特別目的会社は、資産の流動化を目的として設立される企業です。資産の流動化という特定の目的のために設立される会社であることから、特別目的会社と呼ばれます。バブル崩壊後、日本では特別目的会社の設立が盛んに行われました。この記事では、特別目的会社のメリットとデメリットなどについて詳しく解説していきます。
特別目的会社(SPC:Special Purpose Company)とは、資産流動化を目的とし、資産を受け入れると共に、その資産価値及び将来の収益価値を担保に資金調達を行い、投資家に対し対象資産の運用・処分から生じるキャッシュフローを分配する法人のことを言います。
特別目的会社は、類似の機能を持つ信託、組合を含めてSPE(Special Purpose Enterprise)、SPV(Special Purpose Vehicle)とも呼ばれることがあります。日本において特別目的会社として用いられる法人には、主に、会社法に基づく株式会社、会社法に基づく合同会社、資産流動化に関する法律(以下では「資産流動化法」と言います)に基づく特定目的会社が存在します。この記事では、それらをまとめて特別目的会社としています。
特別目的会社の設立場所は国内のみならず、タックスヘイブンと呼ばれるケイマン等の海外の場合も多くなっています。
特別目的会社は、特定の資産から生じるキャッシュフローと複数の投資家とを結ぶ導管(「ビークル」とも呼ばれる)の役割を果たすことだけを目的とするため、特定の資産以外の資産の運用は原則として認められず、また、自らが運用機関となることは認められていません。したがって、特定目体会社の機関構成は簡素化されており、特定資産と余剰資金及び資金調達の管理業務のみを行っています。
たとえば、不動産開発をしたいA社が特別目的会社を設立し、その「箱」に不動産という投資資産を譲渡します。特別目的会社は、その不動産の信用力を担保に有価証券を発行して投資家(A社が入るケースもあります)を募り、投資家からの出資と金融機関からの借り入れなどを原資に、開発を進める。投資家には、その事業から得られた利益が分配されるというのが基本的な特別目的会社の仕組みです。
特別目的会社は、証券化(securitization)を実施するために設立されることが知られています。ここで証券化とは、事業会社や金融機関等の企業が特定の資産を特別目的会社に譲渡して、その資産から生じるキャッシュ・フローを原資として支払いを行う証券(Asset Backed Securities: ABS)を発行するという一連の取引のことを言います。つまり、証券化の結果、不動産事業に必要な大型の資金について銀行から融資を受けたり、多くの投資家に持分を売却することにより資金を調達する事が可能となるというわけです。このように、不動産を小口化し、多くの投資家に売却する仕組みを「不動産の証券化」と呼びます。
資金調達をしようとする企業は、特定資産を特別目的会社(特別目的会社)に売却し、特別目的会社が発行者となって社債またはコマーシャルペーパーを発行します。この場合、その特定資産はオフバランス(貸借対照表に計上されないもの)となります。したがって、資金調達をしようとする企業の貸借対照表には、特別目的会社を使って資金を調達したことは計上されません。したがって、貸借対照表をスリムにすることができます。
まず、親会社(オリジネーター)は、自身が保有している資産を譲渡するための受け皿として特別目的会社を設立し、特別目的会社は、親会社から譲り受けた資産に対応する証券を発行して投資家に売り出します。特別目的会社が発行した証券を購入した投資家は、証券の代金を特別目的会社に対して払込み、その資金が譲受資産の対価として親会社に支払われます。特別目的会社が発行する証券には、社債・優先出資証券・特定資本などがある。優先出資証券は、議決権のない優先株式に相当するものであり、特定資本は、普通株式に相当するものです。特別目的会社は、譲受資産を活用して得た収益から特別目的会社が発行した証券を購入した投資家に対して社債利息や優先配当を支払っていきます。
また、発行されたABSのような証券は、その企業の収益力全般ではなく、このオフバランスとなった特定資産を裏付けとしているので、ABSのような証券の格付けもその特定資産の信用度の格付けとなり、企業本体より格付けの高いことが多く、そのため企業にとって有利な調達手段となっています。証券化は企業の信用力ではなく、対象となる資産から生じるキャッシュ・フローに依拠した資金調達を可能にします。企業が保有・運用する不動産を関係者の企業の倒産等のリスクから切り離すことにより、投資家や銀行は、企業の信用度を考慮する必要がなくなり、その不動産が生み出すキャッシュフローのみを対象として与信判断することが可能となるわけです。
たとえば、親会社(P社)は信用力が低く、業績不振だが(ここではわかりやすくするため便宜上 C ランクとする)、保有している資産の信用力は高い(ここではわかりやすくするため便宜上 A ランクとする)とします。一般的に考えれば、C ランクの企業に対して投資する投資家等は少ないと考えられます。そのため、当該企業は投資家からの資金調達が困難であり、また金融機関等からの借入も困難となります。しかし、P社にはA ランクの資産があり、これを利用することによって資金調達が行いやすくなり、また資金調達コストを抑えることができると考えられます。
つまり、P社は、特別目的会社(特別目的会社)を設立し、ここにAランクの信用力を有する資産を譲渡することによって、有利に資金調達を行うことができるということです。また、資金調達コスト削減のメリットが仮になかったとしても、企業にとっては資金調達の手段の多様化が可能になるというメリットもあります。
特別目的会社の親企業は、保有する不動産や債権を子会社である 特別目的会社に譲渡し、特別目的会社は譲り受けた資産をもとに資産担保証券 (ABS) などの有価証券を発行して投資家から資金を集めます。そこから生じる運用益を株式における配当と同様の形で投資家に分配していくことになりますが、これによって、親企業には債券の早期回収というメリットが生じることになります。
