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ストックオプションとは?制度の歴史背景からメリット・デメリットなど詳しく解説

HUPRO 編集部
ストックオプションとは?制度の歴史背景からメリット・デメリットなど詳しく解説

ストックオプションは、ある一定の期間にわたり予め定められた価格で既定の株式を購入する権利を付与する契約です。一般的には経営者・マネジャー・従業員に対してインセンティブを与えられる報酬の一種として位置づけられます。この記事では、そんなストックオプションについてメリット・デメリットまで詳しく解説します。

ストックオプションの基礎

ストックオプションとは、自社株式を特定の数だけ、特定の価格で、特定の期間内に購入できる権利のことを言います。

ストックオプションは、コールオプションの一種で、自社株式を将来のある期日までに、その時の市場価格に関係なくあらかじめ決められた特定の価格(=権利行使価格)で購入できる権利です。オプションとは、もともと選択権を意味する言葉で、権利を有するものがその権利を行使するか否かは自由となっています。実際の株価が権利行使価格を下回っている限りにおいては、権利を行使すると明らかに損失をもたらすことになるので、その権利が行使されるのは、少なくとも実際の株価が権利行使価格を上回ることが条件となります。

ストックオプションの特徴

自社株であろうが他社の株式であろうが、通常の株式保有の場合には、購入価格に比して株価が上がっていればキャピタルゲインが生じることになり、逆に株価が下落してしまうと、キャピタルロスを蒙ることになります。

一方で、ストックオプションの場合は、権利行使価格時点の株価が権利行使価格を上回ればキャピタルゲインを享受することができる一方で、ある時点の株価が権利行使価格を下回れば権利校行使しなければよいので、ダウンサイドのリスクを負担せずに済むという特徴があります。

ストックオプションは将来自社株の株価が上昇して権利行使されると、権利行使日における株価よりも低い権利行使価格で株式を発行しなければならない義務を伴います。ストックオプションの権利行使時点に関しては、行使期間の満了日等のあらかじめ決められた時点に行使されるべきもの(このタイプのストックオプションはヨーロピアン・タイプと呼ばれます。)と、権利行使期間内であれば権利保有者の意思で自由に時点を選べるもの(このタイプのストックオプションはアメリカンタイプと呼ばれます。)とがありますが、日本ではアメリカンタイプのストックオプションが一般的です。

市場価格がいくらであっても、あらかじめ決められた特定の価格で自社株式を購入することができるので、権利を付与された取締役や従業員は、市場で自社株式が権利行使価格よりも値上がりしていると、権利を行使して得た自社株を市場価格で売却することで利益を得ることができます。たとえば、行使価格100円のストックオプションをもっていれば、株価が150円の時にそのストックオプションを行使すると50円(150円-100円)の利益を得ることができます。

ストックオプションは権利行使時に税金が発生

ストックオプションを保有していれば、会社が業績が上がることで、給料よりもはるかに多くの利益を得ることができます。ストック・オプションは株価が上がれば上がるほど価値が高まります。

たとえば、ストックオプションの行使価格が100円であれば、株価が150円よりも株価が200円のほうが役員や従業員が受ける利益は大きくなります。また、税法では、報酬をストックオプションによって受け取った場合、報酬にかかる税金が繰り延べられることから、権利行使前にオプションにかかる所得税を支払う必要がなくなります。

つまり、同じ100万円の報酬を従業員が会社から受け取るとしても、現金で100万円の報酬を受け取る場合、当然そこには所得税などの各種税金が源泉徴収されることになりますが、ストックオプションで100万円の報酬を受け取る場合、それはまだ所得税などの対象となりません。ストックオプションの権利を行使し、それを市場で販売して利益を得た場合には、そこに税金がかかることになります。厳密に言えば、原則として権利行使時にその新株予約権の取得価額と権利行使価額の合計額と権利行使時点の時価との差額に対して所得税が課税されます。

ストックオプションでかかる税金については下記のコラムで詳しく解説しています。
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さらにストック・オプションは、市場で売買される株式オプションとは異なり、勤務条件や業績達成に関する条件等、企業の事情を勘案した様々な条件を付すことができます。このような特徴から、ストック・オプションは、企業にとって、経営者、マネジャー、従業員などに対する報酬戦略の主要なツールとして世界各国で利用されるに至っています。

ストックオプションは、このように会社で働く経営者・マネジャー・従業員などの、有能な人材の確保、および役員・従業員への勤労意欲の向上といったインセンティブ報酬として支給されます。

日本におけるストックオプション制度の歴史

日本において、ストックオプションは、外資系企業の進出が本格化した 1990年代に外資系企業の日本法人などで活用され始め、1997年の商法改正によって日本企業でも全面解禁されました。

