前編では、石井雅也氏のサイバーエージェントに入社するまでのご経歴とキャリア形成における大事な考え方を中心に聞きました。
今回は後編として、管理の仕事に対する思考法やサイバーエージェントからエキサイトへ転職する際の経緯、今後のビジョンについてお伺いした内容をお伝えしていきます。
【前編】のコラムはこちらから
【ご経歴】
1998年 | 大手重工メーカー入社 |
2002年 | コンサルティング会社入社 |
2004年 | 株式会社サイバーエージェント入社 |
2019年 | エキサイト株式会社入社 |
―管理部ではストック型の思考で学習し仕組み化することが大事ということでしたが、やはり若いうちから量をこなして蓄積していくということですか?
そうですね。「量」というのは「質」に転換できます。ただし、無駄に量をこなすだけではいけません。やはり、目の前の仕事を一つずつ丁寧に取り組むべきです。
若いうちは「あれもしたい、これもしたい」と、色んなことに手を出したいと思います。でも、まだ実績も何もないうちは、とにかく目の前の仕事に集中して、成果を出し、仕事における“信頼残高”を積み上げる必要があります。そうした信頼があるからこそチャンスが巡ってきます。
あともう一つ、必要な無駄を意識するということです。基本的には、どんな仕事や経験にも無駄なことなどありません。仮に「この仕事意味ないな」と思ったとしても、その仕事をもっと効率化できる方法を考えれば良いですし、「嫌な上司だ」と思ったなら、こうなってはいけないと反面教師にして自分の成長に活かせば良いだけです。
特に若い頃はこうしたスタンスで、目の前の良い面も悪い面も、両方を学びとして大事にすることが重要です。「自分はこんな仕事をしたくてこの職場に来たわけじゃない」とか「これは自分の仕事じゃない」とか思った瞬間に成長は止まってしまいます。もう学べるチャンスが無くなってしまいますからね。
―確かに若い人で仕事を選んでしまうというのは多いですよね。成長を求めすぎてしまうがあまり、厳選してしまうというか…
社会人というのは、上のポジションにいけばいくほど、仕事ができる幅の広さは重要になってきます。結局、総合力勝負です。「これはできるけど、あれはできない」といった型にハマってしまったら、将来的な伸びしろは無くなります。
私自身、「目の前の仕事」にはもちろんこだわりを持っていますが、「何をやるか」についてはあまりこだわりを持っていないです。
―先ほどの、ストックできるもののイメージとして、知識と経験が思いつきますが、双方をどのようにして増やしていくべきだと考えていますか?
何かを経験する際に知識をセットでつけるようにしています。初めて経験するものは分からないことばかりなので、経験する際にきちんと調べることが大事です。
今の時代のスピード感だと、学んでから経験していては乗り遅れてしまいます。仕事をする中で、やるべき仕事はとにかくやるというスタンスでまずは仕事を受け、そこから徹底的に調べて必要な知識をつければ良いと思います。知識と経験はセットで、むしろ経験が先という感じです。
―エキサイトに入社した経緯を詳しく教えてください
サイバーエージェントでは、非常に恵まれた環境、待遇で仕事をさせてもらっており、何の不安、不満もありませんでしたが、その一方で、このまま挑戦しないでビジネス人生を終えるのも嫌だなという思いもありました。
2018年に400億円の大型の資金調達を終えて、仕事に一区切りついたこともあり、次に向かうなら今しかないと思い、何をするかも決めずに退職することだけを決めました。
次に何をしようかなと考えた時に思い浮かんだのが企業再生の仕事でした。というのも長年インターネット業界にいて感じていたのが、インターネット産業は成長産業ではあるものの、実は成長が期待されたものの伸び悩み、停滞し、結果的に上場ゴールと呼ばれてしまうような企業が数多くあるということでした。
既存のPEファンド等では手を出しにくい業種で、再生するプレイヤーもいない状況だったので、ネット企業の再生に社会的意義と大きなビジネスチャンスを感じていました。
そんな中でXTechがエキサイトをTOB(株式公開買付け)するニュースを見て、まさに私が求めていた仕事だったこともあり、ぜひ関わりたいと思いました。XTechの代表の西條はもともとサイバーエージェントのCOOでしたので、TOB成立後にコンタクトを取り、直接話を聞いて一緒に取り組ませてもらえることになりました。
これも先ほどの振り子の理論と同じで、サイバーエージェントではベンチャーが急成長し大企業になっていくまでを経験していたので、成熟から衰退に差し掛かっていたエキサイトの再生の仕事は、真逆の環境、経験であるというところも魅力的でした。
やはり、このように両極端なものを経験することで自分の幅を広げられますし、新たな景色を見ることができますので、自分のキャリアにおいて、こうした選択軸は昔からずっと意識しています。すべての物事や真実はこの振り子の幅の間にあり、振り子の両端を経験することで、その間の事象にすべて対応できるようになると考えています。
―エキサイトはかなり早期に黒字化になりましたが、今までのどのような経験から結果につながったと考えていますか?