この観点(資金調達という観点)からいえば、特別目的会社は、資産の元の所有者(オリジネーター)の倒産リスクや信用リスクを切り離すこと、および、証券化取引の関係者の倒産リスクを排除することに役立てられています。また、ABS の取引単位を小額にすること(小口化)や、優先・中間および劣後部分といったいくつかのリスクとリターンが異なる債権に分解したうえで、 ABS を発行することなどの役割を担っていることもあります。以下では、もう少し詳しく特別目的会社のメリットとデメリットを説明していきましょう。
特別目的会社の設立にはいくつかのメリットがあります。第1に、資産を譲渡する側、出資側双方とも、特別目的会社は連結対象外とされていることです。たとえば、特別目的会社に出資する企業の立場に立ってみると、大きな不動産投資を実行した場合、通常ならそのぶん自社の貸借対照表が膨らみます(大きくなります)。リスクゼロではない資産や負債を、BSに計上しなければなりません。しかし、特別目的会社という「外の会社」を使えば、オフバランスすなわち「簿外取引」として処理することができるというわけです。自ら不動産を抱えることなく、スリムなままで収益を享受するスキームを作ることができます。
第2のメリットは、資産を譲渡する側にとって、ローンのリスクが限定されるということです。特別目的会社が不動産開発などのために借りるのは「ノンリコースローン」といって、返済はその事業の収益などに限定することができます。通常のローンの場合、金融機関は直接個人や法人に貸し付けますよね。ある会社が自前で不動産開発をしたのだけれど、事業がうまくいかず、その不動産を売却したとします。もし不動産の価格が値下がりしていて、開発時に借りたローンの返済額に足りなかったら、そのぶんも支払い義務が生じることになります。これに対して特別目的会社が借りるノンリコースローンの返済は、その不動産にしか「リコース」(遡及)しません。特別目的会社に物件を譲渡した法人や投資家は、べつに特別目的会社の受けた融資の保証人になっているわけでもありませんから、仮に不動産価格が下落した場合にも、それによって返済リスクが高まるようなことはないというメリットがあります。
最大のデメリットは、特別目的会社を導入した場合の関係者が多岐にわたり、スキームとして非常に複雑な仕組みになる点で、その分コスト(手数料)も通常の不動産売買と比較すると嵩んでしまう可能性があるということです。具体的には、特別目的会社の設立にあたっては、信託銀行や債権回収会社(サービサー)、会計士事務所、弁護士事務所が様々な局面で絡んでくることになります。また、不動産物件の査定においても、鑑定会社や建築事務所等のコストが発生します。これらのコストに見合った収益性が特別目的会社にないと、特別目的会社のメリットを享受することができなくなるので注意が必要です。
ただし、2021年現在は、上記で説明したメリットは限定的なものとなっています。基本的に、「特別目的会社を連結対象から外せるのは、資産を譲渡した側のみ」と改められています。特別目的会社の複雑化、多様化により、一部で取引の実態が見えにくくなったことや、国際会計基準への適合要請が、背景にあります。特別目的会社の会計上の取り扱いについてはもう少し詳しくあとで説明しますが、まずは特別目的会社がどのような歴史を経て展開されてきたのかを確認していきましょう。
日本において、特別目的会社は、金融機関の不良債権を処理し、塩漬け(価値の下落などによる長期所有)となった不動産を流動化するため、1998年(平成10)に特別目的会社の設立を容易にする「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律」(特別目的会社法)ができたことによって誕生しました。
「資産流動化法」は、バブル崩壊で冷え込んだ不動産市場を再び活性化させようという意図を持ったものでした。だから、資金調達する側も投資家側にとっても、いろんなメリットがあり、それが活用件数の増加に結びついたわけです。
2000年には、同法を改正・改題した「資産の流動化に関する法律」(改正特別目的会社法)が施行されて、特別目的会社の最低資本金の引下げ(300万円から10万円)や登録制から届け出制へと移行したことによって、より簡単に特別目的会社を設立できるようになりました。日本の特別目的会社法に基づく特別目的会社は、特に、「特定目的会社」とよばれて、ほかの特別目的会社と区別されています。
特別目的会社を通じて日本企業が本社資産を証券化して財務を健全化するなど、特別目的会社は日本で急速に普及していきましたが、2001年に経営破綻(はたん)したアメリカのエネルギー大手、エンロン社は特別目的会社を決算操作に悪用していたことが発覚しました。それによって、欧米からは日本の特別目的会社は情報開示が不透明との批判もあり、特別目的会社規制を強化すべきだとの論議が起きています。結果として、2021年現在、特別目的会社を設立する場合には、様々な規制がかけられています。
従来、特別目的会社は、基本的に投資家と原債権者を繋ぐ役割に特化した会社で、意思決定を下す組織がないため、単なる「箱」に過ぎないとの考えから連結対象とはなっていませんでした。しかし、近年は特別目的会社を利用した粉飾事件が問題となったことから会計基準が見直されて、現在は実質的に支配下にあると考えられるものは連結対象となります。
特別目的会社の設立は、もともと証券の流動化を目的としたものです。これは特別目的会社に関する法律が変わった今も変わっていません。しかし、特別目的会社が粉飾決算や租税回避などを目的として利用されることが多くなり、エンロン事件を経て特別目的会社への規制は多くなってきました。
そのため、現在では、特別目的会社を設立するメリットは限定的なものとなっていますし、特別目的会社を設立することにコストが嵩むようになった結果として、特別目的会社のメリットはあまり多くなくなっています。特に、中小企業などにおいては、メリットよりもデメリットの方が大きくなることが多くなります。なぜなら、中小企業はそもそも資金調達が困難ですし、収益性の高い資産を保有していることが少ないからです。むしろ、コストばかりが嵩んでしまい、メリットはかなり限定的なものとなるでしょう。