監査法人では監査証明業務だけではなく非監査証明業務も提供しています。非監査証明業務とは、一般にコンサルティングサービス(CS)などと呼ばれます。今般の経済社会では、市場環境も大変厳しい状況なので、監査法人のCSに期待する会社も少なくありません。この記事では監査法人のCSについて解説します。
監査法人とは、「他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の監査又は証明を組織的に行うことを目的として、公認会計士法34条の2の2第1項によって、公認会計士が共同して設立した法人」のことを言います。(公認会計士法1条の3第3項)
この定義のように、監査法人は、財務諸表の監査又は証明を組織的に行うことを目的とした法人であるので、監査法人の業務内容も財務諸表の監査又は証明ということになります。そして、財務諸表の監査又は証明を行うためには、高度な会計を中心としたビジネスに関する知識が必要となることから、この業務は、一定の知識水準を持っていることが試験によって担保されている公認会計士によって行われています。
監査法人は、公認会計士によって組織された法人です。そこには、主として財務諸表の監査又は証明を組織的に行うことを目的として多くの公認会計士が所属しています。もちろん、公認会計士の資格を有しない人も働いています。
公認会計士は高度な会計・監査に係る知識を有していることから、クライアントである経営者から経営や事業についてアドバイスを求められることがあります。そのため、経営者に対して、有能な人材を多く抱える監査法人によるコンサルティングサービスに対して一定の需要があるのは自然なことです。
したがって、現代の監査法人では、広く監査証明業務だけではなく、非監査証明業務と呼ばれるコンサルティング業務などの提供も行っています。非監査証明業務はコンサルティング業務と呼ばれたり、アドバイザリー業務と呼ばれたりと様々な名称で呼ばれますが、監査法人が組織的に監査又は証明を組織的に行うことを目的とした法人であるので、それ以外の業務は定義上すべて非監査証明業務に分類されることになります。
もともと監査法人は個人の会計事務所から派生して、組織的に監査又は証明サービスを提供するために組織されているため、会計のアドバイスと、そのチェック(監査)が本業です。しかし、そこから派生して、現在では、戦略やIT、人事領域など幅広く経営者のニーズに対応するようなサービスを提供するようになっています。最近では、AIやビッグデータなどデジタル領域にも力を入れており、課題解決を軸にしてビジネス領域を拡大・変化させています。
特に、4大会計事務所(Big 4 accounting firms)または4大監査事務所(Big 4 audit firms)と呼ばれる監査法人は、監査証明業務と非監査証明業務を幅広く展開しています。4大監査法人とは、「デロイト トウシュ トーマツ (Deloitte Touche Tohmatsu) 略称:DTT, Deloitte. 本部:ニューヨーク、ロンドン」「アーンスト&ヤング (Ernst & Young) - 略称:EY 本部:ロンドン」「KPMG (KPMG) - 本部:アムステルダム」「プライスウォーターハウスクーパース (PricewaterhouseCoopers) - 略称:PwC 本部:ロンドン」のことです。
これらの監査法人は、世界の主要な証券取引所に上場する巨大企業と呼ばれる大規模な企業、または非上場ではあるが取り扱うサービス内容のマーケットシェアや独自性が高く、比較的規模が大きいといった企業の、ほぼ全てを顧客としており、会計・監査・税務・コンサルティングといったプロフェッショナルサービスを提供しています。
監査法人は、監査業務とアドバイザリー業務をそれぞれ独立した業務として行うことは可能であるものの、2つのサービスを同時に提供することは禁止されています。
証券市場がその機能を十全に発揮していくためには、企業の財務書類が適正に作成されていることがまずもって重要です。その際、公認会計士・監査法人の監査には、企業の財務書類の適正性を確保していく上での重要な役割が期待されています。
この社会的な期待に応えるためには、監査人(監査法人)が独立した立場に立って、経営者等との関係において強固な地位を保持しながら監査が行われていくことが重要となります。
ここで、監査業務とアドバイザリー業務が、同じ監査法人によって同時に提供されてしまうと、経営者等にアドバイスをしながら、それを監査するという立場に立ってしまうことから、企業の財務諸表が適切に作成されているかどうかに疑義が生じてしまいます。
こうなると、証券市場において、企業の財務諸表が適正に作成されているかが投資家にわからなくなり、あるいは、疑わしい状態となって証券市場がその機能を十分に果たさなくなってしまいます。そこで、監査法人は、あくまでも企業とは独立した立場から監査をするようにルールが定められています。
