会社が新株の発行又は自己株式の処分により資金調達を行う際に支出する費用を株式交付費といいます。株式交付費の会計処理方法は、現行の会計基準では、支出時に費用処理するのが原則とされていますが、一定の要件を満たすものは繰延資産として資産計上できます。今回は、株式交付費の会計処理方法ついて解説します。
株式交付費の会計処理方法について解説する前に、もう少し株式交付費が何なのか、その具体例をご紹介しておこうと思います。
企業会計基準委員会の実務対応報告では、株式交付費の具体例について以下の通り記載されています。
株式交付費とは、株式募集のための広告費、金融機関の取扱手数料、証券会社の取扱手数料、目論見書・株券等の印刷費、変更登記の登録免許税、その他株式の交付等のために直接支出した費用をいう。
出典:実務対応報告第 19 号 繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い3(1)
株式交付費の原則的な会計処理方法は、支出時に費用処理(営業外費用)になります(
実務対応報告第 19 号 繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い3(1))。
株式交付費の具体例は先にご紹介しましたが、株式交付の場面や目的に応じて以下の通り2つに区分されます。
このうち、①の株式交付費については、原則的な会計処理である支出時に費用処理する方法だけでなく、繰延資産として資産計上することもできます。繰延資産として資産計上した場合、株式交付のときから3年以内のその効果の及ぶ期間にわたって定額法により償却しなければなりません。また、支出の効果が期待されなくなった繰延資産は、その未償却残高を一時に償却しなければならないこととされています。なお、税務上、株式交付費は任意償却の繰延資産とされていますので、会計上費用計上した償却額がそのまま税務上の損金となりますので、特段税務調整は不要です。
②の株式交付費については、繰延資産として資産することはできず、原則通り、支出時に費用処理することとされていますが、費用計上にあたっては営業外費用でなく販売費及び一般管理費に計上することもできます。
株式交付費は全て繰延資産として資産計上できると理解してしまっていると、上記②の株式交付費まで繰延資産として資産計上してしまいかねないので注意が必要です。繰延資産として資産計上できるのは、あくまでも上記①の要件を満たす株式交付費だけです。
現行の日本の会計基準における株式交付費の会計処理方法について解説しましたが、支出時に費用処理する場合でも、一定要件を満たす場合に繰延資産として資産計上する場合でも、最終的には費用処理されるという点は変わりません。すなわち、繰延資産として資産計上する場合にはその後3年以内に償却されるので、費用処理される事業年度は異なりますが、償却期間全体でみたらどちらの会計処理方法でも最終的には全額費用処理されるわけです。
一方で、国際的な会計基準では、株式交付費は資本取引に付随する費用として、資本から直接控除することとされています(実務対応報告第 19 号 繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い3(1))。現行の日本の会計基準と異なり、費用処理はされません。
現行の日本の会計基準は国際的な会計基準へのコンバージェンスが進められている中で、株式交付費の会計処理方法については、国際的な会計基準に整合させていない理由について、企業会計基準委員会の実務対応報告では以下の通り3つの理由が解説されています。
現行の国際的な会計基準では、株式交付費は、資本取引に付随する費用として、資本から直接控除することとされている。当委員会においては、国際的な会計基準との整合性の観点から、当該方法についても検討した。しかしながら、以下の理由により、当面、これまでの会計処理を踏襲し、株式交付費は費用として処理(繰延資産に計上し償却する処理を含む。)することとした。
①株式交付費は株主との資本取引に伴って発生するものであるが、その対価は株主に支払われるものではないこと
②株式交付費は社債発行費と同様、資金調達を行うために要する支出額であり、財務費用としての性格が強いと考えられること
③資金調達の方法は会社の意思決定によるものであり、その結果として発生する費用もこれに依存することになる。したがって、資金調達に要する費用を会社の業績に反映させることが投資家に有用な情報を提供することになると考えられること
(太字は筆者加筆。)
出典:実務対応報告第 19 号 繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い3(1)
株式交付費の会計処理方法について解説しましたが、最後に解説した国際的な会計基準の取扱い(資本から直接控除)との違いに関して、今後どこかで日本の会計基準も国際的な会計基準と整合した会計処理になる可能性もゼロではないと思われます。