税務調査というといい顔をする人は一人もいないと言ってもいいぐらい嫌なものという印象ではないでしょうか。全く悪いことをしていなくても、何を言われるかわからないので終わるまでずっと冷や冷やしていなければなりません。それでは税務調査はどのように選定され、どのような流れで行われるかを現役公認会計士が解説します。
登記をおこなっている会社はすべて、決算がおわると税務署に決算書を提出する義務があります。その売上等によって税金を納付するというのが決まりごとになっています。しかし、申告書に不確かな個所があったり、前年比で科目の金額がかなり変わっているなど気になる点が出てきたりした場合に国税庁管轄職員や出向いて調査を行う場合があります。それを税務調査といいます。
職員は会社に直接出向き、帳簿や領主所などを確認して正しく記帳されているか、税務申告は間違っていないかなどを調べます。
調査の期間はだいたい2~3日ほどで、その間経営者をはじめ従業員は聞き取り調査に対応する必要があります。
もし不備や不正が見つかった場合は追徴税を納めたり、修正申告を行う必要があります。
世間一般敵に税務調査の頻度は10年に1度やはやいところであれば3~5年に一度であると言われています。しかし
国税庁の発表する税務行政の現状と課題によれば実調率は減少傾向にあり、単純計算だと法人の場合30年に1度、個人の場合100年に1度となり、法人であれば1生のうちに3回あるかないか、個人であれば1度も税務調査が入らないような頻度であり、全体として税務調査が入る確率がかなり小さくなってきています。
業種別にみて税務調査に入られやすいのは以下のようになっています。
こういった業種では不正が見つかりやすく、税務調査が繰り返し行われています。飲食店ですと現金取引が多いため、金額が合わないという状況が起きやすく、工事等を行う会社は従来より正確な帳簿付けができていない傾向にあることから、調査される頻度は多くなっています。
最もありがたいのは、税務調査に当たらないことです。それでは、税務調査に入られやすい会社とそうでない会社では違いがあるのでしょうか。
まず、税務署には全ての決算書がデータベース化されています。そこで、ここ数年で怪しい動きのある会社には税務調査フラグが立ちます。
怪しい動きというのは、
等々数え上げればきりがありません。できることといえば、あまり勘定科目を変更しないことでしょう。
また、前回の税務調査で大きな否認があったり印象が悪かったりすると調査対象に選ばれやすいです。逆に優良企業だと認められると、その旨がデータベースに登録されるため10年単位での税務調査になることもあります。
ここまでは申告している会社の話でしたが、無申告でも当然税務調査に入られます。これは、税務署は他社の税務調査に入ったときに外注費や接待交際費など相手先をメモして帰ります。メモの中に申告されていない会社があれば住所を調べて調査にやってきます。
このように、完全にランダムではなく怪しい会社に的を絞って税務調査はやってくるのです。
税務調査はまず会社に日程の調整のための連絡から入ります。よって、どうしても調査に立ち会えない場合は日程をずらしてくれます。また、税理士が関与している場合は税理士に連絡が行き、税理士と社長や経理が立ち会える日程を調整したのちに日程が確定します。
なお、税理士に連絡がいっても必ず会社に税務調査が入るとは限りません。33条の書面添付がされており、税理士が質問に答えるとともに帳票を提出すれば税務調査が省略されることもあります。あまりたくさんあるわけではないですが、調査に入らずに終わるケースです。
税務調査は、まず経営者に対して会社の業務内容や利益の源泉などをヒアリングします。ここでは、締め日の話や従業員数の話、雑談のように見えても細かく内容をメモします。特に人員の話は社長の把握している従業員数と給与台帳に相違がある場合は架空の人件費が発生していないかチェックされます。
経営者のヒアリングをもとに、売上計上漏れがないか、在庫の計上漏れがないかをチェックします。売上の計上漏れは製造業であれば工程表等会計とは関係ない資料を閲覧して実際に請求されているかどうかを確認します。在庫についても実際の在庫を見て、古い在庫など管理されてなさそうな在庫が計上されているかどうかをチェックします。
売上の計上漏れ等は重加算税の対象ですし税務調査としては絶対に見逃せないところとなりますが、重要な点では脱税が行われていないと判断された場合は細かい点の調査が始まります。
例えば、会社の前に自販機が置いてある場合は自販機の設置会社から電力料として定期的に金銭の授受があるはずです。これに対してちゃんと雑収入などで計上されているかどうかを確認します。
また、製造業の場合は鉄くずなどが発生することがあります。この鉄くずはゴミではなく回収業者に引き渡すとスクラップ価格として意外な値段で換金されます。これも帳簿に計上が漏れていないかどうかをチェックします。
税務調査で処理の誤りを指摘された場合、どのようにするかが税理士の腕の見せ所となります。
まず、全面的に降伏する場合はすべての内容を織り込んで修正申告書を作成、提出します。修正申告というのは自主的な申告という立て付けとなるので、これが間違っていたとしても納税者の責任となります。
一方でどれも修正しませんと言い切った場合、最終的には税務署から「更生」といって強制的に申告が修正されます。これは、修正しない企業ばかりになってしまうとごね得となってしまい、誰も修正申告しなくなってしまうからです。ただし、この更生処分を下すのは税務署側も証拠集めが大変であるため、できるだけ修正申告で対応してほしいと考えています。
また、指摘事項が複数あるうち、これは修正するがこれは修正したくありませんというように分類することもできます。これは、重要なものは税務署も修正してほしいと思うのに対し、細かいものについては最悪次回までに直しておいてくれればよいと考えるからです。
かといって全てを修正しませんという理論はほとんど通じないので、重要性を分類して根気よく税務署と相談することが良いでしょう。
いかかでしたでしょうか。税務調査が入ると「あの会社はなにかしたんじゃないか」と思ってしまうかもしれませんが、黒字で健全な経営をしている会社も調査対象です。例えば前年より売上がかなり伸びた!という喜ばしい状況でも、「本当はもっと売り上げているのではないか」という予測のため、調査が行われる場合があります。企業数がどんどん増えていく現状で税務調査が入る可能性は低くなってきていますが、いつ調査に来られてもいいよう、しっかりとした帳簿付けや対応を日頃から意識するのが大切です。
税務調査に関連する記事を下記にまとめましたので、ぜひご参照ください。