一番は、今までの経験から、事業や経営判断に必要な『肌感覚』を身につけられたのが大きかったと思います。会社の適正な生産性や事業別の収益性というのは、定量的に肌感覚で分かるようになっていました。例えば、事業を見たときに、このコストが無くても売上は変わらないだろうとか、ある一部でコストが無駄にかかり過ぎているとか、そういった判断はエキサイトに入り最初から行うことができました。
そのため、入社してから3か月でコスト構造を転換させただけでなく、組織や評価制度の変更など中長期での成長を見据えた「会社の仕組み」も構築していきました。結果として入社から4か月目には黒字化することができました。
私の場合、何をやるにしてもまずは自分で全て分析を行い、隅々まで把握をするようにしています。そういったことの積み重ねが、今の肌感覚を形成していると思います。
エキサイトの再生にあたっても、入社後すぐに会計の総勘定元帳の全明細に目を通し、また、全社員との面談を行うことで、定量・定性の両面から現状を把握し、課題を洗い出し、すぐに改善施策を実行していきました。
―今は再上場を目指していると伺いましたが、再上場に向けて一番の課題だと思う部分はありますか?
既存事業は順調に拡大しているため、既存事業で生み出した収益を新規事業の立ち上げに積極的に投下しています。とはいえ、まだ十分に立ち上がっている状況とは言えませんので、新たな事業の柱を作るということを会社として一番意識しています。管理部の中でも課題はありますが、再上場に向けては業績管理が最も重要ですので、そこは常に気を付けながらコントロールしています。
他にも労務管理や内部統制、コンプライアンスなどももちろん重要になってきますが、まだ意識が弱い部分がありますので運用しながら改善していっています。
会社の仕組みを変えていく際には、事業部の人に負担をかけないということを強く意識しています。会社にとって最も重要なのは事業の成長なので、事業部の人が管理に時間を割かれ、事業に向き合う時間が減ってしまうというのは本末転倒です。事業部の人が事業に集中できる時間を作るための仕組み作りやシステム化が管理部門に求められる仕事と言えます。
―石井さんの今後のビジョンを教えてください
まずは、エキサイトの再上場です。もともと上場していた会社なので、再上場することがスタートラインだと思っています。私は会社も人も厳しい環境に身を置くことによって磨かれ、成長するものだと思っており、そういう意味でも早く再上場したいと思っています。
あとは、やはり先ほども述べたように、インターネット企業の再生のニーズはすごく感じていて、再成長できそうな会社はたくさんあると思っています。エキサイトの他にもそういった再成長の可能性がある企業の支援をしたいですし、これには特に社会的意義も感じているので、ぜひ将来的には自分の経験を活かし貢献していきたいと考えています。
─今回はお話を聞かせて頂きありがとうございました。
今回お話を伺ったエキサイトホールディングス株式会社 取締役CFO 兼 執行役員の石井 雅也氏の Twitterはこちら/エキサイト株式会社のホームページこちら