一般企業で呼ばれる「管理職」と労働基準法で規定する「管理監督者」を同様に取り扱う企業があります。労働基準法で規定する管理監督者は、通常の労働者に適用される法律が適用除外とされています。しかし、過去の運用を踏襲し、不適切な運用を継続していると思わぬリスクが顕在化してしまいます。労働者からの通報、労働基準監督署の立入調査に戦々恐々とし、生産性を下げない為にもここで見直しをしましょう。
労働基準法41条には、労働時間等の規定が適用除外とされる職種が含まれます。その中には、「事業の種類にかかわらず監督もしくは管理の地位にある者又は機密の事務を取扱う者」と規定されており、表現を変えると
とされています。また、名称にとらわれることなく「実態に即して」判断する必要があります。そこで、自社の「管理職」が労働基準法で規定する労働時間等の規定の適用除外に相応しい者であるか否かを峻別するチェックポイントを参考にして頂きたいです。
上記のチェックポイントをいずれもクリアする場合は、労働時間、休憩、休日の規制を除外しても違法とはなりません。ゆえに時間外割増賃金、休日割増賃金を支払う必要がなくなります。特に昨今の訴訟を精査すると会社から「管理職」とされていた原告から管理監督者性を否定し、それに伴い時間外割増賃金の遡り請求が提訴されています。結論としては、多くのケースで使用者側が負けています。この遡り請求が認められた場合のリスクとして
以上のことから、一度リスクが顕在化した場合、企業負担は甚大な額に及ぶ場合もあり得ます。
尚、大企業では2019年4月から(中小企業では2020年4月)時間外労働上限規制が法律で規定されました。確認として以下に明記いたします。
注意点は臨時的にどんなに忙しくても月の「残業100時間」には到達してはならないこと、2か月をクリアしても6か月目で超える場合もあること等です。
管理監督者であっても適用されるものを確認します。
深夜の時間帯とは22時から翌朝5時までの時間帯を指します。前述の時間外割増は「一定の時間を超過した場合」に支払いが必要となるのに対し、深夜割増は「特定の時間帯に労働した場合」が対象となります。人間には「サーカディアンリズム」というものがあり、いわゆる体内時計です。人は昔から夜は寝て朝起き、日中活動するという慣行があった為に、深夜労働はこのリズムを狂わせる要因にもなり得ます。よって、労働基準法では適用除外としていません。また、安全配慮義務については、労働契約法5条に根拠規定があります。「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と規定されています。過去の判例においても以下の点に留意しましょう。
結論としては、労働時間に規制なく働き、休憩もとらず、休日も関係なく働くことができてしまうけれども、雇用する以上は会社として健康管理等はしっかりと把握しなければならないということです。
就業規則の作成届出義務においては、管理職であっても適用除外ではありません。始業及び終業時刻や休日の記載をしないといった就業規則では労働基準法89条違法となってしまします。健康管理には留意する等、自主的な管理が肝要です。対応策としては、
が、考えられます。最も警戒すべきリスクは規定が曖昧であったゆえに個別の労働契約より就業規則の定めが有利な場合は、就業規則の方が優先してしまいます。その場合は、その就業規則の内容が「最低基準」となる為に、注意が必要です。明示的に管理職の適用される労働条件を示す意味では、後者が適切です。
リーディング的な判例として「日本マクドナルド事件」が挙げられます。店長は管理監督者に該当するか?との争いは前述の1管理職の定義を総復習に掲げたポイントを満たしておらず管理監督者には該当しないとされました。これは平成20年の判決であり、時代のトレンドではないとの反論もありますが、平成31年・横浜地裁「日産自動車事件」は年収1,200万円のマネージャーが管理監督者に該当するか否かが争われました。判決は
上記の事情を「総合的」に勘案した結果、管理監督者性を「否定」されました。
今回取り上げた判例は年収1,200万円と、一般的には好待遇と評価し得る待遇であっても、前述のチェックポイントの要件を満たさない場合は、会社としてリスクが顕在化することになります。日本国民は「2割司法」(国民の2割ほどしか適切な司法サービスを享受していない)と揶揄されていますが、訴訟ではなくとも、労働基準監督署の立入調査、ADR(裁判外紛争解決手続)などで顕在化する可能性もあります。組織である以上、一度に全てを是正することはできません。一つ一つ誠実に課題に向き合い、労使win-winの関係を築いていくことが、ひいては、組織の社会貢献及び労働生産性の向上にも資すると考えます。