取引や契約の相手方が反社であるかどうかを確認するための調査を「反社チェック」といいます。反社と関わりをもつことのリスクや経営への影響は計り知れないため、企業の担当者として反社チェックの方法を理解しておくことが大切です。今回は反社チェックの定義や反社チェックの重要性、方法について解説していきます。
最初に、反社や反社チェックの定義、反社チェックが特に必要となる場面について解説します。
反社(反社会的勢力)とは、「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」のことです。一般的には暴力団がイメージされやすいですが、暴力団以外にも特殊詐欺グループ、半グレ、フロント企業など、その属性は多岐にわたります。
反社チェックとは、取引や契約の相手方が反社ではないかどうかを見極めるために調査することをいいます。別名コンプライアンスチェックとも呼ばれています。
2007年に政府が発表した「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」や各都道府県の暴力団排除条例において、取引を開始する前にチェックすることの重要性が示されているとともに、万が一関わりをもってしまった場合も速やかに関係を解消することが求められています。
出典:企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について
反社チェックは継続的に実施することが重要ですが、特に以下の場面では意識的に実施しておく必要性が高いでしょう。
反社と聞くと「自社とは縁遠い存在」と感じるかもしれませんが、反社はすぐ近くに存在します。2010年以降に各都道府県で広がった暴力団排除条例などの法令の強化により、反社勢力は一見なりを潜めたように思えますが、一方では企業活動を装うなどして資金獲得活動を巧妙化させています。これまで反社とは何の関わりもなかった企業であっても、意図せずに関係をもってしまうリスクが存在するのです。
「関わりをもつ」というのは、取引や契約の相手方となる、自社の社員として雇う、出資を受ける、トラブルの仲裁に入ってもらうとなどのさまざまなケースが想定されます。ほかにも代表者や自社の社員が反社の関係者と一緒に飲食やゴルフを楽しむ、結婚式などのイベントに参加するなどで関わりをもつケースがあるでしょう。2019年に世間を騒がせた吉本の闇営業問題は、所属の芸人が反社の会合に参加して金銭を受け取るというものでした。
意図的ではないにしても反社と関わりをもった場合、次のような影響が考えられます。
企業や自社の社員、代表者が反社と関わりをもつことの影響は計り知れません。近年は企業の価値を判断する際にコンプライアンスへの意識が重視され、反社に対する世間の目も非常に厳しくなっているため、企業経営に致命的なダメージを与えかねないでしょう。
ここからは具体的な反社チェックの方法を挙げます。まずは自社でできる方法を見ていきましょう。
新規取引先と契約する際、契約書に暴力団排除にかかる特約条項(反社条項)を盛り込み、相手方の反応を見る方法があります。反社条項は、契約の相手方が反社であることが発覚した場合に、ただちに契約を解除できる旨を定めた条項です。
あわせて、反社ではないことを表明する表明確約書の提出を求めるのもよいでしょう。相手方に条項の排除を求める、確約書の提出を渋るなどの反応が見られた場合には反社である疑いが強まったと考えられます。
インターネット情報や新聞記事情報から反社である事実を確認する方法です。インターネットで法人名と「反社、暴力団、逮捕、摘発」などのキーワードを組み合わせて検索し、行政処分を受けた歴や代表者が逮捕された事実がないか等を調査します。
ただしインターネット検索はリアルタイム情報を得やすい一方で、古い情報が見つからないケースがあります。また個人のSNSやブログなど幅広い情報があるため、情報の信憑性にも問題があります。そのため新聞記事情報で法人名や個人の氏名などもあわせて検索するのがよいでしょう。
ほかにも自社でできるチェック方法として次のようなものがあります。
自社ではチェックの精度に限界がある、調査に人員・コストをかける余裕がないなどの場合は外部の機関を利用します。
専門の調査会社や興信所へ依頼して調査してもらう方法です。調査会社等へ依頼する際は、専門的なノウハウをもっている業者か、現地調査を含めた高度な調査も実施してもらえるのか、また価格は適正かといった点を見極める必要があります。
たとえば価格だけを重視したばかりに自社でもできるインターネット検索が中心となる場合や、費用の割に自社での業務負担をそれほど軽減できない場合などがあります。事前によく情報収集したうえで選ぶのがよいでしょう。
反社であることの疑いがあるが相手方に直接聞けない場合には、最寄りの警察署や組織犯罪対策第三課、暴力団追放センターなどの公的機関へ相談することができます。警視庁では「契約相手が暴力団関係者かどうかなどの情報を、個々の事案に応じて可能な限り提供します」と情報提供ができる旨を述べています。
コンプライアンスが重視される昨今の社会において、企業の反社チェックは非常に重要な取組みです。取引や契約の開始前に実施するのはもちろんのこと、既存の取引先などに対しても継続的に実施するようにしましょう。反社チェックの方法は多数ありますが、いずれの方法も完全ではありません。あらゆる方法を組み合わせて網羅的に実施することが精度を高めることにつながるでしょう。