブホテルとかパチンコとかキャバクラなど本当に様々でした。リース会社が売っているものはお金。ざっくりいうとお金を借りませんか、というのが仕事なのですが、大学卒業したての女の子が営業に行くのはかなりハードルが高かったですね。
男の人の泥臭さが無いとなかなか仕事が取れなかったので、舐められないように、女性らしさを出さないようにしていました。性格もどんどん厳しくなっていって、目も吊り上がっていたと思います。私は総合職でアシスタントの先輩方がついていたのですが、先輩方には「敏子」ではなく「敏男」と呼ばれていました。(笑)
-その後、お父様の会計事務所に転職をされていますね
転職というより逃げ込んだという表現が正しいかもしれません。
リース会社で働き続けることに悩んでいることに気がついた父が、事務所で欠員が出て困っているからよかったら来ないか、と声をかけてくれたのがきっかけです。
ーその時、税理士業界に興味はありましたか?
特にありませんでした。というよりすごく大変な仕事という印象が強かったんです。
父が税理士になったのは私が高校生か大学生になるかの頃だったのですが、父はずっと勉強をしていて、それが凄く嫌に感じました。遊んでくれないしどこにも行けないし。父の背中を見続けて、そんなに簡単に手を出してはいけない資格だと思っていました。
今思えば、金融=決算書=税理士、金融業界を目指すなら税理士も候補に入ってきてもおかしくはなかったのですが、学生時代の私には全然繋がっていませんでした。金融と税理士はまったく関係がないと思っていました。
-お父様の会計事務所でのお仕事のスタートは順調でしたか。
それが全く。簿記3級は大学の必修だったので持っていたのですが、勉強したことと実務を繋げられるようになるのに時間がかかりました。初日にお使いを頼まれて「伝票立てておいて!」と言われてもそれすら書けなかった。そのレベルからのスタートでした。
最初はすべて見よう見まね。同じ会社の過去の取引を1個1個確認して真似をしていました。ありえない間違いも経験しましたが、指摘されてもただ真似をしただけだから、どうして間違えたのか答えることができず、最初はそんな状況でした。
-そこから税理士を目指そう思ったきっかけは何だったのでしょうか。
実務をひたすらこなす期間が5-6年続いた頃、学生時代から10年くらい付き合っていた人とお別れしました。20代後半だったので焦りが生まれて婚活をして、次に出会って付き合った人と結婚したのですが、うまくいかずに1年くらいで破局。そこで自分と真剣に向き合いました。
今まで自分のために何か勉強するとか、自分の将来のために何かをする、ということに頭を使ってこなくて、流れで結婚して子供を産むのだろうと思っていた、そんな軽はずみな自分に自信を無くして。そこで、この先一人だったとしても生きていけるスキルって何だろう、と考えた時に、税理士試験しかない、という結論に至りました。
-そこから8年間の勉強生活。かなりきつかったのではないですか。
そもそも勉強が好きではないので、最初はさぼってばかりいました。大手予備校に通っていたのですが、授業は分からないし宿題はできないしで案の定結果も全然出ません。ただ、その後予備校の受講生の友人に刺激を受けて変わりました。その人は私と同じで働きながら勉強しているから忙しいはずなのに全国で必ず10位に入るような人でした。その方に影響を受けてやるしかないと猛勉強しました。
他にも結婚をして、子育て、家庭との両立など色々あり大変で辛い時期も多かったですが、SNSの税理士試験のコミュニティに入って受験仲間と励まし合ったり、既に活躍されている税理士の先生のブログを読んでモチベーションをアップしたりして乗り越えました。
-税理士試験後に独立をされた経緯をお聞かせいただけますか。
その後試験に合格して、まずは父の事務所の所属税理士として税理士キャリアをスタートしました。やはり親子で働けることの嬉しさはとても感じたのを覚えています。その中で父親が3ヶ月か4ヶ月程かけて、税理士の先輩として手紙を渡してくれました。。その中で「この税理士としての資格の重み」を教えていただきとても感動したのを覚えています。プライドを持って頑張ろうって本気思うようになりました。
この先も父と共に働くという選択肢も当然あったのですが、そうすると父が仕事を辞めたら自分が事務所の代表になる。このままの自分で代表として事務所を率いていくことはできるのかと自問自答した時に、経験の無いことはできないと思いました。
父が元気なうちなら独立できる。だったら自分でお客さんを獲得して税理士事務所を経営してみよう。自分で一からやってみて上手くできるようになった時に初めて、父の事務所をどうするか、という選択ができると思って独立を決めました。
-なぜyoutubeチャンネルを立ち上げようと思ったのでしょうか。
自分の知見や税務のことをより多くの方に届けたい、と思ったのがyoutubeを始めたきっかけでした。
