消費税の導入時は3%であったのが、5%、8%、そして10%となり、いよいよ消費税負担が無視できなくなってきました。一般の人としても高額商品を購入する際には気になるテーマですが、事業者や経理担当としては少しでも消費税を減らす方法を考えたいものですよね。消費税は届出によって支払う税金が異なることをご存知でしょうか。届出は、簡易課税と本則課税に分かれます。それでは、どちらの方法がお得なのか、解説していきたいと思います。
いわゆる本則課税というのは、特に届出を行わないと適用される方法となります。この計算方法は、簡単に言うと
(課税売上にかかった消費税)-(課税仕入にかかった消費税)
となります。
課税売上というのは、物品の販売や一定のサービスを提供した際に消費税がかかる取引となります。土地の売買や株の売買など一定の取引には適用されません。この消費税はお客さんから預かったものなので、申告の際に国に納めなければなりません。
一方で、課税仕入というのは、反対に物品の購入や一定のサービスを利用した際に消費税がかかる取引となります。課税売上と同様に、土地の売買や株の売買など一定の取引を除き、かかってきます。ここで支払った消費税は、先ほどの預かった消費税から差し引くことができます。
簡易課税を選択すると、消費税の計算が簡単になります。先ほど述べた課税仕入という概念を使う代わりに、みなし仕入率というものを使い、申告する消費税を決定します。
みなし仕入率は、以下の通り業種によって定められています。
第一種事業(卸売業)90%
第二種事業(小売業)80%
第三種事業(製造業等)70%
第四種事業(その他の事業)60%
第五種事業(サービス業等)50%
第六種事業(不動産業)40%
(注) 令和元年10月1日を含む課税期間から、第三種事業である農業、林業、漁業のうち消費税の軽減税率が適用される飲食品の譲渡を行う事業を第二種事業とし、そのみなし仕入率は80%(現行70%)が適用されることに留意ください。
一般に、人件費の割合が高く占める業種ほどみなし仕入率が低下し、反対に人件費の割合が低い業種ほどみなし仕入率が上昇する傾向にあります。このみなし仕入率は法令の改訂に伴って変更される可能性があるので、最新のものについては常に国税庁のホームページを参照してください。
それでは、簡易課税を選択することで得になるのはどんな時でしょうか。
様々な場合が考えられますが、一般に「課税仕入の割合が低い業種」の時は簡易課税の方が得になることがあります。簡単な例を見てみましょう。
例)年間売上高2,160万円(税込) 年間仕入高1,080万円(税込) 消費税率は8%
本則課税の場合は、2,160万円から、1.08で割り返したものを差し引いた160万円。それに対し、1,080万円から1.08で割り返したものを差し引いた80万円を控除した80万円を納付する必要があります。
一方簡易課税を選択していて、小売業であった場合は、売上にかかった消費税160万円から、みなし仕入率80%分を差し引いた32万円を納付することとなります。
この例では、80万円と32万円の差額である48万円が本則課税よりも簡易課税のほうが有利な結果となっています。
簡易課税を受けるためには、様々な条件があります。まず、申告をする2事業年度前の課税売上高が5,000万円以下でなければなりません。これは、小規模の事業者では経理能力がままならないことが多く、負担を軽減する目的となっています。また、適用を受ける課税期間の開始の日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を所轄の税務署に提出しなければなりません。この届出提出漏れがあった場合は基本的に適用できませんので、必ず忘れずに提出する必要があります。税務署には届出が残りますので、届出を提出せずに簡易課税の申告書を提出してしまった場合は高確率でお尋ねが来て、修正申告を求められることになるでしょう。
簡易課税は一見すると有利な方法となりますが、大型な設備投資があった年度や、赤字になった年度では不利になることもあります。このような場合、本則課税であれば税金が反対に返還されることもありますが、簡易課税を選択した場合は納めることはあっても返還されることはないからです。しかし、不利と判断したらすぐに取りやめることができるかと言えばそうではありません。
簡易課税を取りやめる場合には、取りやめたい課税期間の開始の日の前日までに「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出しなければなりません。また、簡易課税を選択してから2年間は取り下げができませんので、将来の事業計画によっては届出をしない方が有利な場合があるため留意が必要となります。
簡易課税は売上の「内容」によって仕入率が異なるのであって、「業種」で異なるわけではありません。つまり、卸売業を営んでいる会社が不動産業も営んでいる場合、全てのみなし仕入率が90%となるわけではなく、一部の売上には40%のみなし仕入率が適用されることがあります。これを間違えてしまうと後々の税務調査で思わぬ支出となることがあるので留意しましょう。
結論からすると、今後の利益計画や設備計画に大きく左右されます。支出が大きく先行して収益が数年後に計上されるような業態や、大きな設備投資をする際は本則課税の方が有利なこともあります。思わぬミスを防ぐためには、どちらが有利か詳細なシミュレーションを顧問税理士と行うことが重要となります。