もともと、日本ではストックオプションは認められていませんでした。その背景としては、旧商法においては、企業が自己株式を充実させることが重要であるという認識が強かったため、自己株式の取得が制限されていたことが挙げられます。また、既存株主を保護するという考え方にもとづいて、時価を下回る価格での株式の発行には、株主総会の特別決議が必要とされ、しかもその効力は6ヶ月までとされていたことを挙げることができます。

1997年5月の商法改正で、ストックオプション制度がはじめて導入されることになりましたが、そこでは2つの方式が採用されていました。第1は、自己株式方式と呼ばれ、会社が取締役または使用人に対して、会社が保有する自己株式をあらかじめ定められた価格で購入することができる権利を付与するタイプのものです。第2は、新株引受方式であり、会社が取締役または使用人に対して、あらかじめ定められた価格で新株を購入できる権利を付与し、その権利が行使される際に新株を発行するタイプのものです。

ストックオプションを付与するためには、前者の場合、定時株主総会の普通決議が求められることになりますが、後者では定款に定めを設けたのち、株主総会の特別決議が必要とされました。また、権利行使期間は両者とも株主総会の議決日から2年以上10年以内です。なお、同一企業で前者と後者を併用することは認められていませんでした。

その後、2001年11月の商法改正で新株予約権制度が創設され、ストックオプションは新株予約権の有利発行という位置づけとなりました。そして、従来の付与対象が自社の取締役と従業員に限られていましたが、子会社等の役職員、顧問弁護士など、対象が広げられました。また、付与議決は株主総会の特別決議が必要とされていましたが、定款の定めは不要となりました。さらに、権利行使期間の制限も撤廃されたことによって、ストックオプションの発行が従来よりも容易となっています。

こうした状況を受けて、ストックオプションの乱用を防ぐことを目的に、2005年12月にはストックオプション等に関する会計基準が公表され、2006年5月の会社法施行日以降にストックオプションが付与された場合には、費用(株式報酬費用)を計上することが義務付けられています

この会計基準とは、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」、企業会計基準適用指針第11号「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」のことで、会社法施行日(平成18年5月1日)以後に従業員等(取締役等も含む)に付与されるストック・オプションについては、これらにしたがって会計処理を行わなければなりません。

ストックオプションの会計処理については下記のコラムで詳しく解説しています。
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スタートアップ企業とストックオプション

優秀な人材確保のためには、資金力が必要です。しかし、スタートアップの企業は資金が潤沢ではないことが多く、そういった場合に人材確保に使えるのがストックオプションです。

ストックオプションは、キャッシュアウトがなく、従業員への報酬は、会社の将来の株価の上昇に帰属します。ですから、スタートアップの企業としては資金を要せず、従業員の貢献を得て、それによりもたらされる株価の上昇によって、従業員へ報酬として報いることができるので、優秀な人材の採用や人材の引き留めに役立つことが期待できます。

ただし、ストックオプションを付与されても上場できなければ、意味がありませんので、その見通しが立たなければ、従業員のモチベーションは下がります。
仮に上場できても利益を得たら、退職する従業員もでてきます。これにはストックオプションの権利の行使を徐々にしか行えないような条項を盛り込むような対策が必要です。

また上場した場合は、株式の保有数は一般投資家向けの書類により公表されます。誰が何株持っているかを知ると従業員間の不均衡が露出してしまうため、付与時の明確な算定根拠も準備する必要があります。

ストックオプションの種類

ストックオプションは、自社株式を特定の数だけ、特定の価格で、特定の期間内に購入できる権利です。ストックオプションには様々な種類がありますが、大きく分けると2種類のストックオプションがあります。

一つ目は、オプション数、権利行使価格といった権利内容が権利付与日において確定しているストックオプションです。このストックオプションは、固定型ストックオプション(fixed stock option)と呼ばれます。一方、業績水準の達成等によって、権利内容が将来期日に確定するストックオプションは業績ベース型ストックオプション(performance-based stock option)と呼ばれます。

固定型ストックオプションの場合、権利行使停止期間における継続的勤務により受給権が確定し、権利行使期間中の退職は権利喪失を意味することになります。また、業績ベース型のストックオプションの場合、業績水準の達成等により受給権が確定し、業績水準の未達成等は権利喪失を意味します。

ストックオプションのメリット

ストックオプションを付与された取締役や従業員は、将来的に自社の株主となり、株主価値の上昇が自己の報酬に影響するようになります。したがって、自ずと株主に損失を与えるような行動は避け、株主価値・企業価値の向上を目指して行動をするようになることが期待されます。これがストックオプションが企業に導入される最大のメリットです。

