2019年4月1日より、有給休暇を年に5日取得できるようになりました。これは「働き方改革関連法案」の成立が関係しており、会社には有給休暇の義務化が課せられています。ところが、あまり世間に有給休暇の義務化に関する知識が広まっていないのは、なぜでしょうか。今回は、有給休暇の義務化について解説していきます。
これまでは有給休暇を取得しにくい雰囲気の会社が多く、日本における有給休暇取得率は世界でも最低レベルだといわれてきました。厚生労働省が2018年に実施した「有給休暇の取得率に関する調査」によれば、従業員が取得できた有給休暇は年間で9.3日という結果となっています。ただし、これは国内の民間企業を対象にした「平均値」であり、実際にはもっと少ない日数しか有給休暇を取得できていない従業員も数多くいるでしょう。
ところが「働き方改革関連法案」の影響で、2019年4月1日より「年間最低5日」の有給休暇を従業員に取得させなければならない旨が会社に義務化されることになりました。この有給休暇の対象となる従業員とは、正社員や契約社員だけではありません。出勤割合が8割を超えていれば、パートやアルバイト従業員も対象となります。詳しい対象者は以下の通りです。
条件さえ満たせば、正社員だけではなくパートやアルバイトの従業員まで対象となる有給休暇の義務化ですが、あまり話題になっていません。これは2018年10月に転職サービスを展開している「ワークポート」により行われたデータからも明らかです。転職を希望している20~40代の男女、480名に「有給休暇の義務化について知っているか」と回答を求めたところ、なんと半数以上もの人が「知らない」と答えています。2018年10月といえば、ちょうど有給休暇の義務化の施行が開始される半年前です。それにも関わらず、これほど認知度が低いのです。
また、日本商工会議所による調査結果も同じような状況を示しています。日本国内の中小企業の約2,900社を対象に同じく回答を求めたところ、約3割の会社が「知らない」と回答をしたことが公表されているのです。そもそも会社側が有給休暇の義務化を把握できていないのですから、従業員に認知されていない状況が生まれていてもおかしくはありません。なぜこれほど認知度が低いのか、疑問に思う人も多いでしょう。専門家の意見によれば、日本の従業員の有給休暇に関する意識の低さが原因だとされています。つまり、有給休暇を取得できない状況が当たり前になってしまっているのです。
有給休暇の義務化が施行されたことにより、会社は従業員に対し「有給休暇を取得したい時期の希望」をヒアリングする必要がでてきました。そして、会社の繁忙期などを考慮し、時期や日時などを指定するかたちで有給休暇を従業員に取得させなければいけません。
ちなみに「年間最低5日」の有給休暇は、従業員の平均日数ではなく、従業員ひとりあたりの有給休暇の日数です。そのため、従業員のなかで1名でも5日以上取得できていなければ、その会社は有給休暇の義務化に違反したと見なされます。
ただ、なかには夏休みなどの長期休暇を有給休暇として定めている会社もあります。このような会社においては、それほど有給休暇の義務化の影響を大きく受けることはないでしょう。問題は、このような長期休暇などを有給休暇として定めていない会社です。特に、パートやアルバイト従業員を多く雇用している小売業界や飲食業界においては、大きな影響が予想されます。
では、もし会社が有給休暇の義務化に違反をした場合、どうなるのでしょうか。実は、有給休暇の義務化に違反をした会社には、雇用主を対象に30万円以下の罰則が課せられます。そしてこの30万円以下とは、従業員1名についての罰金です。そのため、10名の従業員に対して違反が行われていれば、罰金は300万円となります。このような大きな額の罰金を払う状況を避けるためにも、会社側が従業員の有給休暇の取得状況を常に意識しておく必要がでてくるといえるでしょう。
2019年4月1日より有給休暇の義務化が施行されています。ただ、この有給休暇の義務化の認知度が低く、大きな話題になっていません。また、従業員が知らないだけではなく、会社も把握できていない状況が調査結果から明らかとなっており、これは明らかに問題だといえます。今後の政府の対応、会社側の対応を注視していく必要があるでしょう。