企業の安全性を分析する指標は沢山あります。多くは貸借対照表を使った指標となるのですが、損益分岐点安全度という損益を用いた指標が存在します。今回は、損益分岐点安全度についてお話するとともに、どのようにこの指標を利用するのかを現役公認会計士が解説します。
損益分岐点安全度とは、売上高から損益分岐点売上高を差し引いたものを売上高で割ったものを言います。また、損益分岐点売上高というのは、利益がちょうどゼロとなる売上高を言います。よって、損益分岐点安全度は損益がゼロとなる売上高をどれだけ上回っているかを示す指標となります。
損益分岐点安全度は、企業が損益の余裕をどれだけ持っているかを示す指標となり、この指標が高ければ高いほど余裕を持った経営をしているということになります。
では、損益分岐点安全度を上下する要因にはどのようなものがあるでしょうか。
まず、損益分岐点が低ければ低いほど損益分岐点安全度を高めることができます。損益分岐点は、単純な計算式で言うと固定費を利益率で割って求めることができます。よって、固定費を下げれば下げるほど損益分岐点は下がると言えます。また、利益率を上げることで損益分岐点を下げることができます。
固定費を下げる方法としては、まず企業の費用を自身で管理できる管理可能費と、どうしてもかかってしまう管理不能費とに分ける作業が必要です。ここから、管理可能費の固定費を検討し、固定費を下げることが必要です。管理可能費を下げるには、買い替えすることができるコピー機の変更やリースしている車のグレードを下げるなどの方法があります。
また、利益率を上げる方法としては、変動費を見直すことが考えられます。材料の仕入れ先を変更したり、運賃の値下げ交渉を行ったりすることが含まれます。
このように損益分岐点を下げることで、損益分岐点安全度を上げることができます。
また、損益分岐点を変更できない場合は、単純に売上高を伸ばすことで損益分岐点安全度を高めることができます。
では、損益分岐点安全度はどのような局面で使用されるのでしょうか。
まず、企業全体としての損益分岐点安全度を見る場合をお話します。企業全体での損益分岐点安全度を見るのは、企業に投資や貸付を行う際にその企業が安全であるかどうかを検証する場合に用いられます。具体的には銀行が貸付を行う場合や企業が安全な投資を求めている際に損益分岐点安全度を使います。
企業全体ではなく、店舗ごとに損益分岐点安全度を用いることも多くあります。企業が多店舗展開をしている際に、どの店舗を撤退するかを判断する時、その店舗単体でどれくらい利益を生んでいるかを考えます。
しかし、大きな店舗と小さな店舗を同列に比較することはそれぞれの店長のモチベーションを下げることになるので、損益分岐点安全度を使って評価することが考えられます。損益分岐点安全度があまりにも低い店舗は撤退を考えますし、逆に高い店舗は評価すべきと考えられます。
損益分岐点安全度は、企業全体の安全性と店舗ごとの採算を見ることができることをお話しました。しかし、損益分岐点安全度は損益のみで考えるため企業や店舗ごとの体力を見ることには適していません。
そこで、損益分岐点安全度と他の指標を併せて企業や店舗を評価することが考えられます。
まず、企業全体の安全度を判断する指標としては自己資本比率を用いることがよくあります。自己資本比率は、資産から負債を差し引いて計算された自己資本を、総資産で割って計算されます。この指標が高ければ高いほど企業が安全であると考えられ、これに加えて損益分岐点安全度が高ければより安全な企業であると言えます。
また、店舗ごとの損益分岐点安全度に加えて、店舗ごとのフリーキャッシュフローを見ることも有用です。というのも、固定資産が多額に計上されている店舗の場合は損益分岐点安全度も低くなりがちですが、撤退をしてしまうと多額の固定資産除却損が発生してしまいます。
つまり、損益のみで撤退を判断してしまうとかえって赤字が出てしまうのです。これを、フリーキャッシュフロー(損益に減価償却費を足した金額)を基に撤退するかどうかを考えれば、将来的には減価償却費の負担がなくなり、黒字に転換する可能性も出てきます。
損益分岐点安全度は損益分岐点をどれくらい上回っているかを示し、安全度を見る指標となります。しかし、それだけを見てしまうと企業の本来の安全性を評価できない可能性があるため、自己資本比率やフリーキャッシュフロー等を総合して判断する必要があります。また、損益分岐点安全度をより高めるためには損益分岐点を下げることが必要であり、固定費の見直しや利益率の改善をする必要があると言えます。