京都大学理学部を卒業後、システムエンジニアとして活躍していた末吉孝章先生。その後、シンガポールでの受験生生活を経て公認会計士試験に合格、現在は会計士事務所でご活躍中です。そんな末吉先生が見た、今後の会計士業界の未来像について、HUPRO編集部がお話を伺いました。
―どのような学生時代をお過ごしでしたか?
子どもの頃は福岡に住んでいたのですが、小学校四年生の時に、父の仕事の関係でグアテマラに引っ越しました。日本人学校に通っていたのですが、そこは方言を使うと注意されるような環境でした。また、百人一首の大会が開催されたり、受験勉強のために夏目漱石を読んだりと、日本の古典に触れる機会があったため、海外生活で「日本人」という感覚が育ちました。
その後、小学校五年生の時に福岡に戻りましたが、友達は相変わらず博多弁で話していて、自分は標準語になっていました。そこで初めて、自分の中で異文化を発見するという体験をしたことが非常に印象に残っています。
―その後は名門の中学・高校に進学されています。
私が通っていた学校は、中高一貫教育で高校一年までの授業で高三までの勉強を終えて、後は受験対策の授業を行う進学校でした。卒業生には、ソフトバンクの孫正義さんや実業家の堀江貴文さんがいらっしゃいます。
同級生の半分は医者の息子で、私も将来の道として医者かノーベル賞学者のどちらかだろうなと考えていたんです。(笑)医者は向いていないだろうと思っていたので、ノーベル賞を取るなら京都大学理学部だろうと思って受験しました。
―大学時代はどのような生活だったのでしょうか。
勉強せずに本ばかり読んでいましたね。ドストエフスキーのような小説か、経営者の本。歴史を追って基礎から考えるのが好きなので、ドラッカーとかコッターとか、教科書的なものを大量に読みました。
また、会計に関して言うと就職先を決めてから、簿記の勉強を始めました。「社会人はみんな簿記を取っている。」と思い込んでいたため、簿記を取得しました。(笑)
―大学を卒業後はどのような進路に進まれたのでしょうか
最初はエンジニアとしてシステム会社に就職しました。SF小説が好きで、その中で未来が変わっていく姿に興味を持ったことがきっかけです。
会社は社員600人ぐらいの受託開発をやっている会社で、最初は「アーキテクト部」に配属になり、そこでプログラミングを学びました。JavaやC#、Rubyといったものですね。
そこでリードエンジニア的な立場を経て、三年目に全国的な警報システムの開発をしたとき、ソフトウェアのPM的役割を果たすようになりました。その後はプロジェクトの全体進捗を管理するような仕事をしていました。
経営陣とともに各部課長の話を聞いてこうしたほうがいいといった助言を行い、問題がありそうなプロジェクトには自分も入って立て直していくといった業務を担当しました。
具体的な業務内容としては英語試験の受験システム、金融系の資格試験の受験システム、大手石油会社の小売システム統合などに携わりました。システム会社には合計で6年在籍していました。
―学生時代の経験が生かされた部分はありましたか?
本を読むという習慣でしょうか。システム会社というかエンジニアは、会社に入ってもずっと勉強しなければならない業界。プログラミングだけにとどまらずシステム開発でのベストプラクティスとはなんなのかといったことに興味がありましたので、そのためにも勉強は欠かせませんでした。
―その後、会計士にキャリアチェンジしたきっかけを教えてください。
きっかけは2つあり、1つ目は、システム会社での仕事に限界を感じたということです。私がやっていた受託開発というのは、もし1,000万円で受託したとすると、その中でどのように上手く作るかという仕事です。もちろん、やりがいはありますが、同時にどれだけ上手くやっても、1,000万円という上限があるわけです。それよりも、自分で収益の限界を伸ばせる仕事をやりたいと思うようになりました。
2つ目は、妻の存在ですね。実は妻の両親が会計事務所を経営していました。会計だけでなくコンサルティングなど様々な分野で活躍できる会計士がいいのではないか、システム開発がしたいならそこでやればいいと言われて、そこで公認会計士を目指そうと考えました。
―受験生時代はシンガポールで過ごされたとお聞きしました。
はい。妻は商社に勤めているのですが、私が会社を辞めようと思ったときにシンガポールへの赴任が決まりました。そこで、一緒にシンガポールに行って、主夫をしながら受験勉強をすることになりました。
―シンガポールでの受験勉強はどのような方法で行ったのでしょうか。
基本的には通信教育で、ビデオと本を使って勉強していました。シンガポールのマンションは非常に豪華で、ジムやプールもあったので、エアロバイクを漕ぎながら勉強したこともありました(笑)。
―海外で勉強する苦労はありましたか?
スクールの教材は海外には送れないと言われて、まず実家に送ってもらって、動画はそこからGoogleドライブに落としてもらうなど、日本にいるよりも手間がかかりましたね。あとは国によって違うと思うのですが、郵便事情がよくないこともありました。一度受け取れなかったら、中央郵便局まで行かなければいけないとか、面倒なことも多かったです。(笑)
あと、仲間がいなかったことですね。仲間がいないと、励まし合うこともできないし、自分の立ち位置というか、進捗度合いとか、どの程度のレベルにいるのかなど、相対的な判断ができなくなるんです。
当たり前のことですが、試験のたびに日本に帰国しなければならないので、周囲の人には非常に迷惑をかけたと思います。
―合格までにはどのくらい時間を要しましたか?
