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統合報告書とは?作成する意義と具体的な内容

HUPRO 編集部
統合報告書とは?作成する意義と具体的な内容

近年「統合報告書」を作成する企業が多く見られるようになりました。法的に開示が定められた財務情報だけでなく、自社の独自の強みや経営ビジョン、知的財産などの非財務情報をまとめた「統合報告書」を作成することにはどのような意味があるのでしょうか?

統合報告書は社内外のコミュニケーションツール

企業はこれまで、自社のビジネスを通じて利益を上げ、その利益を新たな事業に投資したり、株主や従業員に還元するなどして、より拡大していくことを目的としていました。

そのような時に企業活動の報告書として求められるのは「財務情報」。決算書をはじめとした財務状況がクリーンであるかどうかを見られていたのです。

しかし、一方で、企業活動が世界の環境を変化させていることも明らかになってきました。いかに利益を上げている企業であっても、気候変動や環境汚染などの環境破壊だけでなく、国における格差の拡大など、企業はもはや経済的な利益を追求するだけの存在では、ステークホルダーたちの支持を得ることは難しくなってきたのです。

企業が存続しても、地球そのものが存続できなければ意味がありません。欧米を中心とした海外機関投資家が投資の際、企業の社会的責任を重要視しはじめ、SDGsやESG経営が注目されるようになったのは、このような背景があります。

そうした状況を踏まえて、企業が作成するようになったのが「統合報告書」です。売上や資産など法的に開示が定められた財務情報に加え、コーポレートガバナンスやCSR、SDGsへの取り組みなどの非財務情報をまとめて報告するようになったのです。

日本においても、統合報告書を発行する企業が増加しています。企業が創造する価値やそれに基づく戦略を社内外に知らせるコミュニケーションツールとして活用されているのです。

統合報告書に記載される内容

統合報告書の形式は、企業によって異なります。
統合報告書では、自社の事業がどのような価値を創造するのか、ということを様々な観点から語るからです。

経済産業省でも投資家に伝えるべき情報(経営理念やビジネスモデル、戦略、ガバナンス等)を体系的・統合的に整理し、情報開⽰や投資家との対話の質を⾼めるための⼿引として「価値協創ガイダンス」を作成しています。これはあくまで追加的な開⽰要請ではなく、企業が伝えるべき情報の全体像を体系的、統合的に整理するための⼿段です。

出典:[価値協創ガイダンス]

それでは「価値協創ガイダンス」から具体的にどのような内容が「統合報告書」にあると投資家をはじめとしたステークホルダーに伝わりやすいとされているのかを見てみましょう。

(1)価値観

企業理念、ビジョン、企業文化など、その企業の方向性や戦略のベースとなるものです。
価値観を提示することで、この後に述べるビジネスモデルからどのように収益を得るのか、どのようなことを経営課題として考え、企業戦略に落とし込んでいくのかを見ることができます。

(2)ビジネスモデル

事業を通じて顧客や社会にどのような価値を提供するのか、企業を持続させる仕組みを説明するものです。

ビジネスモデルを提示することで、企業価値をどのように創造するのか、競合に対してどのように優位に立つのか、そのために何が必要なのかを見ることができます。

これは、事業から収益を得ることに関する内容だけではありません。企業文化や暗黙知の醸成、ブランド・信用の確立からステークホルダーとの信頼関係の構築、自然環境・生態系への保護など広範囲に渡ります。

(3)持続可能性・成長性

ビジネスモデルに加えて、企業として成長しつつ、どのように持続的な価値創造を実現するのかを提示します。
例えば、ESG経営に対する認識、ビジネスモデルを支えるステークホルダーとの関わり、環境変化の中でどのように企業を成長させるのかなど、いま最も注目される箇所ともいえるでしょう。

(4)戦略

リスクに備えつつ、競争優位の源泉となる経営資源・無形資産やステークホルダーとの関係を維持・強化し、持続的なビジネスモデルを実現する⽅策を提示します。

経営資源をどのように確保・強化するのか、グローバルな社会課題であるSDGsへどのように戦略を立てて立ち向かうのか、「ヒト・モノ・カネ」をどのように配分するのかなどです。投資家から見たときに、企業に対して長期的な投資判断をおこなうかどうかの判断材料となります。

(5)成果と重要な成果指標(KPI)

⾃社がこれまでにどのくらいの経済的価値を創出してきたか、そして経営者が財務的な業績をどのように分析・評価しているかを⽰します。
数字でわかる財務的なパフォーマンスはもちろん、戦略に沿った経営計画の進捗、企業の価値をどのようなKPIで判断しているか、などです。
達成度合いに応じて、現在の企業価値をさらにどのように高めるかも見られます。

(6)ガバナンス

企業がどのように統治されているか、ビジネスモデルを実現するための戦略を着実に実⾏し、持続的に企業価値を⾼める⽅向に企業を規律付ける仕組・機能を解説します。

ビジネスモデルや戦略がどれだけ優れていても、実行できなければ意味がありません。どのような組織で戦略を実行するための経営資源を確保するのか、その公平性は保たれているのか、ちゃんと規律を作成して守っているのかなど、客観的な視点からの評価が問われる項目です。

統合報告書はどの部門が作成するの?

