簿記検定の最高位、日商簿記1級は、経理のエキスパートの最高位。公認会計士や税理士を目指す人も受験することが多い資格です。しかしその合格率は10%前後。生半可な勉強では合格できません。労力に見合う価値がある?本当に取る意味があるの?と思う方のために簿記1級のメリットや取るべき人について解説します。
「簿記1級」という時、一般的には「日商簿記検定」を差します。簿記検定では他にも「全商簿記」「全経簿記」がありますが、就職・転職を目指す方であれば「日商簿記検定」1択です。
日本商工会議所では、簿記1級のレベルを以下のように定義しています。
極めて高度な商業簿記・会計学・工業簿記・原価計算を修得し、会計基準や会社法、財務諸表等規則などの企業会計に関する法規を踏まえて、経営管理や経営分析を行うために求められるレベル。合格すると税理士試験の受験資格が得られる。公認会計士、税理士などの国家資格への登竜門。引用:日本商工会議所 簿記1級のレベル
「合格すると税理士試験の受験資格が得られる」とありますが、税理士試験の学習範囲とも重なる部分が多いため、公認会計士、税理士を目指す方も多く受験します。
日商簿記検定は誰でも受験することができ、いきなり1級からチャレンジすることも可能です。しかし、「極めて高度」な会計スキルが求められるため、ほとんどの方は日商簿記2級を経てから受験します。
つまり、受験する人は
・税理士
・公認会計士を目指して勉強している人
・簿記2級を合格している人
が大半なのですが、それでも合格率は10%前後。
簿記1級は、年に2回試験が行われますが、ここ数年の受験者数は6,000~8,000人程度。
毎回の合格者数は500~1,000人。合格率は10%前後とすると、年間1,000~2,000人しか簿記1級ホルダーは生まれません。一説には「簿記1級は希少価値を高めるために合格率を調整している」とも言われているほど。
高校3年+浪人生のみで受験する東大ですら、合格者は毎年3,000人います。簿記1級は、全年齢対象でそれよりも少ない、非常にレアな資格なのです。
相当な覚悟を持って勉強しないと合格できません。勉強も大変です。モチベーションをあげるために、どのようなメリットがあるのかを見ていきましょう。
簿記1級取得のメリットが一番大きいのは、新卒で大企業への就職を目指す人です。
学生時代に簿記2級を取得する人は多いですが、1級というのはあまりいません。
「サークルで~」と語るよりよほど雄弁に「大学で成し遂げたこと」を物語ってくれます。
企業が出身大学(最近では高校も)を見るのは「決められたこと(勉強)をやり遂げる能力と持続力があるか」ということを確認する一面もあります。つまり、簿記1級を取得しているということは、大学の勉強以外にも、簿記1級を取得するために継続学習に取り組むことができるという証明にもなるのです。
その知識とともに、「粘り強く仕事に取り組んでくれそうだ」と企業にとっては好印象まちがいなしです。もちろん、簿記1級だけで就職は楽勝!とはなりませんが、かなりのアドバンテージになってくれるでしょう。
将来経理や財務を目指したいという人は、勉強しておいて損はないでしょう。
ここであえて「若手」と書いたのは、経験を資格で補えるのはあくまで20代~30代前半までくらいだからです。
あなたがすでに経理職についており、現状の職場で伸び悩んでいるのであれば、簿記1級を取得して「経理の経験+資格」で第二新卒的に転職を目指すのはアリです。
上場企業やグループ子会社があるような大企業の転職には、簿記1級が強い味方になってくれるでしょう。
また、最近では会計システム開発関連のIT企業という転職先もあります。多くの大企業はERPを構築していますが、システム系に勘定系の知識がある人が少ないため、重宝される人材になれるでしょう。
ただ、もしまだ経理業務の経験がないようであれば、まずは経理職の経験を積むのが先だといえます。1級はあくまで経験値に上乗せする資格だからです。
すでにあなたが経理部にいる場合、周りにいるのは簿記1級の価値を知っている人ばかりです。
