税理士を目指す人にとって、選択必須科目である所得税法。一般的に、所得税法を選択して受験する人は少ないと言われいます。所得税法は本当に難しいのでしょうか?今回は税理士試験で所得税法を受験しようと思っている方のためにその詳細を徹底解説します。
所得税法は、税理士試験における選択必須科目のうちの一つです。
税理士試験には、簿記論・財務諸表論・所得税法・法人税法・相続税法・消費税法・酒税法・国税徴収法・住民税・事業税・固定資産税の11科目があります。税理士になるためには、11科目のうち5科目の合格が必要です。
簿記論と財務諸表論の2科目が必須科目で、法人税法と所得税法が選択必須科目、残りの相続税法・消費税法・酒税法・国税徴収法・住民税・事業税・固定資産税の7科目が選択科目になります。
このうち、「法人税法」か「所得税法」はいずれかを選択する必要があります。
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税理士試験で、所得税法を選択する人の割合は、法人税法に比べると約3分の1となっています。どちらも大変ボリュームがある内容ですので、法人税法か所得税法かどちらかを選ぶ人が多いのですが、法人税法を選ぶ人がとても多くいます。
2020年度の税理士試験では、法人税法の受験者数が3,658 人だったのに対し、
所得税法の受験者数が1,437人でした。
また、選択科目の相続税法を選ぶ人と比べても、所得税選択者は6割程度と低くなっていて、さらに消費税法選択者と比べると2割程度しかいません。
なぜ、所得税法を選択する人が少ないのでしょうか。法人税法も所得税法もどちらもボリュームがあって大変なのは一緒なのですが、どうして法人税法を選択する人がそんなに多いのか気になる方も多いと思います。
まず、法人税法は、税理士事務所で働いている人にとっては、身近なものと言えます。業務を通じて経験することができ、仕事からも知識を得られることが勉強しやすい理由でしょう。
また、これから税理士事務所で働くことを考えている場合は、法人税法に合格していると採用時に高評価を得られることが多いです。
一方で、所得税法については、法人税法と同じように非常にボリュームがあって大変な税法です。両方勉強するのは大変ということで、どちらかを選択する場合に、このような理由から法人税法を取る場合が多くなります。また、所得税法は、最も条文数が多いということも懸念材料になっています。
所得税法の勉強時間の目安は、600時間程度です。同じ選択必須科目の法人税法が600時間程度と言われていることから、法人税法と同等のボリュームのある税法であると言えます。
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所得税法の難しさは、所得税法だけで200を超える条文を覚える必要がある点です。また、所得税法施工令や所属税法規則など細かなものも覚える必要があります。改正も多いために、それにも注意しておく必要があるでしょう。
そして、暗記していればいいというわけでもなく、それらの多くの条文の体系的な理解ができることが大切です。
条文を書いて覚えたり、ブツブツ言いながら覚えたりするなど、それぞれの覚え方を工夫しながら、理解を深める時間を作ることも大事なことになります。
過去の所得税法の合格率は以下の通りです。
2020年 | 12.0% |
2019年 | 12.8% |
2018年 | 12.3% |
2017年 | 13.0% |
2016年 | 13.4% |
2015年 | 13.2% |
2014年 | 13.2% |
所得税法の合格率は、2019年度で12.8%となっています。法人税法の合格率14.7%と比べると、少し低くなっています。
しかし2018年度は所得税法12.3%、法人税法11.6%と少し高い結果です。一概に合格率では、難易度は測れない事がわかります。
どの税法を選んでもそれほど大きな合格率の差はないと言えますが、所得税法に関しても他と比べて大きく、難易度が高いとは言えないでしょう。
所得税法を実際に選択してみると勉強しやすかったという人が多くいるようです。所得税法が勉強しやすかったと言う人の理由を聞いてみると、以下のようなポイントがあります。
法人税法と比べてみると、所得税法の勉強は広く浅くていいという意見があります。法人税法は、組織の合併、分割などの企業の組織再編のケースやクループ法人税制や連結納税制度などがややこしいものがあります。
それに対して、所得税法は、個人向けの課税の問題ですので、割と単純な部分も多いです。事業継承はありますが、あまり難しいものではないでしょう。
法人税法を勉強していて、組織再編などが難しいと感じた場合は、所得税法を選択してみるとのも一つの方法と言えます。
所得税法は、身近な税法でもあり、理解しやすい点もあります。
税理士事務所で働いていると、確定申告の経験が所得税法の勉強に役立つのでおすすめです。多くの勉強時間が必要ですが、実務からも学んでいくことができるため、知識の定着を効率的に行えることは大きなメリットになるでしょう。
法人税法と所得税法の両方を受けたいと考えている方は、法人税法を受けて、それから所得税法を受ける人が多いということも言われています。
その逆で、最初に所得税法を受けて、法人税法を受けると言う人は少ない傾向です。一番実務に活かせる法人税法をまず勉強して、その後、共通する点もある所得税法を勉強すると勉強しやすいと言われています。
所得税法を学んだ後で、現場では多くのメリットがあります。考えられるケースとしては、中小企業を顧客とする場合には大いに活躍する事が期待できます。
規模の小さな法人の場合は、社長の相談に応じることも出てくる事が想定されます。中小企業の良くあるケースで、社長自身が不動産を所有して会社に貸し付けている場合や、社長の確定申告の相談にのるなど、個人の税務相談に乗る可能性が出てきます。
特に独立して税理士事務所を営みたいと考えている人にとっては、小さな顧客や個人を相手にした仕事が増える可能性が非常に高いので、その際に必要性の高い税法になります。
また今後副業をする人や、フリーランスで働く人もどんどん増えて行く事が予想されます2015年に913万人だったフリーランスの人数は、2020年時点で1034万人に増加しています。このような傾向からも、ますます今後の社会において所得税法の知識が重宝されるのは間違いないと思われます。
税理士事務所に就職したいと思っている人で、沢山の勉強時間を取れる人は、法人税法、所得税法、相続税法を取るなど国税3法を勉強するのが、有益だとも言われます。
税理士事務所に就職した後、法人を顧客にすることが多くなりますが、個人資産家の所得税や相続税などにも関わることが多く、所得税法は大事です。たしかに勉強時間はかかりますが、所得税法を勉強しておくと税理士として非常に強みとなるでしょう。
以上、税理士試験で所得税法の選択について解説しました。たしかに法人税法とならび選択必修科目であり、大変な科目ではありますが、税理士としてのキャリアには非常に活かせる科目です。
法人税と比べ受験者数は少ないですが、所得税法と法人税法どちらも受験したという税理士の方に話を聞くと、法人税法よりも所得税法の方が自分にとって身近な税金の話が多く、勉強する内容が面白かったという意見もあります。
単に受験者数に流されるのではなく、どちらのほうが自分の今後のキャリアや、働き方にあっているのかを考えて受験科目を選択していく事が大切になるでしょう。