M&Aなど、企業を買収する際によく登場するのが「EBITDA倍率」という単語です。いざ社長から「この会社のEBITDA倍率は?」や「このEBITDA倍率だと、この会社は買ったほうがいいの?」と聞かれても理解ができていないと困りますよね。
このEBITDA倍率という用語は、世界的に使われているものであり、経理担当者や会計系の業務を行う上では必須のものとなります。ここでは、EBITDA倍率の意味や、どれくらいのEBITDA倍率であればその企業を買収すべきか、事例を交えながら解説をしていきたいと思います。
EBITDA倍率の読み方は、「イービットディーエー」であったり「イービットダー」であったり、様々な読み方があります。これに関してはどちらでも間違いではないので読みやすい方で結構です。EBITDA倍率は、EV/EBITDA倍率という単語のセットで使われることが多いです。ここでEV(イーブイ)とは企業価値を言い、評価対象会社の株式時価総額と、純有利子負債(有利子負債-現預金)及び非支配株主持分を合計した金額で、大株主に帰属する価値とその他の株主に帰属する価値の合計を言います。
一方で、EBITDAとは、利息支払い前の税引前償却前利益を意味し、一般的には営業利益+償却費(減価償却費やのれん償却費)となります。これは、営業利益から計算する方法ですが、税引前当期純利益+特別損益+支払利息+償却費という計算式でも基本的に同じ結果となります。
以上から求められたEVをEBITDAで割ることで、EV/EBITDA倍率が求められます。この倍率が意味することは、企業を買収した際に投下した資金を、その買収した企業の利益で回収しようと考えた時に何年かかるかを示しています。数値が高ければ回収により多くの年数がかかり、数値が低ければ短い年数での回収が期待できます。つまり、数値が低ければ低いほど割安と考えられます。
EBITDA以外で企業価値を表す方法として、ROE(自己資本利益率)等があります。確かにROEは自己資本に対する獲得利益率を表すことができ、投資の効率性が判断できるため、利用するメリットは多いですが、国ごとの金利や税率の違いが反映できないので、企業価値の国際間比較が難しいことがデメリットとなります。また、利益率が低くても、過小資本である場合に良い結果が出てしまうこともあります。
一方で、EBITDAは金利や税金やキャッシュフローを伴わない減価償却費を差し引く前の利益を基に算定されるため、国際間比較をすることができることや、純粋な営業上のキャッシュフローに着目できるという利点があります。
国際間比較をすることにそれほどメリットを感じないという意見もありますが、製造業を中心として、昨今のM&Aは国を超えて行われることが多く、以前よりこのメリットが高まっていると言えるでしょう。現に、ほとんどの企業買収のエージェントのレポートにはこのEBITDAを参考指標として記載されています。
EBITDAの計算式は営業利益等から算出されるものであり、過去のものを利用した場合は将来の営業利益は加味されていません。よって、現在は割安な結果が出たとしても将来も同様の水準で利益が出ることが限らない場合は意思決定を誤る可能性があります。
また、EBITDAでは設備投資や今後の資金調達の可能性を考慮に入れていない点もデメリットとして挙げられます。現状の設備が老朽化しており、早急に設備投資が必要な場合はより多くの資金が必要になりますし、その際に追加で借入をした場合は返済すべき金額が増えることになります。
別の見方として、購入側は将来のEBITDAを重視するため事業計画の合理性を重視し、そこから求められたEBITDA倍率を利用しようとします。一方で、売却側は過去の実績からEBITDA倍率を重視するため、両者の感覚にズレが生じることが多々あります。これらの調整は数値のみではできず、最後は両者のメリットデメリットを勘案して、両社が歩み寄ることで売買価格が決定されることになります。
一般的には、EBITDA倍率は8倍~10倍が適正であると言われています。これは、投下資本が8年から10年で回収されれば投資は成功だと過去の経験値から推定されるものです。では、10倍を超えたら割高で買わなければ良いかというと、企業の置かれている環境によって結論は大きく異なります。例えば、景気に左右されず安定している業種であれば10倍を超えていても安定収入ということで購入に踏み切ることもあるかもしれません。反対に、飲食業やアパレル業等流行に左右されやすい業種では5倍であったとしても考えた方が良いかもしれません。また、自社の持つ技術とかけ合わせれば投資の回収が加速的に早まる等、他の要因がある場合は10倍を超えていても割安と感じるかもしれません。
このように、EBITDA倍率は一般的な指標であって、他の要素と総合的に勘案して結果を導くことが大事となります。M&Aでしか自社の成長戦略が描けない会社にとっては重要な指標になりますし、一方で再生が得意な企業であれば、買収先にどれだけ資源を投入できるかが重要な材料になるかと思われます。