BIS(ビス)規制という言葉をよく新聞やニュースで目にすることがあると思います。経理をしている際には直接関係することは少ないですが、銀行と取引をしている場合、この用語を知っているかどうかで金利の交渉結果が変わるかもしれません。また、そうでないとしても、どこの銀行に預金を預け入れるかの判断や、取引先から聞かれた時の教養としてBIS規制という単語は覚えておく必要があると思います。今回は、このBIS規制についての説明と、本規制に引っかかった時にどうなるかを解説します。
BIS規制のBIS(ビス)というのは、国際決済銀行(Bank for International Settlements)の略称となります。1988年にBISの常設事務局であるバーゼル銀行監督委員会で話し合われた、銀行の自己資本比率規制のことをBIS規制と言います。別名では、バーゼル規制やバーゼル合意ともいいますが、日本において一般的にはBIS規制と言われています。
この規制においては、銀行として予見できる損失額を引当金として見積もっておき、それでもなお十分な自己資本を保有することを要求しています。
具体的には、これらを勘案して計算された自己資本比率について、海外での活動をする銀行は8%、海外活動を行わない銀行では4%を要求しており、日本では1993年より適用されています(バーゼルⅠ)。
その後、2004年にバーゼルⅡ、2017年にバーゼルⅢとして、新たな規制の枠組みが決定されていきました。この背景には、銀行の巨大化によるリスクの増大や、リーマンショックに端を発する金融危機等により、より質の高い純資産の確保が必要となったとされています。
1988年に公表された最初の銀行に対する国際的な自己資本比率に関する合意で、日本では1993年より本格適用されています。ここでは、銀行が所有する株式の含み益を自己資本に加えることが認められていたため、多くの銀行は他の上場企業との持ち合い株を期待して本規制をクリアしようと考えていました。しかし、バブルが崩壊して株価や時価が大幅に下落してしまったため、期待する効果が無くなってしまったため、慌てて自己資本の強化に走りました。その結果、中小企業への貸し出しを渋る銀行が増えてきて、日本全体としての金融機能が低下し、景気が低迷してしまったとも言えます。
2004年にバーゼルⅡ、いわゆる新BIS規制が公表され、日本では2007年より適用されています。これは、銀行業務の拡大によって、デリバティブ取引や国際金融業務の多様化が行われた結果、これまでの信用リスク・市場リスク以外にもオペレーショナルリスクを取り入れることが必要となったことによります。見た目は大幅な改定はありませんが、銀行内部ではその対応に追われたため、管理コストが増大したと言えます。
2007年から2008年にかけて世界的な金融危機が起こりました。これにより、バーゼル委員会は銀行の自己資本の質の向上や、リスク管理を強化する点から様々な活動を行ってきました。これらを総称してバーゼルⅢといい、自己資本の内訳に、質の高い資産の保有義務など、以前の規制よりも厳しい規制となっています。以前はランクの高い資産として認められていたものも、ランクを下げさせることにより、一層安全資産の保有を義務付けたものとなります。これらにより、銀行はより安全資産の投資へシフトすることとなり、ブランド等の目に見えない資産についての投資は消極的となりました。この余波は、中小企業への貸し出しに大きな影響を与えたため、現在では日本政府は金融緩和等を利用して景気回復に努めていることになります。
先述の通り、BIS規制は優良資産で構成される自己資本と総資産の比率を8%もしくは4%以上保つことが義務付けられていました。それでは、どうすると引っかかるのでしょうか。一言で言うと、自己資本が減少することがBIS規制に引っかかる最大の要因となります。例えば、貸出先の企業が返済を滞ったり、純資産が目減りしたりすると、当該企業への貸付金の評価は下げなくてはならなくなります。評価が下がると、それだけ自己資本が減少し、結果として自己資本比率が低下することとなります。また、貸出金の担保としている不動産の価値が下がることも要因となります。例えば10億円貸し付けている先が倒産しそうなので、当初15億円相当の土地を担保として差し入れられていたとしても、土地の価値が5億円まで目減りすれば、単純に5億円貸し倒れるリスクが高まり、その分自己資本が減少し、自己資本比率が低下することとなります。他にも、安全だと思って投資していた企業の株式を大量に保有していたところ、何らかの原因で当該企業の純資産が大幅に目減りしてしまって、株式の価値が下がってしまう例もあります。これらのように、銀行が持っている資産の回収リスクが高まるほど、それに見合った引当金という負債を計上しなければならず、結果として自己資本比率を低下させ、BIS規制に引っかかる要因となりえるのです。
こうしてBIS規制に引っかかると最悪銀行業務ができなくなり、他行に合併されるなど、銀行が存続できなくなる可能性があります。