例えば、連結決算を手がけてみたいけれどなかなかチャンスがなかったような場合、資格を取ることでその機会が巡ってくるかもしれません。
また、会社にとっては資格手当を得ることもできるでしょうし、前向きに勉強することで評価されることも期待できます。
ただし、簿記1級は大企業の決算などで必要な知識が多いため、もしあなたが中小企業にいるのであればオーバースペックと見なされるかもしれません。
その場合は転職の武器として活用しましょう。
簿記1級には特に受験資格がありませんが、国家資格である税理士試験については受験資格があります。
税理士試験の受験基準は、学識・資格・職歴によって条件がありますが、学識というのは学歴ではなく、さらに専攻していた科目も問われます。ここでは法律学と経済学です。
例えば「文学部卒で一般教養でも法律・経済についての科目を取っていない」という方は、大卒でも受験資格がありません。
このような方が「税理士を目指そう!」と思った場合は、資格か職歴で受験資格を得る必要があり、日商簿記検定1級はその基準を満たしています。
簿記1級取得のメリットは、主にキャリアで語られることが多いです。しかし、それ以上に会計というのもの本質的な知識があるというのは、あらゆるところで役立ちます。
例えば、住宅ローンを組むときや、自分が副業をはじめた場合の経営プランを立てたりするような時など、プライベートにおいても会計の知識に助けられる場面は多いです。日経新聞のニュースなどについても、これまではぼんやりと「経営状況の悪化」としか捉えられなかったものが具体的に見えてくるようになります。
経理部門への転職でなくても、例えばマーケティング担当者でも帳簿が読めて決算書の内容からすぐに企業の経営状況がわかるというのは強い武器になるでしょう。
むしろ、ある程度の経験を求められる年齢になっている方は、すでに経験者がひしめく経理部門ではなく、経理×営業、経理×ITのように、他の業務との組み合わせで転職を狙うという手段もあります。
せっかく1級まで勉強するのであれば、簿記1本やりではなく、他の業務にも生かせるように本質的な知識を身につけることを念頭に置いて、勉強に取り組むことで、経理以外の道も開けますよ。
試験勉強というのは、心身ともに削られます。
特に簿記1級は民間資格なのに合格率が低い難関で、範囲も広く、年に2回の試験。
自分の時間をこんなにも捧げて合格できなかったら……と思ってしまうことは一度や二度ではないでしょう。
税理士や公認会計士などのステップとして楽に合格していく天才・秀才もたくさんいる資格です。
ただ「絶対に合格できない」資格ではありません。ちゃんと計画を定めて勉強プランをこなし、間違ったところは理解できるまで復習し……長い長い勉強の果てに「合格」があります。
あなたが、これまでに苦労したらした分、合格できたときの達成感や、自分への信頼感も大きくなるでしょう。
「努力すればできる」という自信をつけることができるのが、簿記1級の最大のメリットともいえるのではないでしょうか。
簿記1級というのは、ある意味特殊な資格です。持っていることで「会計のプロ」と見なされますし、2級とはちょっと格が違う。
そのぶん「資格を持っているだけ」だと使いづらい資格でもあります。例えば「私は簿記1級を取得しました」という方が面接で経理部長やCFOと面接したとしましょう。
対等に話ができるくらいの経験や、試験範囲以外の知識がないと「この人は資格をもっているだけなんだな」と判断されてしまいます。
そのため、新卒の就職や若いうちの転職に生かしたり、すでに経理経験が豊富な方が取得するのは大変おすすめなのです。
しかし、ある程度年次が高い人で「これから経理に」という未経験者となると、簿記1級を取得してからというのは厳しいといえるでしょう。
「どうしても経理がやりたい」という場合は、まずは派遣や中小企業、税理士事務所の記帳業務からでも良いので、未経験でも可能な経理業務の実務を積むことの方が近道といえます。
業務経験を積みながら3級からはじめ、2級、そして1級と順に取得していけば良いのです。すでに2・3級を持っているのであれば、まずは異動・転職で経理業務に携わるところからはじめましょう。