日本の組織であれば意思決定の際に利用されているのが稟議書です。なぜ組織の重要な意思決定の場面において日本では稟議書が活用されているのでしょうか?この記事では日本でなぜ稟議書が活用されているのか、その理由について解説します。この記事を読むことで、なぜ稟議書が必要なのかが詳しく説明できるようになります。
最近では、
「稟議」を調べると以下の意味が出てきます。
「稟議」(りんぎ):《「ひんぎ」の慣用読み》会社・官庁などで、会議を開催する手数を省くため、係の者が案を作成して関係者に回し、承認を求めること。出典:デジタル大辞泉
「係の者が案を作成して関係者に回し」とありますが、この「案」に該当するものが「稟議書」です。
これは日本独自の意思決定方法といわれています。
稟議は以下の流れで行われます。
稟議が通っていれば、最終決裁に至る時点で関係者全員の同意が得られているので、ほぼ自動的に承認が下りるという仕組みです。
稟議自体は部門の管理職が他の部門に送ります。しかし稟議書を実際に作るのは年次の若い社員が多いです。
先輩社員が後輩社員に、書面の書き方などを指導するという、ある意味社員教育的なOJTが行われる場合もあります。
複数の決裁者(管理職)に渡って「決裁」を得ることが「稟議」なのですが、これは企業によって言葉の使い分けがあることもあります。
例えば、1部門で決裁が完了するものは「決裁」、複数部門の承認が必要な場合を「稟議」と呼んでいたり、金額によって部門決済の上限までは「決裁書」、それを超えて役員決裁が必要な場合を「稟議」と呼んでいたりなどです。
いずれにしても、稟議は複数部門であったり、所属長以上の人が見たりするものになります。
稟議書(りんぎしょ)とは、稟議のために作られる文書のことです。稟議書は、「りんぎしょ」と呼ばれるのが一般的ですが、正式には「ひんぎしょ」と読みます。稟議書とは、会議を開催する手数を省くため、係の者が案を作成して関係者に回し、承認を求めることを言い、稟議書は、そのための書類ということになります。
権限の強い人から弱い人へむけて順に回すのが通例です。稟議を提出し許可の得る行為は「稟議を上げる」「稟議にかける」、稟議を上げて承認された状態は「稟議が下りる」「稟議が通る」のように表現されます。稟議書は物品購入、ITシステム導入、オフィス移転、人材採用、契約締結など、様々な稟議を行うために作成されます。
ただし、もともと、稟議という言葉は、職務上の上位者への意向伺いを意味する言葉で、この意向伺いのための書類が稟議書でした。『稟』という字が、常用漢字にないためもあって、『伺い書』『起案書』『申請書』などの名称も使われています。また、経営上の重要事項は『伺い書』、日常業務に関する事項は『申請書』と区別している組織もあります。
「稟議書」は、「会議」という時間の無駄と手間を省くためのもので、まさに日本独特の知恵ともいえるビジネス習慣です。稟議書には、概ね次の内容を記載するのが一般的です。要件、要件の詳細説明、要件の稟議決裁が必要である理由、費用などです。稟議書に記載される内容はこれに限りませんが、少なくともこれらの事項が記載されていない文書は稟議書とは呼べません。
稟議で承認を得ている範囲内であれば自己裁量で仕事を行えるようになり、一旦、稟議が通ってしまえば、後は会社の決定事項として業務をスピーディーに進めることができます。稟議書には、提案目的・理由・金額・得られる効果・代替案より優れている点などがひと目でわかるように記載されているのが普通なので、誰でもひと目でなぜその決定が必要なのかを迅速に理解することができます。
稟議書は、稟議制に基づく組織の意思決定において重要な意義を持っています。組織が拡大し発展していくと、水平分化して部門化が起こり、さらに垂直分化することによって階層化が生まれることになります。その結果、組織を有機的に、しかも合理的に機能させるためには、それぞれの職位に応じた責任と権限が明確にされることが必要となります。
当然、職位が上に行けば行くほど、責任と権限は大きく重くなっていきます。それは、本来は意思決定方式の整合性を生むことになるものです。大きな権限を持っている場合には、大きな責任を伴うというのは、巨大化した組織において重要な意味を持っているのです。
