経理の年収はどれくらいでしょうか?経理の仕事内容の専門性の高さを考えると比較的高いイメージを抱く人もいる一方で、企業に雇用されている以上他の業務担当者と年収は変わらないし、仕事の難易度を考慮すると低いと考える人もいるでしょう。この記事では、男女別などの年収の違いや、年収アップの方法を紹介します。
なお、この記事で引用している年収データは、国税庁が毎年実施している「民間給与実態統計調査(令和元年度)」に基づきます。
まずは、経理担当者全体の平均年収について見ていきましょう。あくまでも、年齢、業種、企業規模などの違いを一切捨象した数字ですので、参考程度に見ていただくのがよいでしょう。
経理職の平均年収は450万円程度です。日本全体の平均年収が約436万円であることと比較すると、経理担当者の平均年収は約14万円多い、つまり漠然とした表現にはなりますが、毎月1万円ずつ多い給料を得ていると言えます。
今見てきたように、経理の年収は特段、日本の平均年収よりも低いわけではなく、むしろ14万円ほど高いことが分かったと思います。
ですが、経理職の年収は低いと言われることが時々あります。
そのような情報が流れるのは、以下のようなイメージからのようです。
確かに売上には直結しないのですが、どの企業にも必要な職種なのでニーズは高いです。また、成果が評価されにくいイメージもあるとは思いますが、このレベルの業務ができればこのくらいの年収がもらえるという指標はありますので、後ほど見ていきましょう。そして経理の仕事はAIなどの台頭により人手がいらない業務も出てきてはいますが、大部分の業務においていまだに人の力が必要とされているので、決して年収を下げる要因にはなりません。
ですので、年収が低いというのはあくまでイメージであり、実際の経理職は平均以上の金額を稼ぐことが可能なのです。
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売上に直結していないものの企業に無くてはならない存在である経理とはどんな仕事をしているのでしょうか?一言でいってしまうと、それは会社のお金全般の管理をすることを意味します。会社のお金の出入りとして分かりやすいのはモノやサービスが売れた時の売り上げや、それを作るための費用、交通費や接待費などがあるでしょう。それらの全ての管理をした上で記録を付け、税金の申告をしたり、決算書を作ることなども経理の仕事です。
経理業務には日次業務・月次業務・年次業務の3つがあり、後者ほど難易度が高いとされています。また、経理に従事する人のトップである管理部長やCFOになると、会社戦略に基づいた資金調達やIPO準備などの業務も行うことになります。
経理の仕事内容についてより詳しく知りたいという方は、下記の記事もご参考ください。
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経理担当者の中でも、男性と女性では、平均年収にどの程度の違いがあるのでしょうか?男女別の平均年収の実態と、年収差が生じる理由について見ていきます。
男性経理職の平均年収は約470万円程度です。経理全体の平均年収が450万円であることを考慮すると、男性経理職の平均年収は比較的高いということが分かります。
一方、女性経理職の平均年収は約430万円程度です。経理の平均年収450万円と比較すると20万円ほど、男性経理職の平均年収と比較すると40万円ほど少ないことになります。
女性経理職の平均年収が、比較的低いのは、経理職として働く女性に非正規雇用者やアルバイト、パートタイマーが多く含まれているからです。
そもそも、経理職は女性に人気のある職種です。なぜなら、女性の場合、経理職として働いた実績があれば、職場復帰や転職がしやすい環境が整っているからです。子どもの育児などのために仕事を一時的に離れてしまう結果として、男性と比較して平均給与が低くなります。勤続年数が短いという点にも原因があるでしょう。多様な雇用形態で働けるだけに、アルバイトやパートの利用が増え、年収が最低限になることも関係していると考えられています。
