テレワークはコロナ禍のみの対応と思っている企業は多いです。特に、経理業務は在宅勤務の環境を整えることが難しいといわれ、導入企業は少ない現状があります。しかし、優秀な人材は柔軟性のある働き方ができる企業への流出は避けられないのではないでしょうか。今回は、経理のテレワーク事情について見ていきます。
まず簡単に「テレワーク」について解説します。
コロナ禍においては「在宅勤務」が注目されましたが、自宅での勤務は「テレワーク」の一部です。情報通信技術(ICT)を活用して、企業のオフィスから離れた場所で働くことを「テレワーク」といいます。
つまり、自宅だけではなくカフェやコワーキングスペース、サテライトオフィスなども含まれるのです。
経理だってテレワークがしたい!在宅で働きたい!という声は多くあります。
営業とは違ってオフィスで行う仕事。PCやネット環境さえ整えば在宅で働けそうですが、
できていない会社が多いのが現状です。
それはなぜでしょうか。原因と思われるものを1つずつ検証していきましょう。
経理業務を日々こなしている方は、領収証や請求書、社内の経費精算の証憑など、毎日多くの書類に接しているのではないでしょうか。
筆者も書類を仕事でめくりすぎたせいか、指紋認証が危うく、スーパーのレジ袋を開くのが困難になるレベルで指がカサカサになっています。経理の業務には「紙」で受け渡しされる帳票が非常に多いです。例えば、取引先から送付される請求書、社内の経費精算に使う領収書など、「紙」をベースとした業務プロセスが特に多く存在します。
多いのは受領する書類だけではありません。こちらから送付する書類にも、会社の印鑑を押さなければならないといった業務も存在する場合もあります。
政府は、コロナ禍において「契約書など取引での押印はな必ずしも必要ない」と見解を示しましたが、浸透にはまだまだ時間がかかりそうです。
経理業務のテレワーク化をはばむ一番の原因ともいえるのが、このペーパレス化が進んでいないという現状です。
経理はずっとオフィスにこもって計算しているようなイメージがありますが、社内の関連部署との会議をはじめ、銀行や税務署に出向いたり、会計士の監査対応や税理士との打ち合わせなど、対面で行う業務も多いのです。
まだまだ「ちゃんと顔を合わせないとね」「マスクは失礼」という経営層は実は多いもの。このあたりはむしろ中小企業の方が対処が柔軟だったりします。
打ち合わせならリモートでも可能!と思われるかもしれません。しかしそのためには資料のペーパレス化が必要となります。社内打ち合わせですら、ビデオ会議が困難(資料をタブレットに移せなかったりなどIT音痴の経営層や役付が多い)だったりします。さらに、監査法人・税理士事務所というのはIT化がなかなか進んでいない業種なのです。
逆に、その状況を逆手にとって「フルリモート対応可能!」と打ち出す税理士事務所も出てきています。
根本的な原因はここです。
経理というのは企業に必ず必要な業務のため、システム化が古くから行われてきました。しかし、クラウドシステムが出てきたのはここ数年のこと。
それまで多くの企業は「オンプレミス」といって、自前サーバーにシステムを組み込む方式でソフトを導入したり、規模の大きな企業では、自前で経理・会計システムを開発していたのです。
すでにクラウド化されたパッケージシステムを使っている企業でない場合、社内のみの経理システムを、ネットを通じて外部に解放するとなると、セキュリティの心配があります。もし、ハッキングされたらその会社の財務情報が全て明らかになってしまいます。
経理システムだけ解放しても、連携するシステム勤怠管理などが見られないとなると、結局は確認のために出社しなくてはなりません。
そして、テレワークで最も大変なのが、オフィスと同様のセキュリティとネット環境を自宅にも再現することです。
個々のネット環境に頼っていては、セキュリティは不安ですし、通信速度も足りません。環境構築ができるシステム担当者や部門がない会社では、そもそも何から手をつけて良いかわからないという状況になってしまいます。
経理は担当者別に行う業務が多いですが、それぞれの業務は連携しています。別の部署への確認が必要になることも多いです。そのため、確認したい事項を気軽に確認できる状況にないと、作業がストップしてしまうこともあります。例えば決算業務です。総務部での固定資産管理を確認したり、営業部門での経費申請の未払い分を確認したりなど、細かい確認業務が山のように生じるのです。
社内ならメールをして督促のために内線をかけ……といった対応ができますが、各人がリモートの場合は確認するための仕組みを作る必要があります。
また、テレワークとなると、PC操作やシステムに疎い人のちょっとした質問についての受け皿がなくなってしまうという問題も生じます。自宅環境ならではというトラブルが生じた場合に、どこに確認すれば良いか。社内ヘルプデスクがあるような企業でも悩ましい問題です。
こうしてみると「経理業務でテレワークとか無理」となりかねませんが、実際に行っている企業がいるのも事実です。それぞれの企業によって状況は異なります。経理のテレワークを推進めるためには、原因を一つずつ解消していく必要があります。
順番に見ていきましょう。
まず取り組みたいのは「紙」のペーパレス化です。
受領する紙帳票のPDF/画像データ化を行う業務フローを作りましょう。