しかし、日本の多くの組織においては、通常、各種決定の問題提起・解決案の作成は、大きな権限をもたない第一線の担当者(通常は中間管理者層)が起案して、これを関係各部署に回議、合議し、捺印した内容の実施を、書類によって上位の権限者に上申し、その決裁を仰ぐという意思決定のプロセスが一般化しています。
多くの組織では、意思決定の権限を有しているのは部署の上長ら管理職です。たとえば、物品を購入する際、少額の消耗品なら上長の承認なしに発注できることもあるが、高額商品の場合は、部署の上長だけでなく、役員クラスの承認を得なければならないのが普通です。
社内で「必要」と思われる事案は、本来であれば「会議で承認を得る」という流れを取ります。しかし、会議を開くためには、全員のスケジュール調整など多くの手間がかかります。そこで、会議を開く手間を省くため、「稟議書」を作成して関係者に回覧し、全員の承認を得て許可とします。これが「稟議」の仕組みです。
上位者は、これによって下位者の総意を確認したことにより、その責任のもとに内容を認めて捺印し決裁され、これが下におろされることによって実行に移されるという方式が採用されています。そのための書類が稟議書で、この方式は稟議制と呼ばれています。起案とは、各種の問題・解決の意思決定をするために、その意思を稟議書として具体化するための案文を作成することをいい、作成を担当する者は起案者と呼ばれます。
稟議制の方式を採用することによって、末端の職員にも組織の決定に参加しているという意識をもたせ、かつ、決定後に、組織内部から異議の生ずるのを未然に防ぐ効果があります。
稟議書の内容を確認することで、どの部署にその事案が関連し、どのような効果が期待できるのかが理解できるため、関連部署との連携も速やかになります。回覧の間に、各関連部署の見地による改善ポイントや、代替案など新たな意見も追記されていくため、より組織に貢献できる意思決定を行うことができます。
なかにはいきなり稟議書が回ってくることをよしとしない人もいます。稟議をあげる際は、事前に相談をしておくことがポイントです。
いわゆる「根回し」は日本企業の悪習のように言われていますが、自分が決裁権者だとして考えてみてください。複数の承認が必要な高額の案件がいきなりやってきても、その稟議をすぐに承認できるでしょうか?
必要なリーガルチェックなどが済んでいるのかどうか、コンプライアンス的に問題はないかなど、確認したいと思うはずです。
稟議書をあげる前に、所属長にはドラフトなどで稟議をあげる前の確認を取っておきましょう。
ドラマ「半沢直樹」で、主人公の半沢直樹が一から契約書を作成するシーンがありましたが、今どき白紙から書類を作成することは、創業者でもない限りはありません。
どの会社でもよく使う書類については、フォーマットが用意されていることが普通です。ワークフローシステムを導入している場合は、ファイルではなくシステムに直接必要事項を入力しているかもしれません。
まずは過去の承認済み決裁から、自分の決裁したい内容に近いものをチェックするのが一番手っ取り早い方法です。
なぜなら、社内文書というのはその会社独自の言い回しなどがあったりするからです。
例えば、箇条書きをよしとしたり、ですます調だったり、である調であったりとその会社のルールがあります。
へたにビジネス記事を読んで書くよりも、過去の案件を探しましょう。
決裁書や稟議書は、部門ごとに通し番号を取ってファイリングされていたり、システムのデータベースにデータがあるはずです。会社の稟議書の体裁を確認することもできます。
承認済み案件であれば、稟議を通すために必要な事項が書いてあります。さらに、その案件を通すためには、どの部門の承認を得るべきなのかも確認できるのです。
例文よりも、必要事項を満たしているかがどうかが稟議書には重要です。
稟議書には以下の項目を盛り込みます。
稟議書をもう作り慣れているということであれば、ビジネス記事などを見て自分なりに考えて書いても良いかもしれません。
しかし、稟議書の初心者は、まずは社内のルールなどを確認するために、過去の文書を参考に、場合によっては丸写しで数字だけ違うというような内容でも、作ってみるということが大事です。
稟議制は、フォーマルな権限-責任関係を背景とせず、仕事の担当者が上位の管理者の経営業務に実質的に参画することができるという意味で、集団的・ボトムアップ的な意思決定様式であると言うことができます。