統合報告書はどの部門が作成するの?

株主・投資家を中心とした幅広いステークホルダーに向けて、開示する「統合報告書」。社外への報告は、担当部門が分かれているところは少なくありません。例えば財務情報であればIR、CSR報告であれば広報などです。
「統合報告書」は、その内容が多岐にわたりますので、例えば広告宣伝、IR、CSRなどのチームから統合報告書作成のためのプロジェクトを組んだり、広報部門で作成する場合もあります。

「統合報告書」は、株主や投資家だけではなく、一般顧客を含めたステークホルダーに広く開示されるため、あくまで「ステークホルダーからの視点」を忘れずに作成する必要があります。

「優れた統合報告書」とは

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は毎年、国内株式運用機関に選定依頼し、「優れた統合報告書」と「改善度の高い統合報告書」をそれぞれを選定しています。

2020年度に発表された「優れた統合報告書」は、伊藤忠、日立、東京海上ホールディングスなど11社、「改善度の高い統合報告書」は、日本ペイントホールディングス、大東建託、味の素、みずほファイナンシャルグループの4社でした。

どのような内容が「統合報告書」として評価されるのかを見ることができます。

「優れた統合報告書」への主なコメントより

「優れた統合報告書」として評価されるポイントは「わかりやすい」ことです。投資家をはじめとしたステークホルダーがほしい情報を、詳細かつ明確に提示しようとする姿勢が評価されています。
コーポレートガバナンスやグローバル・ダイバーシティ、そしてサステナビリティについての観点に加え、コロナ禍における今後のビジネスモデルの提示も評価される観点です。

伊藤忠商事

・CEO メッセージが印象的な統合報告書で、コロナ禍における問題意識、サステナビリティの考え方がよくわかる
・非財務情報を資本に紐づけている点に新規性があり評価
・重要な投資意思プロセスのリスク管理が詳細に記述されており安心感
・情報の網羅性が高い

日立製作所

・戦略をセクターごとの価値創造ストーリーで説明しており、今後の方針がよく分かる
・財務・非財務の目標、持続的成長を支える仕組み、キャピタルアロケーション戦略、イノベーションなどの説明が分かりやすく、全体の完成度が高い。
・経営の執行と分離、外国人取締役の積極採用でグローバル・ダイバーシティを徹底している

東京海上ホールディングス

・会社の存在意義、強み、これから目指す姿について、シンプルながら明快にまとめられており、持続的成長への期待が高まる内容
・Q&A 形式で M&A の実績など同社の強みを説明するなど、同社のメッセージがクリアに伝わる紙面構成
・投資家が欲しい情報を提供しようとする姿勢が評価

「改善度の高い統合報告書」への主なコメントより

「統合報告書」は出すだけではNGで、内容の詳細度合いやわかりやすさが問われます。
どのような点が改善されると評価されるのか、見ていきましょう。

日本ペイントホールディングス

・レポートの内容が全体的に充実した
・レポートを通じて企業価値創造プロセスが迫力をもって共有されており、前年までの企業紹介レポートから劇的に進歩
・特定のプロセスやマトリックスを詳細に記載し、マテリアリティごとに関連する SDGs や説明を加えることにより、分かりやすい内容

大東建託

・当社の取り巻く事業環境とそれに対する課題、取り組み等について、具体的なデータ・数値を駆使して説明しているので、非常に分かりやすい。
・コロナ禍を受けた問題意識がよくわかる社長メッセージ及び、経営目標の具体化や規制動向を受けた対応など丁寧な情報公表姿勢を評価
・コンプライアンス問題やアパート・ローン問題など、関心を持たれている課題に対して適切に説明したうえで、自社のビジネスモデルを説明

味の素

・2019 年度では事業戦略とそれを支える経営基盤としての ESG 項目が分離していたが、今年度では事業戦略に ESG 要素がより組み込まれた。企業の将来像を元にバックキャスティングし、昨年度よりも細かい非財務目標・KPI を設定
・2030 年の目指す姿として「食と健康の課題解決企業」とのビジョンが掲げられ、同社の取り組みとアウトカムが分かりやすく解説
・・2030 年のありたい姿「食と健康の課題解決企業」に向けて、無形資産投資を強化していくことが社長メッセージを通じて明確に伝わる。

みずほフィナンシャルグループ

・昨年度と比較し、『将来像』を意識した書き方に変化したことを評価。コロナ後、DX、国際・異業種など連携をうまく打ち出し、銀行業における産業構造の変化をうまく分析
・サステナビリティ KPI・目標に対する実績の開示が増えている。
・求められているガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標について、社内での取り組みのポイントを端的に纏めている。

出典先には、この他の企業についてもコメントが寄せられているほか、選定された企業一覧が添付されています。それぞれの「統合報告書」を実際に読んでみることで、求められる統合報告書のイメージをつかんでみてください。

出典:2021 年 2 月 24 日 GPIF の国内株式運用機関が選ぶ「優れた統合報告書」と「改善度の高い統合報告書」

この記事を書いたライター

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