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消費税の高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例とは

岡山 由佳
消費税の高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例とは

高額な資産を購入、自己建設した場合、課税事業者は消費税において不利な影響を受ける場合があります。不利な影響を受ける場合とは、消費税の高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例の適用対象になる場合です。
今回は高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例について解説していきます。

消費税の高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例とは

特例の概要

消費税の高額特定資産又は自己建設高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例とは、消費税の免税期間および簡易課税制度の適用を受けない期間中に高額特定資産等を取得した際には、その取得した課税期間を含む3課税期間は消費税の免税事業者制度および簡易課税制度を利用することが出来なくなる制度です。

高額特定資産とは

1単位の取引につき、課税仕入れに係る支払対価の税抜の額が1,000万円以上の棚卸資産又は調整対象固定資産をいいます。
棚卸資産とは、商品、製品、材料等の販売目的で事業者が保有をする財産をいいます。
調整対象固定資産とは、建物、構築物、機械及び装置、船舶、航空機、車両及び運搬具、工具、器具及び備品等のうち、1単位あたりの税抜の額が100万円以上の財産をいいます。

またここでいう1単位とは、建物では1棟、機械及び装置では1台又は1基、工具、器具及び備品では1個、1組又は1式等と、社会通念上1つのの効果を有すると認められる単位をいいます。
例えば備品である書棚を購入した場合、棚1枚やネジ1つでは書棚としての効果はありません。全ての棚やネジを含めた書棚全体を1単位とします。

自己建設高額特定資産とは

他の者との契約に基づき、又はその事業者の棚卸資産若しくは調整対象固定資産として、自ら建設等をした高額特定資産をいいます。

免税事業者制度とは

個人事業者または法人の前々年又は前々事業年度における課税売上高が1,000万円以下である場合には、消費税の納税義務が免除されるという制度のことです。

免税事業者については下記コラムをご参照ください。

簡易課税制度とは

個人事業者または法人の前々年又は前々事業年度における課税売上高が5,000万円以下である場合には、届け出を行うことで消費税の計算において簡易課税制度を適用することが出来るという制度のことです。
簡易課税制度では、実際の課税仕入れ等の税額を計算することなく、課税売上高から仕入控除税額の計算を行うことが出来ます。

簡易課税制度については下記コラムをご参照ください。

特例の影響

この特例は、課税事業者に対して不利な影響を及ぼします。
例えばこの特例に該当をしない場合、2020年12月期の課税売上高が900万円であった課税事業者は、課税売上高が1,000万円以下であることから、2022年12月期は免税事業者になることが出来ます。つまり2022年12月期は消費税の支払いはありません。

しかし、2021年12月期に高額特定資産を購入した場合は、2022年12月期は免税事業者になることが出来ず、2021年12月期、2022年12月期、2023年12月期の3年間は課税事業者である必要があり、消費税の支払いが必要となります。

簡易課税に対しても同様であり、2020年12月期の課税売上高が4,000万円であった課税事業者は、課税売上高が5,000万円以下であることから、2022年12月期は選択により簡易課税の適用をすることが出来ます。

しかし、2021年12月期に高額特定資産を購入した場合は、2022年12月期は簡易課税の適用による納付税額の方が原則課税の適用による納付税額よりも少ない場合でも、簡易課税の適用をすることが出来ません。2021年12月期、2022年12月期、2023年12月期の3年間は原則課税の適用をする必要があります。

このように、その取得した課税期間を含む3課税期間は消費税の免税事業者制度および簡易課税制度を利用することが出来なくなりことから、課税事業者の資金繰りに対して不利な影響を及ぼします。

特例の必要性

これは必要以上の消費税還付スキームが発生することを防ぐための特例といわれています。
新規法人を設立した場合、原則として2年間は消費税の免税事業者となります。しかし免税事業者は消費税の支払いが必要無い一方で、消費税の還付を受けることも出来ません。

よって設立後2年間において課税売上高が課税仕入高を上回り消費税の還付を受けることが出来る状況が見込まれる場合には、あえて課税事業者を選択する方が有利となります。
この仕組みを利用して、恣意的に高額な課税仕入を生じさせて、消費税の還付を受ける事業者が多くなりました。
恣意的な高額の消費税の還付が生じることは国の財政を圧迫するものであることから、この特例が定められ必要であるといわれています。

新設法人の消費税については下記コラムをご参照ください。

まとめ

消費税の高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例について解説していきました。1,000万円以上の高額な資産を購入、自己建設をする場合には、この特例に留意をしないと、課税事業者は不利な影響を受けることになります。
高額な資産を購入等される場合には、特例の確認及び税理士等の専門家へのご相談をされると良いでしょう。

この記事を書いたライター

大学在学中より会計業界に携わり10年超の会計事務所、税理士法人での実務経験を経て独立。各業種の会計業務に関するフォローのみならず、ライターとして税務、労務、経理の話題を中心に、書籍やWebサイトに数多くの寄稿を行う等の様々な活躍をしている。
カテゴリ:コラム・学び

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