役員の退職金とも言われる「役員退職慰労金」。大企業では億を超えるなどその金額の高さが問題視され、近年では廃止の動きも多く見られます。今回は役員退職慰労金について解説するとともに、その計算方法などについて解説します。
会社の役員である取締役や監査役が退職した際に支給する慰労金を「役員退職慰労金」といいます。
つまり、役員への退職金です。
「退職所得」になることから、所得税とは分離課税として「退職所得金額」のみで計算できます。退職所得金額は、退職慰労金から退職所得控除額を差し引いた後、さらに半分にした金額になるため、受け取ったときの税金を低く抑えることができるのです。
(ただし、勤続5年未満の「特定役員等」は 退職慰労金-退職所得控除のみで1/2にできません)
もらう側から見ると、役員退職慰労金は従業員の退職金と同じように見えます。しかし、役員は会社の経営に対して責任を持つ立場を「委任」されていることから、「役員退職慰労金」は、従業員が今までの労働の年数や対価に応じてもらう「退職金」とは明確に区別されています。
この退職所得控除があることから、日本企業の役員は、役員報酬よりも退職慰労金で多額の報酬を得ることが多いという慣例がありました。
企業会計にとってですが、役員退職慰労金については、従業員がもらう「退職金」とは異なり、会社の「退職給付会計基準」の対象にはなりません。
役員退職慰労金を負債として計上する場合には、別途「役員退職慰労引当金等」の科目で計上する必要があります。
退職金については、退職金規程などを作成した上で、規定に沿って給付することができますが、役員退職慰労金については「役員退職慰労金支給規定」などの規定を決めるだけでなく、株主総会での決議も必要となります。
具体的な金額や支払時期といった詳細は取締役会に一任することもできますが、支払に関する決議だけはしておかなくてはなりません。株主総会の決議がなければ役員退職慰労金の支給が無効になります。
近年の株主総会での議案で最も反対票が多いのがこの役員退職慰労金。
2020年には、過去最悪の赤字予想であった日産自動車の前社長と前暫定CEOに「退職慰労金」含む4億円超の総報酬が支払われたりと、株主だけでなく、一般消費者や顧客の不興もかいやすいものとなっています。
実は役員退職慰労金については、上限金額の決まりがありません。
ただし、法人税法第34条により、役員に対して支給する退職給与の額(隠蔽又は仮装経理により支給されたものを除く)のうち、不相当に高額な部分の金額は、過大役員報酬として損金の額に算入されないと定められています。
「不相当に高額」というのが具体的にいくらなのかは明示されていませんが、退職慰労金の計算に主に使われている式を2つご紹介しましょう。
功績倍率法は、
役員最終報酬⽉額 × 役員勤続年数 × 功績倍率
という式で金額を決める方法です。
例えば月額100万円の役員が10年勤続し、効率倍率2倍とすると、
100万円×10年×2=2000万円 が役員退職慰労金となる計算です。
功績倍率は自由に設定することができますが、損金算入できる適正な金額を算出する場合、他の同業種・同レベルの規模の会社が使う「平均功績倍率」に合わせる必要があります。
類似会社の役位別1年当たりの平均退職金に在任年数を掛ける方式です。退職前に報酬月額が変動した場合等に使われます。
類似法⼈の役員退職給与の1年当たり平均額 × 役員勤続年数
最近では、上場企業などで役員退職慰労金については廃止したり、報酬を賞与や業績連動報酬といった別制度、ストックオプションや株式報酬などの非金銭報酬へと振り替えたりする企業も多くなってきています。
役員退職慰労金は、「功績」「貢献」といった項目で加算されることも多く「なぜその金額なのか」ということが説明しづらいという点があり、コーポレートガバナンス(企業統治)やコンプライアンス(法令順守)への意識が高まるなか、前述の通り個別の金額が提示されないという不透明性は受け入れられにくくなっている傾向があるからです。
【例】
福岡中央銀行 2019年5月14日
役員退職慰労金制度の廃止および株式報酬制度の導入に関するお知らせ
にいがた経済新聞 2020/5/21 株式会社コロナ(新潟県三条市)が、役員退職慰労金制度廃止と特定譲渡制限付株式報酬制度の導入へ
なお、退職慰労金制度廃止に伴い、これまで積み立てていた退職慰労金を給与に上乗せして支払う場合は、退職所得ではなく給与所得となりますので注意が必要です。