また、女性の経理職の中には、商業高校出身者や日商簿記検定試験合格者なども多く、大企業で働くというよりかは、年収が低くなりがちな中小企業勤務の経理職を志向する動きがあるのも特徴的です。結果として、女性経理職の平均年収が押し下げられてしまい、男性経理職と比較した場合に、平均年収が下がってしまう傾向になります。
一方で、男性は大企業などでバリバリ働きたいという志向の方が多いです。企業の規模が大きくなればなるほど、経理部に期待される役割も増えるようになります。取引の記帳から、経営戦略の作成、予算と実績の差分を是正するなど、企業経営に欠かせない戦略の立案などと関わるようになると、経理職の給料も上がるでしょう。特に、経営企画・コンサルティング業務と経理職の仕事を兼務しているような部署では、経理職の給与は高くなる傾向にあります。
企業規模が大きい会社で激務の仕事をこなしている経理担当者の多くが男性です。したがって、男性経理職の平均年収も高くなり、相対的にみると女性の年収が低く見えるのです。
男女で年収に開きがあると、女性だと年収が低くなると思ってしまいがちですが、決してそのようなわけではありません。部長クラス・マネージャークラスなど大企業で高い年収をもらえる層に男性が多いというだけであって、同じポジションにいる女性も同程度の給与をもらえるのです。経理職における男女の年収差は、性別が年収に影響しているからではなく、女性が多様な働き方がしやすい職種であることに起因するので、女性で高年収を狙うことも男性と同じ確率で可能なのです。
次に、年代別の経理職の平均年収について紹介していきます。
すでに説明したように、経理職はスキルや経験を積めば積むほど年収も高くなる傾向にあります。なぜなら、実績に応じて重要なポストが与えられ、その結果年収がアップする仕組みが採用されているからです。
逆に言うと、年齢を重ねてもスキルや経験が伴わないと年収が上がるわけではありません。
以下では、20代、30代、40代、50代に分けて経理職の年収を紹介していますが、あくまでも平均を比較しているだけであって、スキル次第でばらつきがあるのが実情です。
ですので、参考程度に見ていただくのがよいでしょう。
20代は未経験者の割合が多いので、300万円程度ですが、もし30代で未経験から経理職になれたとしても、年収は300万円程度になるのが一般的です。次のトピックで役職やスキルによる年収の違いについて紹介していきますので、ご自身の年収が高いのか低いのかを検討するなら、そちらをご参照ください。
経理と一括りに言っても、どのような役職で経理職に携わっているかによって年収に差が生まれます。何の役職にも就いていない一般職と管理職とでは年収が違うのは当たり前ですし、担当している業務に課されている責任の重さや求められるマネジメント能力の違いによって年収に違いがあるのは当然です。
ここでは、役職やポジションごとの年収について紹介します。
新卒や経理未経験から転職したての方、経験が浅く役職には就いていない方が当てはまります。一般職の年収は250万円~399万円程度です。
経理としての初歩的な業務を日々積み重ねながら、仕事のノウハウを覚えていく段階です。
部署の担当者やリーダー候補、あるいは、経営分析を担当する方などが当てはまります。
中間層の年収は400万円~599万円クラスです。一般的な会社員の平均年収層は、経理職の中でも中間層的な位置付けといえます。
経理未経験や経験の浅い人材に指導を行いながらも、自分自身のマネジメント能力の成長が期待される段階です。
このポジションには経理財務のスペシャリストであったり、決算期のリーダー的な責任のある役割が期待されます。
年収は600万円~799万円クラスと、経理職の中でも市場価値が高くなってきます。
会社全体の財政状況を把握しつつ、同時に経営的な視点への理解も求められるようになります。
会社の経理やIR業務の責任者には、組織内の経理業務の円滑だけを考えるだけではなく、株主や投資家などから当該企業がどのように評価されているのか、という観点から仕事をこなすことが求められます。
このポジションになると、年収は800万円~999万円まで上がっていきます。
この年収層にまで到達すると、総務課や広報部門などとの兼任も考えられ、将来的には会社の経営面への参画も視野に入ってくるでしょう。