これに対して、稟議制度をもたない組織では、トップが意思決定し、意思決定から実施に至るまでの過程は、トップによってなされた決定が、組織図で示される各階層の職位に従い下部へ次々と伝達されることになります。
部下は命令されたことについて委譲された権限を行使して実行していき、どのような結果をもたらしたかを報告するという、いわば上意下達的な意思決定様式となります。
稟議制は、一度決定がなされれば、実行の速度はきわめて早く、しかもすでに事前に関係者の了解があることからスムーズに決定が行きわたり、しかも常に第一線の状況に合った決定がなされるというメリットをもっています。これに加えて、稟議制は、資料の保管に優れる制度であると言うことができます。
これによって、組織が弁明的な責任を果たすことを可能とするとともに、意思決定に おける過去との整合性の確保や、同一の検討の繰り返しという無駄を避けるための有効な手段として機能します。
さらに、担当者が原案を作成し、複数の者が修正を加えるという過程を経るため、決定権者の異動あるいは能力的な問題で指導力が欠如している状態にあったとしても、事務を停滞させることなく、行政の継続性を担保することができます。
このことは、現実に組織内で行われる意思決定のほとんどが軽微な意思決定 であることを勘案すれば、稟議制の大きなメリットであると言うことができます。
稟議制度は、歴史的にはいわゆるハンコ行政によって代表される官庁行政の運営方式が、企業経営の中に導入されたものです。稟議制の第一義的な性格は、本来、下位者が上位者に対して物事の執行に関する決裁を受けることにありました。
官僚制度について研究を行った辻清明によれば、稟議制には次のような特徴があることが示されています。
ここでは、稟議制が、関係者の異議申し立てを不可能とし、その協力を確保しうることや、記録の保存等において、稟議制が一定の効用を持つことを認めつつも、「能率の低下」 、「 責任の分散」、「 指導力の不足」の3つの点について大きな欠陥を持っていることが指摘されています。
「 能率の低下」については、稟議の過程 が長いため決定までに多くの時間を必要とし、関係者が不在である等の場合、それだけ稟議書の進行は停滞するとされています。 次の「責任の分散」については、稟議制においては、決定権を持つ最高長官と、意思決定の過程に参加する職員の双方が 、決定の結果に対して、自己が有する責任の自覚が乏しいとされています。
また、「指導力の不足」については、末端の事務官が起案した文書が、押印を経ながら 上級管理者のところに到達するため、上級管理者はこの長い意思決定の過程をそのまま認めることが慣例で、事案に対する指導力を発揮することができないとされています。
決定の最終責任は最高責任者にあるので、起草者や回議者は書類に目を通したという自覚はあっても、その決定の実行結果についての責任の自覚が乏しくなりがちです。
また最高責任者も、自己の責任において起案の指示をいちいち行ったわけではないから、法的責任の意識はあっても、その内容を自分の意志で修正する意欲も能力も乏しくなってしまうというデメリットが稟議制にはあります。
稟議書のフォーマットは、通常、組織ごとに決まっています。稟議書の作成が求められている組織では、起案者が起案して上層部へ上げ、回覧の上、内容に問題がなければ上層部から承認印が押されることになります。たとえ稟議書に問題があったとしても、稟議書にコメントが添えられて、よりよい意思決定を行うことができるようになります。
最終承認を行う権限を有する人が承認すると、組織が稟議を正式に認めたことになり、購入や契約など稟議内容を実行に移すことができるようになります。稟議は基本的に、複数の関係者に稟議内容を周知させ、承認を得る手続きです。複数の関係者が稟議内容を確認できるようにする仕組みとして稟議書は活用されています。
それ以外の目的で稟議書を活用しようとすると、稟議書は起案の手間がかかるばかりでなく、意思決定に時間がかかるだけで何も良いところがなくなってしまいます。したがって、稟議書の作成が必要な意思決定としてどのようなものがあるかを事前に決めておき、スムーズに稟議書が回覧できるようにしておくことが大切です。