お金を払ってまで税金のことを知りたい訳では無いけれど、税金やお金のことは生きていくのに必須だからちょっと勉強したい、知識をつけたいという人はかなりいると思います。もしくは例えば今年だけ確定申告しなきゃいけなくて、税理士にお金を払って頼むまでではないけれど、やっぱり分からない、と悩んでいる人たちも。
顔が見えないけれど困っている人たちがたくさんいる。その人たちが損をしてしまうのは気の毒なので、専門家が無料で発信している情報を有益に自分の資産を守って欲しいな、という思いでyourubeを選びました。
-オンラインサロン「ゆるふわ経理部」も開催されていますよね。
顧問契約というと月々の顧問報酬をいただきますが、そこに手が届かない個人事業主やフリーランスの方が、自分で会計ソフトを使って経理をやっていく中で分からないからちょっと相談したいという時に相談できるサービスが「ゆるふわ経理部」です。質問も受けるのである程度のお金はいただきますが顧問料ほど高くない、金額的に優しいサービスになります。
またオンラインサロンは、長期的に顧問契約を結んでいくことを見据えた、関係性を作り出す場としての目的があります。
顧問契約はその方の税務のことについて税理士が責任を持つ立場になります。突然顧問契約を依頼されても簡単には引き受けられないというのが本音ではあるので、長い間オンラインサロンに参加されている方が、晴れて法人にしたいとお申し出いただけたら、お互い理解もあるので、喜んでお引き受けできる。そのような場にしたいと思いオンラインサロンを開催しています。
-独立した後で、苦労されたことや辛かったことはありますか。
概ね順調ですが、現在は一人でやっているので手が足りていないのが悩みです。顧問契約のお客様の決算をして、オンラインサロンのお客様の相談を受けて、youtube発信もする。手が回らなくなってきて、いよいよ誰かを雇わなければならない段階に入っています。人を雇ったことが無いのでどうなるか、新しいハードルですね。
-現在やりがいに感じていることは何でしょう。
顧問先が成長する姿を見ている時ですね。一人で始めた方が社員も店舗も増えて、という姿を見ていると刺激を貰えます。付き合いが長くなる仕事。顧問契約をさせていただくと長ければ10年20年という月日を一緒に過ごしていくことになります。
悩んでいる時も見ているし、実績が数字として出ていく姿も見させてもらっている。本当に素晴らしい仕事です。
逆になかなか伸びずに悩まれているお客様もいるのですが、そういう時は敢えて数字の話はしないで、今どんな気持ちかという話をして次に繋げていけるサポートをするようにしています。
税理士にしか弱音を吐けない経営者さんもいるので、その人の人生の話をきちんと聞く。個人でやっているからこそ深いところに入っていける、単純な利害関係だけではないところが大手事務所とは違う魅力だと思います。
-伯母先生の今後のキャリアビジョンなどはありますか。
先ほどちょっと話に出ましたが、組織化していきたいですね。信頼できるスタッフを増やして、お客様のニーズをくみ取った多角的なサービスができるようにしたいです。
士業って一生働けるのがいいところですよね。定年が無い、引退をいつにするかは自分で決められる職業。父にも全うして欲しいですし、自分もずっとやっていきたいと思います。そして具体的には考えていませんが、いつか税理士以外のことを事業として立ち上げてみたいですね、たとえば飲食系とかはものすごい興味はあって、考えるだけでワクワクします!(笑)
-最後にHUPROマガジンの読者に一言お願いします。
全ての選択は「自分が決断した。」と責任を持って頑張って欲しいですね。途中で諦めたいと思うこともあると思いますが、方向転換もひとつの選択。税理士試験は科目ごとに受けられる試験。1科目2科目受かっても残りが受からないとダメだと不安になる人もいますが、選択は「継続すればいい、やめてしまったらダメ」ではなく、自分が決めたことが正解。柔軟でいいと思います。考え方も環境も状況もライフスタイルも変わるので、自分に問いかけながら向き合ってください。
税理士・会計士を目指されている方は真面目な人、型にはまって考えてしまう人が多いんじゃないかと思うのですが、経理・税金・会計の知識は、実は会計業界にいなくてもすごく役に立つ知識です。その知識さえ持っていれば自分がやりたい事業が立ち上げられると思うし、どんな業界に行っても重宝されると思うので、自分のやっていることに自信を持って、会計業界にとどまらず様々な場での活躍を目指して欲しいです。
こんなことに今からチャレンジするのは遅いかな?などと思わず、今日が一番若い日。やりたいと思うことをやるというマインドを持ってください。経理や会計の知識を持つ人がそういうマインドを持つと強いと思うので、チャレンジ精神のある人生にしていって欲しいです。
ー本日はお時間いただきありがとうございました!
今回インタビューさせていただいた
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