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ゴールデンパラシュートは経営陣の保身なのか?買収防衛策としての有効性も解説

福永 勇治
ゴールデンパラシュートは経営陣の保身なのか?買収防衛策としての有効性も解説

企業成長の促進のため近年ではM&Aの件数が増加傾向にあります。M&Aとひとことに言っても友好的買収と敵対的買収の2種類がありますが、敵対的買収に対する防衛策のひとつにゴールデンパラシュートというものがあります。今回はゴールデンパラシュートとは何か、ゴールデンパラシュートの有効性などについてわかりやすく解説します。

ゴールデンパラシュートとは 

ゴールデンパラシュートとは敵対的買収に対する防衛策のひとつです。一般的に敵対的買収が成功した場合、買収した企業がスムーズに経営を行うことができるようにするため、被買収企業の社長や役員は退職することを求められる場合が多いです。ゴールデンパラシュートでは被買収企業の経営陣の退職金を極めて高額に設定することにより、買収を仕掛けている企業から見た被買収企業の魅力を低減させ、敵対的買収を阻止しようとするものです。

その際の退職金の設定目安としては年俸の3倍程度とされています。アメリカで実際にあった事例では、1989年にRJR Nabiscoが買収された際、CEOにゴールデンパラシュートとして支払われた金額はなんと5,800万ドルでした。この買収劇はのちに映画化されるほどの事態となっています。

ゴールデンパラシュートは経営陣の退職金を高額にするものですが、従業員の退職金を高額に設定するティンパラシュートという買収防衛策もあります。敵対的買収後には従業員も解雇の対象になることが多いですから、ティンパラシュートも有効な買収防衛策です。また、ゴールデンパラシュートの実行には株主総会での承認が必要であるのに対して、ティンパラシュートの実行には取締役会の決議だけでいいため、ティンパラシュートのほうが実行の難易度が低いというメリットもあります。

ゴールデンパラシュートの有効性

それではゴールデンパラシュートの有効性について解説していきます。まず、ゴールデンパラシュートのメリットとしては実行時には資金を使う必要がなく、万が一買収されてしまったとしても経営陣は多額の退職金を手にすることができるということです。

別の記事でご紹介したパックマンディフェンスという買収防衛策では買収を仕掛けてきた企業の株を逆買収する必要があるため、多額の資金が必要になるというデメリットがありました。しかし、ゴールデンパラシュートでは実行時には退職金の額を上げる変更を行うだけですので、資金を使うことなく買収の防衛を図ることができます。さらに敵対的買収が成功した場合にポストを失う可能性の高い経営陣からしても、多額の退職金を受け取れることはメリットと言えるでしょう。

しかし、ゴールデンパラシュートには複数のデメリットがあり、実際には日本で使用された事例はほとんどありません。まず1つ目のデメリットはゴールデンパラシュートの実行が難しいことです。ゴールデンパラシュートを実行するためには株主総会で経営陣の退職金を引き上げることの承認を受ける必要があります。ゴールデンパラシュートは買収防衛策であると同時に経営陣の保身のためという一面もありますから、株主総会で承認されることは容易ではありません。

2つ目のデメリットは利益相反の義務違反に該当する可能性があるということです。株式会社は株主のものであるにも関わらず、ゴールデンパラシュートが実行された場合には経営陣が多額の退職金を受け取ることから、経営陣が株主の利益を害しているという見方をすることもできます。

この問題についてはゴールデンパラシュートが広く浸透していたアメリカで数々の議論が行われていましたが、退職金を引き上げるには株主総会での承認が必要であることから、利益相反行為に対する要件は満たしていると考えられています。これまでにも数々のゴールデンパラシュートが実行されてきたため、現行の法律的には問題ないということができますが、株主からは非難の声があがるということは覚えておいたほうがよいでしょう。

その他の買収防衛策 クラウンジュエル

ゴールデンパラシュート以外の敵対的買収の防衛策として、クラウンジュエルという方法があります。クラウンジュエルでは敵対的買収者から見た自社の魅力を下げるために、収益性の高い事業を譲渡したり、資産を売却するという方法です。敵対的買収者から見た自社の魅力を下げるという点はゴールデンパラシュートと共通しているポイントです。

しかし、クラウンジュエルも実行には株主総会での承認が必要な点や収益性の高い事業や資産を手放すという経営上のデメリットがあることから、日本では実際に行われた事例はほとんどありません。

まとめ

今回は敵対的買収の防衛策のひとつであるゴールデンパラシュートについて解説しました。この方法は株主からの理解を得ることが難しく、実行は容易ではありません。そもそも株主にとって効率的な経営をしてくれるのであれば、敵対的買収者のすべてが悪というわけではなく、買収防衛策の必要性についても考え直す必要があるのかもしれません。

この記事を書いたライター

金融ライター兼会社員。ニートから独学で勉強しUSCPA(米国公認会計士)試験に合格。合格を機に東証一部上場企業の経理へと転職を成功させ、海外を含む連結決算業務を経験。ライターとしてはUSCPA試験の合格方法など会計に関する幅広い内容を執筆。
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