一般に、アパートやマンションを賃貸に出し、そこで収入を得ている場合、確定申告をしなくてはなりません。転勤の期間だけマイホームを賃貸に出すという場合も同様です。仮に海外転勤により日本国内に住所を有しない者と推定され、所得税法上の非居住者となる場合でも、不動産所得については確定申告をする必要があるので注意が必要です。今回は海外転勤をした場合の不動産所得の納税について解説していきます。
日本の所得税法では、居住者とは、国内に住所を有し、又は、現在まで引き続き1年以上居所を有する個人をいい、居住者以外の個人を非居住者といいます。
滞在日数のみによって判断するものではないことから、仮に海外に一定期間以上滞在している場合であっても、日本の居住者となる場合があります。たとえば、1年の間に居住地を数か国にわたって転々と移動する場合であっても、その人の生活の本拠が日本にあれば、日本の居住者となります。
海外(A国)の居住者となるかどうかはA国の法令によって決まることになりますが、A国で居住者と判定され、日本でも居住者と判定される場合には、二重課税となってしまうため、租税条約で居住者の判定方法を定めています。
日本が締結している租税条約の一例ですが、個人については、①恒久的住居の場所②利害関係の中心がある場所③常用の住居の場所④国籍の順で判定し、どちらの国の居住者となるかを決めます。
居住者であれば、当然すべての所得について納税の義務がありますが、非居住者には納税の義務がある所得とない所得があります。
日本国内で働いていた給与所得者が1年以上の予定で海外に転勤することになった場合、国内に住所を持たない人の扱いとなり、所得税法上は「非居住者」になります。非居住者が海外で勤務して得た給与に対して国内の所得税は課税されないのが原則です。一方、海外転勤前までに国内で得た給与は、出国する日までに源泉徴収された所得税を精算しなくてはなりません。ただし、会社以外に所得がない給与所得者の場合は、毎年12月に行われる年末調整と同じ方法で精算することが可能であり、確定申告は不要です。
海外転勤中も日本の所得税は課税されるため、海外転勤中の非居住者でも、国内で発生した一定の所得については納税の義務があります。たとえば、アパートやマンションを賃貸に出し、そこで収入を得ている場合(不動産所得)や、国内にある不動産を譲渡した場合(譲渡所得)がそれに当たります。
非居住者であっても確定申告が必要な所得がある点に注意が必要です。
確定申告が必要となる場合には、納税管理人を定め、「所得税の納税管理人の届出書」を、その人の納税地を所轄する税務署長に提出しなければなりません。
納税管理人とは、確定申告書の提出や税金の納付などを非居住者に代わってする人のことで、納税管理人は法人でも個人でも構いません。
年の中途で海外勤務となった年分は、その年1月1日から出国する日までの間に生じた全ての所得と、出国した日の翌日からその年12月31日までの間に生じた国内源泉所得を合計して確定申告をします。
なお、年の中途で海外勤務となった年分の確定申告書の提出期限は、出国の時までに納税管理人の届出書を提出したかどうかによって、次のように異なります。
納税管理人が、出国前及び出国後の年間を通した所得について、1度にまとめて確定申告を行います。
具体的には、その年1月1日から出国する日までの間に生じた全ての所得及び出国した日の翌日からその年12月31日までの間に生じた所得の合計額について、翌年2月16日から3月15日までの間に納税管理人が確定申告を行うことになります。
本人または納税管理人が、出国前と出国後の所得について2度にわけて確定申告を行います。
海外に出発する日までに勤務先からの給与以外の一定の所得がある場合、その年1月1日から出国する日までの間に生じた全ての所得について、その出国の時までに確定申告(準確定申告)をする必要があります。
なお、1月1日から3月15日までの間に出国する場合、前年分の所得に係る確定申告書についても、出国の時までに提出する必要があります。
上記②(1)の確定申告書を提出したとしても、その年1月1日から出国する日までの間に生じた全ての所得及び出国した日の翌日からその年12月31日までの間に生じた国内源泉所得について、翌年の2月16日から3月15日までの間に確定申告をする必要があります。
海外勤務となった年の翌年以後も、日本国内で不動産所得や譲渡所得が生じるときは、日本で確定申告が必要になります。この場合は、翌年2月16日から3月15日までの間に、本人または納税管理人が確定申告をすることになります。
(所法2、5、7、8、15、102、120、122、126、127、161、164から166、所令15、258、所基通165-1、通法117)