経理職としてハイクラスといえるこのポジションの年収は、1000万円以上です。
会社内で経理部門に対する責任をもつだけでなく、企業の資金調達を統括する財務部門や経営リスクの管理、IRに対する責任も担うことになります。
国際会計基準(IFRS)や株主総会戦略など、法制度に関する知識にも深くなければいけません。
「経理の仕事」と言っても、毎日の領収書の確認作業から監査法人との詳細なコミュニケーションなどに至るまで、難易度にかなりの差があります。経理担当者の経験やスキルに応じて任される仕事の責任の重さにも違いがあるので、結果として年収にも違いが生まれます。先ほどご紹介したポジション別にどんな経験やスキルが求められるのか、見ていきましょう。
この年収層は、経理未経験者や経理経験が浅い人材が中心です。経理の基礎体力である簿記の知識を習得しながら、仕訳の作成や請求書の発行、領収書の確認業務などの簡単な経理業務を任されることになります。
この年収層は、経理業務を最低でも3年以上は経験している人材が想定されます。また、経理の基本業務だけではなく、財務的視座やIRに対する知識、その他に自分なりの専門的スキル(法律や英語力など)を有することが求められます。
この年収層は、経理財務やIRなどの高難度の経理業務を3年以上経験している人材がメイン層です。中小企業であれば管理職を経験していたり、上場企業の経理業務を担当していたり、専門的な観点から自分の強みをアピールできるのが当然でしょう。
この年齢層は、上場企業での決算業務や経理財務を数年経験している人材が考えられます。上述のように、会社における経営的な視点も求められるポジションなので、自社の収益ツールに関する理解も必要です。
この年収層は、経理での経験が最低でも10年以上はある経理のプロフェッショナルです。
経理職で年収を上げる方法としては、主に以下の3つがあります。
今の職場で働くにしても他の職場に転職するにしても、今以上の業務スキルを積んでいきキャリアアップすると、自然に年収も上がっていきます。
大企業・外資系企業の経理職の平均年収は600万円程度と、中小規模の企業が400万円程度であることに比べると高い傾向にあります。
大企業の経理職の年収が高くなるのは記帳業務以外の業務が増えるからです。例えば、予算の策定や経営戦略の練り直しなど、経営者の意思決定をサポートする部門としての役割を担うこともあるでしょう。また、連結決算業務や監査法人との厳しい折衝、株主総会対応、外国会計基準などの知識も求められることがあるので、年収レベルが高くなるのは当然です。
大企業・外資系企業の経理職の年収についてはこちらのコラムでも詳しく紹介しています。あわせてご参照ください!
経理は業務内容の専門性が高いので、資格を持っているかどうかで、資格手当などにより大きく年収が変わります。では、年収アップにおすすめの資格を、具体的に見ていきましょう。
まず、言うまでもなく「簿記」の資格は経理の業務には大変重要になります。
転職の際に有利となるのは日商簿記2級以上になることが多いので、経理職の転職を目指す際は、3級の勉強から始め、最終的には2級の取得を目指すのが良いでしょう。1級を取得するとかなり難易度の高い高度な知識が身につきますので、簿記以上の資格(税理士や公認会計士など)を目指す際は、1級の取得を目指すこともおすすめです。
税理士資格は税務に関する業務を行う上で、非常に重宝される資格です。
税理士資格は国家資格ですので、難易度も高く取得するのに5~10年ほどかかることも多く、合格率は約18%と言われています。税理士の資格取得には5科目以上合格していることと、実務経験が必須となりますので、働きながら時間をかけて取得することをおすすめします。税理士資格を持っていれば、経理職はもちろん税理士事務所での勤務も可能で、将来的には独立も考えられます。
続いては、公認会計士資格です。公認会計士の資格は税理士と同じく難関国家資格です。公認会計士の資格を取得するには「短答式試験」と「論文式試験」の両方に合格する必要があり、合計で約3,000時間以上勉強しなければ受からないと言われています。公認会計士の資格を取れば、同時に税理士としての登録も可能ですので、先に述べたように独立も視野に入れて考えることができます。
