「環境会計」とは、ESG経営・SDGsとも深く関わる概念。企業における環境保全活動にかかる費用とその効果を数値化したものです。本記事では、環境会計の概念と、具体的な導入事例について解説します。
企業の環境にかかわる活動は、CSR(社会的責任)に対する意識の高まりとともに、クローズアップされてきました。非財務的な情報であるこの取り組みを、貨幣単位で測定・評価し、会計情報として伝達するために生まれたのが「環境会計」です。持続可能(サステナブル)な社会をめざす意味で「サステイナブル会計」などと呼ばれることもあります。
環境負荷や環境保全の費用と効果を、可能な限り定量的することでかけたコストと得られた効果を数値化して表わします。
現在注目されているカーボン・オフセット、カーボン・ニュートラルの考えは、二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスの削減がそのベースにあります。企業が投資を行い、費用をかけてCO2削減に取り組んだのであれば、財務情報にもそのコストや効果を反映させようというのが環境会計の基本的な考えです。
これまでの利益追求型の考えでは、地球環境は早晩立ちゆかなくなります。環境問題はお金ばかりかかって利益を生まないという見方もありますが、中長期的に見れば、エネルギー関連費が削減だけでなく企業価値の向上につながります。環境を保全し、資源の枯渇を防ぐことは、これからの企業の存続にとって不可欠です。
日本における環境会計については、システム化が2000年頃から進められ、環境省によって2002年・2005年にはガイドラインの改定が行われました。
環境省の「環境会計ガイドライン2005 年版」によると、環境会計とは「企業等が、持続可能な発展を目指して、社会との良好な関係を保ちつつ、環境保全への取組を効率的かつ効果的に推進していくこと」と定義されています。
国内において、大企業ではすでに多くが環境会計に取り組んでおり、ガイドラインの基準に準拠した報告を公式サイトなどで行っていますが、中小企業にはまだ十分に浸透していない状況です。
環境会計には企業外部へ報告し、環境コミュニケーションのツールとして役立てるという目的だけでなく、企業内での意識を高めるという役割もあります。持続可能な社会を目指す上で、環境会計の考え方はこれからますます重要になってくるでしょう。
「環境会計ガイドライン2005 年版」によると、環境会計ではかるものは以下の通りです。
財務会計による集計を利用して環境保全コストを集計するためには、財務会計上の「費用」を、最初から環境保全対策による者と関連付けて分類しておく必要があります。
企業によって、環境会計はどのように開示されているのでしょうか。具体的な事例を見ていきましょう。
「環境会計ガイドライン(2005年版)」に準拠し、金額ベースで算出した環境会計を公開しています。
2019年度の環境保全コストは244億円、環境保全効果は、水道光熱費などの削減と、化学物質削減量を合わせて116億円です。
出典:TOSHIBA 環境会計
「環境会計ガイドライン(2005年版)」に準拠し、金額ベースで算出した環境会計を公開しています。
2019年度の環境保全コストは投資額が約29億円、費用が約63億円、環境保全効果は、省エネルギーによるエネルギー費の節減額で約16億円です。
1997年より環境基本方針と環境行動指針を定めて具体的な活動を実施しています。
具体的な取り組みとしては、水質汚濁を防止する排水処理設備、メイク製品製造時の粉体が大気や排水を汚染するのを防止する集塵機や汚泥乾燥機の増強、および振動や騒音の原因となるコンプレッサーの代替等を行っています。
回収した粉体は堆肥へリサイクルしたり、工場の自家発電など、様々な取り組みが特徴です。
2018年度の環境保全コストは投資額が約5億円、費用が約83億円、環境保全効果は、省エネルギー、省資源による費用節減が252万円、資源再利用による廃棄処理費の節減が353万円です。
環境会計は、すぐに利益につながる指標でありません。しかし「企業がどれくらい環境活動に貢献しているか」を数値化して公表することは、企業のブランドイメージを向上させるだけでなく、長い目で見ると社内のコスト削減や環境意識の醸成にもつながります。
環境に配慮した経営を行うことは、もはや世界的に企業の義務ともいえるでしょう。企業が環境のことをどう考えているか、その姿勢が環境会計を作成しているか、中身のあるものにしようとしているかに現われるのです。まずは、水道光熱費などの削減から取り組んでみてはいかがでしょうか。