監査法人が提供している業務には様々なものがありますが、大別すると監査証明業務と非監査証明業務に分けることができます。そして、一定の非監査証明業務と監査証明業務については、サービスの同時提供が禁止されています。
具体的には、被監査会社の経営判断に関わることを防止すること、監査人自らが行った業務を自ら監査することを防止すること等の観点から、非監査証明業務のうち、以下のような一定のものを行っている場合には、監査証明業務を同時に行ってはならないこととされています。
監査法人が提供するコンサルサービスの現在のトレンドは、国際会計基準(IFRS)導入や海外子会社のリスク管理、不正調査などに関する支援業務などとなっています。監査法人には、会計に関する高度な専門知識を有している公認会計士が多く所属していることもあって、会計に関するコンサルティングサービスを提供する監査法人が非常に多いです。
アドバイザリーの世界は「システムはシステムのスペシャリスト」「戦略は戦略のスペシャリスト」と専門に分化しています。監査法人以外にも、コンサルティングサービスを提供する会社は数多く存在しますが、それぞれのコンサルティング会社(コンサルティングファーム)が自身の強みを活かしてコンサルティングサービスを提供しています。
監査法人が提供しているアドバイザリー業務の代表的なものの一つが「アカウンティング&ストラテジー(A&S)」です。この業務では、新しい会計基準に対するコンプライアンスのアドバイザリーや、アメリカの会社に買収された結果、米国基準で決算をせざるをえなくなった等の決算支援サポートなどを行ないます。
その他にも、「プロセス&インフォメーション(P&I)」という業務があります。会計基準を決めたらいきなり会社で会計を行うことができるわけではありません。そのためのプロセスを組み立てることが求められます。そこで、シェアードサービスや外部アウトソースの利用を含め、「どうすれば効率的に経理決算が可能か」という会計業務プロセスの合理化のアドバイザリーや、マネジメントからの「正しい指標で毎月業績モニタリングを報告したい」といった経営管理に係るアドバイザリーを行うのも監査法人が行うアドバイザリー業務の一つです。
さらに、M&Aに特化した「トランザクション&リストラクチャリング(T&R)」という業務もあります。この業務では、企業買収と企業・事業再生の戦略や財務・業務改善をサポートします。
監査法人でコンサルティング業務に携わるためには、まずは監査法人で経験を積まなければなりません。通常、監査法人の主な業務は監査証明業務ですから、いきなり新卒で採用された人材が非監査証明業務に携わることはありません。
まずは、監査証明業務で経験を積み、1人1人の関心に合わせて非監査証明業務に徐々に携わることになります。大手の監査法人では、グループ会社として各種非監査証明業務に特化した会社があるため、そこに所属してコンサルティング業務を行うことになります。
監査法人でコンサルティング業務に携わるためには、高い能力と一定の経験が必要です。監査法人に依頼される相談内容は極めて高度なものばかりです。会社が抱える課題を自社の資源を使って解決することが難しいからこそ、そういった課題を解決できる人材の揃った監査法人やコンサルティング会社に依頼が来きます。
難易度の高い課題に対して、組織的にチームとして適切なサービスを提供できるだけの能力のある人だけが、監査法人のコンサルティング業務に携わることができます。監査法人でコンサルティング業務に携わる人には、それだけの高度な知識と経験が求められるのです。したがって、監査法人でコンサルティング業務に携わるために就職したり転職したりすることは、極めて難しいということがわかります。
コンサルティング業務に携わる場合、その仕事内容は極めてハードです。すでに説明したように、自社で解決することが難しいような課題について相談して来るのですから、それだけ難易度の高い仕事に携わることになります。解決策が定まっていないようなことも少なくありません。したがって、コンサルティング業務に携わる人々の給料は比較的高給となっています。
監査法人では、所属する公認会計士を中心とした高度な知識を持つ人材を活用してコンサルティングサービス・アドバイザリーサービス・非監査証明業務を提供しています。ただし、監査法人は監査証明業務を主な業務としており、監査証明業務と非監査証明業務が同時に提供することには一定の制限がかかっています。
それは監査人(監査法人)の独立性が脅かされる可能性があるからです。監査法人が提供するコンサルティングサービスは、極めて難易度の高いものが多いことから、高度な専門知識と経験が必要となります。その分、監査法人でコンサルティングサービスを提供している人の待遇はとても良いものの、仕事そのものは大変激務です。