売上-仕入で計算する消費税。しかし、一定の固定資産の場合は、仕入税額控除について調整が必要です。その対象になる固定資産を「調整対象固定資産」と言います。今回は消費税課税事業者が知っておきたい「調整対象固定資産」について解説。何を調整するのか?しっかり理解しておきましょう。
消費税の課税事業者は、売上に伴って消費者や取引先からもらった消費税をそのまま納税するわけではありません。仕入などで自分が払った消費税を差し引き、その差額を納税するという方法をとっています。
例えば、10,000円で仕入れたものを20,000円で販売したとすると、受け取る消費税は2000円-仕入で支払った消費税1,000円=1,000円となり、納税する金額は1,000円です。この控除を「仕入税額控除」といいます。
非常に面倒ですが、消費税の二重・三重の課税を防ぐ仕組みです。もし、受け取った消費税よりも支払った消費税の方が大きければ、その差額が還付されます。つまり、費用として計上できる金額が高いものを購入することで、消費税の支払を節税することができるのです。
固定資産を購入すると、原則、法人税・所得税の上ではその費用は耐用年数で減価償却になります。ただし、消費税上は購入時に全額控除が可能です。つまり、100万円の固定資産を仮に購入すると消費税は10万円。これを売上から仕入税額控除できるというわけです。
しかし、固定資産というのは基本的に長期間使用することを前提として購入しています。そのため、購入時の状況で仕入税額控除を行うと適切ではない場合もあります。
そのため、一定の条件に当てはまる固定資産については、翌期以降の課税期間で仕入控除税額を調整しなくてはなりません。この対象になる固定資産を「調整対象固定資産」といいます。
もともと、消費税をどのくらい納めるのか、還付されるのかは以下の式できまります。
仮受消費税(預かった消費税) - 仮払消費税(支払った消費税) = 納付(還付)消費税
また、年度によって課税売上割合に変動がある場合は、固定資産を取得した年度の課税売上割合のみで控除税額を決めると、課税が不公平になる場合があります。そのため、課税売上の状況によって仕入税額控除を調整する必要があるのです。
出典:国税庁 タックスアンサー No.6421 課税売上割合が著しく変動したときの調整
他にも、固定資産を課税業務用から非課税業務用に転用した場合や、その逆にパターンにおいても仕入税額控除の調整が行われます。
調整対象固定資産とは、固定資産のうち
建物、構築物、機械及び装置、船舶、航空機、車両及び運搬具、工具、器具及び備品、鉱業権その他の資産で、一の取引の単位(通常一組又は一式で取引の単位とされるものは一組又は一式)に係る税抜対価の額が100万円以上のものをいいます。
なお、棚卸資産は対象資産に含まれません。
さらに、一の取引単位の価額が税抜1,000万円以上の棚卸資産又は調整対象固定資産は「高額特定資産」といいます。1,000万円以上になると棚卸資産も含むのがポイントです。
調整対象固定資産の消費税を仕入税額控除できるのは課税事業者が対象です。消費税の課税業者となるには、売上や資本金の金額が1,000万円を超える以外にも、自ら消費税の課税事業者として「課税事業者選択届出書」を提出するという方法があります。
しかし、自由に課税事業者と免税事業者の届出ができてしまうと、調整対象固定資産を取得した年度の課税売上割合を高い水準にして引き上げて消費税を還付し、その後すぐに「免税事業者」や「簡易課税事業者」になれば、固定資産分の消費税を納めなくて済むという問題が発生しました。
そのため、調整対象固定資産の課税仕入れを行った日の属する課税期間の初日から原則として3年間は、免税事業者となることができません。さらに、簡易課税制度を適用して申告することもできないという決まりがあります。これを一般的に「3年縛り」と読んでいます。
つまり、調整対象固定資産を取得したら、確実に3年間は消費税の課税事業者とならなければならないのです。
例えば、建物は調整対象固定資産となっていますが、家賃は非課税です。例えばアパート経営などの場合は、取得時に消費税を還付してもらったとしても、家賃が非課税のため、課税対象の売上が著しく減ります。そうなると、結果的には還付された消費税のほとんどを返納しなくてはなりません。
課税仕入についての仕入税額控除は、適切な消費税の納付のために必要な制度です。しかしそれを転用して消費税の納税を逃れようという手法が節税として流行してしまったために、調整対象固定資産については、平成22年・28年と2度に渡り税制改正が行われました。
制度の穴をつくような節税は、結果的に防止策ができるという好例ですね。