例えば、経費精算のデータの受け渡しはシステム内で完結することができても、領収書や請求書、必要添付書類(会議プログラムなど)は紙ベースで受け渡しをしているような場合、全てをPDF化して添付ファイルにしてもらうなどです。
また、こちらから発行する請求書なども、経理システムと連携できるクラウドシステムを採用することでペーパレス化することができます。
取引先とのやりとりを完全にペーパレス化することは難しいため、完全に在宅勤務への移行はできないかもしれません。しかし、郵便などの受領や帳票のPDF化については、当番制などにして順番に出社して対応するという折衷案も取り入れることで、まずは半分テレワークから移行を進めましょう。
打ち合わせについては、ビデオ会議システムを活用して慣れていくしかないでしょう。いきなり在宅に移行してしまうと、自宅で使い方がわからずに困ってしまうという事態になりますので、リカバリが可能な社内でまずは活用。使い方に慣れておくことをおすすめします。
会計士や税理士の導入は少ないと書きましたが、逆に危機感を持っている事務所はすでに切り替えて社外の打ち合わせについての活用も進んでいます。帳票のペーパレス化を推進しつつ、並行してオンラインでの打ち合わせを行っていきましょう。
経理をテレワークへ移行する際、システム周りがある意味、一番ネックとなる部分です。しかし、もしかしたら今後出社が一切不可能になってしまうかもしれないという状況にも備え、社外からアクセスできる環境を整えておくことは「リスク管理」の一貫にもなります。
システム周りの構築は費用もかかりますが、非常事態においても業務を円滑に進めるための必要経費として取り組むべきでしょう。併せて、自宅へ持ち運びが可能な会社用のノートPCなどの配布も必要です。
メールやビデオ会議をするほどでもない「ひとこと」のやりとりなど、オフィスにいたら気軽に話しかけたり、な飲泉電話をかけたりできる環境にありますが、在宅だとそうはいきません。
しかし、在宅でも仕事をしやすい環境を整えるために、ちょっとした話しかけを再現できるチャットツールなどのオンラインでのコミュニケーションを行うことができるツールにも慣れていく必要があるでしょう。また、会社から配布するスマートフォンで内線・転送・外線通話ができるツールもあります。
テレワークでも会社にかかってきた電話を取ったり、電話を取り次いだりできるのです。
このように、会社を離れても会社にいたときに近い環境でコミュニケーションできるようにしておくことはとても大事です。
テレワークで「会社の中でも面倒な付き合いがなくなって楽!」という声が取り上げられがちですが、仕事中に話しかけられない方が気が楽というタイプの方ばかりではありません。自宅で孤独に作業することでメンタルヘルスに変調を来してしまう方もいます。
ただし、文字だけのコミュニケーションの場合、業務を逸脱したり、カジュアルになりすぎないように、履歴を取るなどある程度の抑止は必要です。
経理に限ったことではありませんが、オフィスとはまるで環境が違うテレワーク勤務への移行を行う場合は、「いきなりではなく徐々にシフト」していくというのが成功の秘訣といえます。
ここまで見て「経理が在宅勤務とかテレワークに移行するのって大変だから、営業とかできる職種だけしてもらえば?」と考える方もいるかもいるかもしれません。
しかし、コロナ禍の影響もあり、在宅勤務の要望というのは高まっています。
「テレワークが当たり前」という環境になれば、フルタイム勤務だけでなく、時短でも働きたいという潜在需要も多いのです。
そして、フルリモートによる完全在宅勤務テレワークを実現している企業ももちろんあります。そうなると、在宅勤務を希望する優秀な方は、より柔軟性のある働き方のできる企業に流れていくのです。
特に経理は専門職。これまでも高いスキルがありながら、育児や介護、配偶者の転勤などが生じた場合に、テレワーク制度がなかったために退職せざるを得なかった経理担当者というのは多くいます。そうした方は、自然とテレワークができる企業へと集まっていくでしょう。
つまり、冒頭にも書いたとおり「テレワークができないことによる退職」はコロナ禍だからというわけではないのです。
そこから新しく欠員を補充して、教育してとなると企業の採用・育成のコストは計り知れません。これからは尚氏高齢化によって人材不足はますます加速します。
テレワークのような柔軟性のある働き方を許容するだけでなく、むしろ推進することで、企業所在地だけでなく、日本中いや世界中から埋もれた人材を自社に集めることもできるのです。
テレワークで、コロナ禍を乗り切ることよりも、もしかるすと優秀な経理人材を集められるメリットの方が大きいのではないでしょうか。
仕事内容が複雑化している企業ほど、在宅勤務への以降に抵抗があるかもしれません。しかし、いまかかるコストを先送りしたところで、現在テレワークへの移行を着々と進めている企業と将来的に大きな差がついてしまうことは明白です。
テレワークを可能にして柔軟な働き方を推奨することこそ、企業のリスクを管理し、かつ従業員の福利厚生にもなり、優秀な人材があつまるきっかけにもなるのではないでしょうか。
とはいえ、経理のテレワークへの移行は、システム化などもあってすぐには実現が難しいかもしれません。まずはできることから手をつけ、メンバーで交代で行ったりするなど、徐々にシフトしていきましょう。