ビジネス会計検定は、財務諸表の分析や解読の力を問われる資格で3級から1級まであります。簿記と同じく財務諸表について学ぶことになりますが、簿記よりもビジネスで必要になる知識のインプットが多いでしょう。財務諸表を「作る」のではなく、財務諸表を「分析」するといったイメージです。
FASS検定は日本CFO協会が行っている検定試験で、「経理・財務スキル検定」とも言われます。日本CFO協会HPによると、FASS検定(経理・財務スキル検定)は、経済産業省が開発した「経理・財務サービス・スキルスタンダード」をベースに米国テスト理論を取り入れることで、経理・財務分野における客観的な実務知識・スキルの習得度を測る検定試験です。と書かれています。
会計・経理に関わる資格の中にUSCPAというものがあります。USCPAはアメリカの公認会計士資格のことを言い、米国公認会計士とも呼ばれます。
USCPAは、会計の資格のみならず英語力があることの証明にもなりますので、+アルファの要素として、就活や転職に役立つでしょう。外資系の企業への転職も選択肢に入れられるので、年収アップにもつながります。
ここでは実際に経理職での転職によって年収UPに成功された事例を紹介させて頂きます。
会計事務所で9年ほどのご経験をした後、4年ほど経理職をご経験されたWさんは、これまでの経験を活かしながらリモートワークが利用でき、年収もアップできる転職先を探されていました。
弊社の専任エージェントからは、希望条件を明確化することをアドバイスさせて頂きました。
転職において希望条件が曖昧だったり、決めきれていないと、応募する求人の絞り込みに苦戦してしまいます。Wさんの場合は、週何回リモートが出来ればいいのか、年収の上がり幅はいくらから検討できるのかという各々の条件の最低ラインを設定できたことによって、効率的に応募できるようになりました。
結果的に、その最低ラインをダブルでクリアする職場への転職を成功されました。
24年の経理業務経験があるSさんは、監査対応や税理士対応に加え、業務フロー構築の経験もされていました。
業務フロー構築は難易度がかなり高い経験ではあるものの、なかなか個人で探すのは難しいポジションでした。
ですがSさんは、転職活動の早い段階からヒュープロをご利用いただいていたため、求人の選定に時間をかけず、マッチした求人を専任エージェントから提案してもらうことができました。
結果的に、業務フロー構築の経験を評価され、年収も上げることができ、さらなるスキルアップができる企業への転職を成功されました。
最後にHUPRO(ヒュープロ)に掲載がある経理の求人について、年収ごとに紹介していきます。
年収レンジによって求められる業務内容が異なってきますが、何かしら自分の強みを活かせる求人をきっと見つけられると思います。
また、HUPROでは、士業・管理部門に特化して他にも求人情報を多数掲載しています。
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経理の年収については以上です。男女別・年代別・企業別に、かなりの年収差があることが分かりました。この現状において年収アップを目指すのなら、積極的に資格にチャレンジして、自らキャリアアップの道を模索するより他ありません。
ここで、経理業界の将来像について簡単に紹介します。実は、「今後、AI技術の発展によって経理職の仕事がなくなるかもしれない」ということが言われています。「経理の仕事がAIに代替されるのなら、今から経理のスキル取得を目指しても意味がないのでは?」と思われるかもしれません。
ただし、経理の仕事の中でAIが代替できるのは記帳業務だけです。つまり、記帳業務しかこなせない経理担当者に未来はありませんが、記帳業務以外のスキルを取得している人材は、今後の経理業界でも需要が高いということが導かれます。
会計コンサルティング、企業戦略立案、柔軟な売上げ予測、経営判断など、経理が求められる仕事はまだまだあります。そして、これらの仕事はAIには決して奪われない仕事です。
例えば、財務諸表を分析して経営戦略を立案したりするような能力を養い、今後の経理業界の変革期の中でもキャリアを積めるように、研鑽を積んでいきましょう。