株式会社であれば株主名簿を備え置くことは義務になっています。株主名簿は単なる書面ではなく、その記載・記録に法的な効力が与えられている重要な書面です。株主名簿の作成については会社法にも明文化されています。したがって、会社の大小に関わらず株式会社は株主名簿をきちんと作成・整備しておかなければなりません。
株主名簿とは、株式会社がその株主を把握するために、株式会社が作成して会社に備え置いておくべき帳簿のことをいいます。株主名簿の作成は会社法で義務付けられており、またその記載内容も会社法に定められています(会社法第121条)。
第121条 株式会社は、株主名簿を作成し、これに次に掲げる事項(以下「株主名簿記載事項」という。)を記載し、又は記録しなければならない。 一 株主の氏名又は名称及び住所 二 前号の株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数) 三 第1号の株主が株式を取得した日 四 株式会社が株券発行会社である場合には、第2号の株式(株券が発行されているものに限る。)に係る株券の番号 出典:会社法| e-Gov法令検索
会社側が株主が誰であるかを把握するためだけのものではなく、株主側からも自分が株主であることの証明となるため、株主名簿は出資者のためのものという位置づけです。
株主名簿は、株式会社であれば必ず用意しなければならないものですが、国内の会社の大多数を占める中小企業・閉鎖会社においては、株主名簿を備え置かず、そもそも作成義務すら果たしていない会社が数多くあるのが現状です。
上場会社など、多数の株主が存在する会社であれば、株の配当業務や定時株主総会の実施の際などに株主名簿を利用します。しかし、中小企業や閉鎖会社では、株主が親族などごく一部の関係者に限られている・定時株主総会すら実施されていない実務慣行がある・純利益を内部留保に回し配当しない企業が多数ある、などの理由から、株主名簿を利用する場面がそもそもないことが理由となっています。
株主名簿に記載された株主は、株式会社に対して、当該株主についての株主名簿に記載された株主名簿記載事項を記載した書面の交付を請求することが可能です(会社法第122条1項)。
また、株主は、株式会社の営業時間内はいつでも、正当な理由があるときは、株主名簿の閲覧を請求することが可能です。
さらに、会社法第125条では、株主名簿を会社の本店に備え置かなければならない旨(つまり保管義務)が定められています。
会社法に基づく株主名簿の作成・保管義務には例外規定がありません。そのため、たとえば、個人事業主が法人となったような一人社長の会社の場合であっても、株主名簿を作成・保管しておかなければなりません。もし株主名簿の作成・保管を怠ってしまうと「百万円以下の過料」が課せられることが会社法第976条で定められて います。
なお、会社法第121条第4項で記載されている「株券の番号」とは、紙の株券を発行する際に、それぞれの株券に記載する番号のことを意味しています。近年は、株券を発行する企業はほとんどありません。株券を発行していない企業の場合には、株券不発行と記載することでこと足ります。
株式の取得者は、株主名簿の名義書換えをしなければ会社に対して自身の株主としての権利を行使することはできないことになっています。したがって、会社は、株主が交代したことを知っていたとしても、株主によって名義の書換請求がなされない限り、名簿上の株主を株主として取り扱えば足りることになります。
また、株式会社は、株主に対して通知又は催告を行う場合、株主名簿に記載・記録された株主の住所に行えば足り、たとえ到達しなくとも通常到達すべきときに到達したとすることができます(通知・催告に関する免責:会社法126条1項、2項)。
株主が引越し等により住所の変更があった場合、株主が会社に対して連絡をしなかったことにより、株主側が重要な通知・催告を受け取れなかったことによる不利益を負担することになります。したがって、株主総会の招集通知を発送するときに、株主と連絡が取れなくなってしまったような場合においても、株主名簿に記載されている当該株主への住所へ招集通知を発送すれば会社側の義務を果たしたことになります。
株主名簿は、株式会社であれば必ず作成しなければならないものです。しかし、株主名簿の作成・管理については代理人に委託することができます。株式会社からの委託を受けて、株主名簿の作成及び備置き、そしてその他の株主名簿に関する事務を、株式会社に代わって行う者は、株主名簿管理人と呼ばれます。
株主名簿管理人は、平成18年5月1日に施行された会社法によって新しく規定された用語で、従来の商法における名義書換代理人に相当する言葉です。証券代行機関、株式事務代行機関などと称されることもあり、通常、信託銀行等が株主名簿の管理にあたっています。
株式の新規上場を目指す企業は、金融商品取引所の有価証券上場規程にて、株主名簿管理人(株式事務代行機関)への株式事務の委託が義務付けられています。
株式事務に関する業務は、多岐にわたる専門的な知識と正確な事務処理が要求されることから、株式上場を計画している企業または株式事務の合理化や株式全般にわたりノウハウを必要とされる企業では、株主名簿管理人を設置するのが普通です。
会社法では、株式会社(発行会社)は定款をもって株主名簿管理人を置く旨を定めることができ、株主名簿管理人を設置した場合には株主名簿を株主名簿管理人の営業所に備え置くことができる旨定められています。株式会社に対して株主名簿の閲覧・謄写の請求があったときは、株式会社の指示に従い、株主名簿管理人がその事務を行うこともあります。
株主名簿管理人として信託銀行が株式会社に代わって株主名簿の管理を行うので、株式会社は株式事務を任せるとともに、株式に関する専門的なアドバイスを受けることができるようになります。
株式の売買等の情報は、株式等振替制度のもとで電子化されていることがほとんどで、口座管理機関(証券会社等)、振替機関(証券保管振替機構)および株主名簿管理人の間で情報伝達が行われており、株主名簿は振替機関(証券保管振替機構)から株主名簿管理人に対して株主確定日ごとに通知される総株主通知によって作成されるのが普通です。
株主名簿管理人は、株主総会の開催にあたって事前に株主を確定し、株主総会の開催2週間前までに株主宛てに株主総会の招集通知を発送しています。(なお、招集通知は電磁的方法(電子メール等)をもって株主総会参考書類および議決権行使書面の交付に代えることも可能です)。
さらに、株主名簿管理人は、株主の議決権行使書の集計事務を行うこともできます。(議決権の行使についても、一定の要件のもとで電磁的方法による方法が認められています。)このほか、株主名簿管理人は、株主総会において、株主の資格確認、集計作業などの補助を行うこともあります。
株主名簿は、会社法で作成の義務が定められているので、株式会社であれば必ず作成しなければならないものです。大企業では必ず作成されている株主名簿ではありますが、中小企業など株主の数が少ない・あるいは限られている会社については、そもそも株主名簿を作成していない場合も少なくありません。株主名簿を作成していないと、会社法に違反していることになり、罰金を支払わなければならないケースもあります。したがって、株主名簿をきちんと作成しておくことが大切です。