資産や負債をバランスシートに計上しないことはオフバランス化と呼ばれます。ただし、オフバランス化には合法的なものと違法なものがあるので注意が必要です。オフバランス化すると、資産や負債額が減り、貸借対照表のスリム化が進みます。この記事ではそんな資産・負債のオフバランス化についてわかりやすく解説します。
会計の世界では、ある項目を資産、負債、または純資産の1項目として貸借対照表に計上することをオンバランスと呼びます。逆に、計上しないことはオフバランスと呼ばれます。バランスとは、バランスシート、すなわち、貸借対照表のことです。
事業活動で用いている資産・負債でありながらも、貸借対照表(バランスシート)に計上しないことをオフバランスと言います。たとえば、事業活動で用いている車両運搬具は資産として貸借対照表に計上されるのが普通ですが、これを資産として計上しないことをオフバランスと呼びます。しかし、この場合のオフバランス化は犯罪行為です。本来、資産として計上しなければならないものを、資産として計上しない(オフバランス化)することは認められていません。エンロン事件やライブドア事件などでは、本来、資産や負債として計上しなければならないものをオフバランスにしていたことで、実態とは異なる取引関係をつくり出し、好業績を演出していました。オフバランス化という犯罪行為が多発したため、世界各国でルールが厳格化されているのが最近の流れです。
日本でも、金融商品会計基準が導入される以前には、先渡し取引、先物取引、オプション契約、スワップ契約などのデリバティブ取引はオフバランス取引でした。つまり、これらのデリバティブ取引は、金融資産や金融負債として、貸借対照表に計上されていなかったのです。しかし、金融商品としてのデリバティブは、金融商品会計基準の導入によって、取得原価・実現基準会計ではなく、時価評価・発生基準会計の対象となり、その時価評価差額は資産・負債としてオンバランス化されるようになりました。
ただし、すべての取引をオンバランス(貸借対照表に計上)しなければならないということではありません。資産の種類によっては、オフバランス化が認められているものもあります。この場合の、オフバランス化は合法的なものなので犯罪行為とはなりません。現在でも、非上場会社にあっては、法人税法に準拠した会計処理が行われていることが多いため、この場合、ほとんどの企業で退職給付債務や未払賞与などが貸借対照表の負債の部に計上されていません(オフバランス)。
資産・負債がオンバランスであるか、オフバランスであるかは極めて重要な問題です。資産・負債のオン・オフによって、資産総額、負債総額、および純資産額が変化することになります。それによって、たとえば、自己資本利益率(ROE)や総資産事業利益率(ROA)など、企業経営上重要な意味を持つ指標の数値を変化することになります。つまり、何かをオンバランス化することは、資産総額や負債総額を増やすことを意味しており、何かをオフバランス化することは、資産総額や負債総額を減額することにつながるというわけです。そして、自己資本利益率や総資産事業利益率は、それらの資産総額の影響を受けることになりますから、オフバランス化したり、オンバランス化したりすることで、経営指標がよくなったり悪くなったりして、経営上の意思決定の影響を与えることになります。
資産総額を資産や負債の項目をオンバランスにするか、オフバランスにするかは、基本的に世界各国の会計基準や国際会計基準によって決まっています。
たとえば、オンバランス化とオフバランス化の問題の一つに、リース資産の問題があります。リースは、設備調達の手段として、航空機、船舶、工作機械、建設機械、電子計算機、車両などの購入のために幅広く活用されています。リース契約によって入手したリース物件とリース料の支払義務をレッシー(借手)の貸借対照表に計上するか否かという問題は、長年議論されてきましたが、今なお決着がついていない問題です。計上するのであればオンバランス化されることになりますし、計上されないのであればオフバランス化ということになります。リース資産・負債のオンバランスは、企業の自己資本比率を低下させることになります。したがって、レッシーとしての企業は、オフバランスを望み、レッサーもユーザーの立場を支持してオフバランス化を望むことになります。それに対して、企業の業績評価や支払い能力を評価しようとする会計情報の利用者側では、リース資産・リース負債のオンバランス化を望むことになります。現在では、このリースの問題は、一応、リース会計基準が導入されたことによって一応の決着をみています。従来は、オフバランスであったリース資産およびリース負債の一部(所有権移転ファイナンス・リースにかかるリース資産・リース負債)は1993年にすべてオンバランスとなっています。そして、2007年には、すべてのファイナンス・リースに係る資産・負債のオンバランス化が実現しました。ノンキャンセラブルで、フルペイアウトというリース取引であれば、設備の取得は資金借入による設備の購入と実態が同じであるので、同様の会計処理をすべきであるというのが、その基本的な考え方となっています。
資産をオンバランス化したり、オフバランス化したりするのは、会計上極めて重要な問題です。本来、オンバランスすべき資産や負債をオフバランスにすることは、犯罪行為に他なりません。しかし、ルールの範囲内でオフバランス化を進めることは、貸借対照表に計上される資産・負債の額を減らすことができるので、そうすることで、自己資本利益率や総資産事業利益率のような経営上重要な財務指標を改善できる可能性があります。