ストックオプションはインセンティブ報酬の一種であるので、通常のようにあらかじめ決められた額ではなく、会社の株価に連動して変わる点が特徴となります。つまり、従業員側が多く成果を挙げるほど自社の株価も上がり、その上昇分を報酬として還元されるというわけです。

ストックオプションを導入すると、取締役や従業員の報酬は会社の成績が反映される株価に連動することになります。つまり、彼らに与える報酬はあらかじめ定めた額の賞与などではなく、会社の市場価値が向上した場合に、その上昇分だけ報酬を与えるという成功報酬型にすることができるようになります。高額な報酬を支払えないベンチャー企業であっても、ストックオプションの導入することによって、将来を見込んだ優秀な人材が入って会社に入社する可能性があります。

現時点では、役員や従業員へ現金を支払う必要がありません。このため、会社としては財務に余裕がなくても、将来的なインセンティブを約束する形で優秀な人材を確保しやすくなります。
経営者、マネジャー、従業員は、ストックオプションの権利を行使しないことも選べるので、購入前なら株価が下がっても損失を被る心配がありません。つまり、ストックオプションの権利を受け取る側からすると、ストックオプションはダウンサイドリスクがないということになります。

ストックオプションのデメリット

経営者、マネジャー、従業員に付与されるストックオプションは、他の自社株に対するコールオプションと比べると、制限が付く分だけ価値は小さくなりますが、価値のある金融商品であることには変わりありません。この制限としては、通常、譲渡不可能である、あるいは、譲渡する市場が存在しないということを挙げることができます。他にも、退職、業績水準の未達成などによる権利喪失の可能性があります。

その結果、ストックオプションのメリットの一つであるインセンティブ機能が十分に機能しなくなってしまい、また、ストックオプションを付与する基準が不明確であれば、不公平感による経営者、マネジャー、従業員のモラルの低下が起きる可能性があります。付与のルールが明確でないと、付与された者とそうではない者の間で不公平感が生じ、それがモチベーションの低下につながるというリスクもあります。

したがって、付与のルールや制度設計については、このようなリスクを回避できるよう十分検討しなければなりません。たとえば、株式公開準備中に入社した役員が、株式上場と同時にストックオプションの行使を行い、多額の報酬を手にして退職してしまうというケースも少なくありません。ストックオプション制度を会社に導入する際には、きちんとこれらのデメリットについて認識しておく必要があります。

ストックオプションの税制

ストックオプションについては、税制適格となるか税制非適格となるかで課税関係が変わってきます。

税制適格の場合

税制適格のストックオプションの場合、ストックオプションを有する個人が、株式を譲渡した時に譲渡の所得税が課税されます。株式の譲渡なので分離課税となり税率は一律20%(所得税15%、住民税5%)になります。

税制非適格の場合

税制非適格の場合、ストックオプションを有する個人が権利行使したときに給与所得として課税されます。所得税は、その個人の他の所得と合算した所得に応じた税率となるため、5%から45%の範囲の税率が適用になります。また住民税は10%となります。

(注)所得税は平成25年から令和19年までは、復興特別所得税として各年分の基準所得税額の2.1%を所得税と併せて申告・納付することになります。

発行会社の課税関係
発行会社の方では、ストックオプションを有する個人が給与所得として課税された場合、その金額が法人税法上の損金となります。

税制適格の要件
税制適格となる場合には、次の要件を充たす必要があります。
1.付与対象者
次のいずれかに該当する者で大口株主や利害関係者ではないこと
①自社の取締役、執行役又は使用人
②発行済株式総数の50%超を直接または間接に保有する法人の取締役、執行役又は使用人

2.権利行使期間
付与決議日後、2年を経過した日から付与決議日後10年を経過する日までの間であること

3.権利行使価額
契約締結時の1株当たり価額が時価以上であること

4.権利行使価額の制限
権利行使価額が1200万円以下であること

5.譲渡制限
譲渡制限があること

まとめ: ストックオプション

ストックオプションは、ある一定の期間にわたりあらかじめ定められた価格で既定の株式を購入する権利(ワラント・新株予約権)を付与する契約と定義することができ、一般的には、会社が報酬の一形態として従業員などに付与するものです。そして、従業員などは、あらかじめ決定された価格(権利行使価格)を株価が上回ったときに権利を行使し、権利行使価格で所定の株式を購入することで、権利行使価格を上回った部分を利益として享受することができるという仕組みとなっています。

ストックオプションの発行は、将来の株価上昇時に権利行使日における株価よりも広い権利行使価格で株式を発行しなければならない義務を負うものなので、オプションライターである発行企業にとってはコストを伴います。その制度的な特徴をきちんと理解したうえで、ストックオプションを利用するようにすることが大切です。

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