試験勉強を開始してから1年です。30歳を超えていたのでなかなか暗記ができなかったせいか、短答式は3回目で合格。論文は1回で合格することができました。
難しかったのは財務会計ですね。財務会計や簿記は計算が中心というイメージかもしれませんが、ルールが決まっているので、ルールをしっかり暗記できていないと計算するというところまでいかないんです。大学受験のときは進学校だったため、授業について行けばそれでよかったのですが、公認会計士の試験はすべて自分でやらなければならないので苦労しました。
―会計士の試験に合格後は会計士事務所に就職されますが、どのような理由があったのでしょうか。
義理の両親の会計事務所だったというのが前提にありますが2つ理由があります。裁量権広く何の業務でもできることがひとつです。もうひとつは監査法人での仕事に魅力を感じなかったというのが理由です。
監査法人の場合、入社すると典型的には現金を数えるところからスタートするわけですが、そういう仕事がやりたくて会計士になったわけではありませんでした。昔は、監査法人でも最初からコンサルティング部門に配置されるということもあったようですが、今はそういうことはほとんどないようです。
ただし、これから会計士を目指すという人には、4大監査法人と呼ばれる大手監査法人に入社することをお勧めします。会計士の仕事は、勉強したことと実務の間には大きな違いがありますが、大手の場合は監査を決められた手順に沿ってみっちりと経験できることは大きなメリットです。
また、税理士と会計士で迷っているという人もいるかもしれません。典型的な税理士のキャリアとしては税理士法人・会計事務所に所属して、中小企業を相手にすることがほとんどです。この場合、中小企業の社長に会ってお話ができるという経験が積めるチャンスがあります。
一方、会計士になって大手監査法人に勤務した場合、クライアントは上場企業で、相対する方は経理・財務の部署の方がほとんど。ただ、事業統制やリスクコントロールといった全般面で、会計士の方が見聞も広くなることもあります。将来、自分が成し遂げたいことを考えて選択するのが重要ですね。
―現在の会計事務所の特徴や強みを教えてください。
会計事務所の業務としては、会計、税務、給与関連業務などを行っています。グループ会社では、監査や総合的なコンサルティングを行っており、グループ一体となって業務を行っています。全部で14人+非常勤という規模ですが、一人一人がプロフェッショナルであるというのが特徴ですね。
たとえば税務でも資本政策や事業継承、相続対策などへの対応も幅広く行うことができます。また、経営コンサルティングという形で、リスクや問題について幅広く指導・実行しているというのも特徴です。
私自身の担当業務は、監査や税務の仕事もありますが、基本的にはコンサルティングが中心です。経営会議に参加して、お話を聞いてアドバイスをする、またはお話の中から課題を抽出して、それを解決するという業務です。
具体的には、販売管理や生産管理システムの導入、海外子会社の原価計算の適正化、M&Aのサポート、経理の組織づくり、人事評価制度の見直し、就業規則の相談、各種業務の見える化、業務改善とシステム化などをやっています。
―ご自身の強みはどういった部分だと考えていらっしゃいますか?
私自身はエンジニア経験もあるので、ソフトウェア開発手法のベストプラクティスをコンサルティング業務等にも活かしています。また、プロジェクトマネージャとして立案から実行まで一連のやり方やポイントを学んでいますので、クライアントのプロジェクト推進のご支援に役立っています。
業務設計もやっていたので、業務やデータの流れが見えるという点も強みだと思っています。
あとは、ポイントを押さえる能力ですね。
クライアントのお話はしっかり聞きますが、クライアントが当初おっしゃっている通りには直接的に行動しないことがほとんどです。それは、クライアント自身もご自分の悩みが分かっていないケースがあるためです。その場合、当初の考え通りに進めると、クライアントが本当に望んでいる成果をあげられなくなる可能性が高いわけです。
たとえば、「自社のデータを経営に活用したい」という注文があったとすると、その場合には「まず目的は何か」という定義から始めます。
データというのは目的に沿って意識しなければ集まらないものなので、データを集めることで何が見たいのかという点が重要になります。そのため、まずは何を把握したいかを突き詰めて話し合い、考えることが必要です。もちろん議論だけでは進まないので、プロトタイプ的な見える形でフィードバックをもらいながら進めることもします。
―エンジニア経験がある会計士としては、今後会計士の仕事はどのように変化するとお考えでしょうか。
会計士の独占業務としては監査がありますが、今後は間違いなく自動化が進むでしょう。会計士の地味な仕事として、請求書との突合、データの再計算があります。現在でも、一部は実現されていますが、RPAやAIによってこれらの業務はなくなっていくでしょう。また最近では、仮想通貨の会計基準等、新たな経済取引に合わせた会計基準が出て来ています。
定型的な業務はなくなっていきますが、新しい経済事象を理解し、ジャッジするのが今後の会計士の役割だと思います。
監査だけでなく会計関連のフィールドでいえば、会計基準の複雑化に伴い、上場企業の経理やベンチャーの上場準備の対応でも会計士の知識は充分に活かされます。そういった企業内のフィールドでの活躍は今後さらに増えていくのではないでしょうか。
―5年後、10年後に実現したいことについて教えてください。
中小の経営者の右腕になって活躍するため、さらに力をつけていきたいです。中小企業の抱える問題は2つあります。1つは指数関数的に経営環境が変わることで経営者の判断がより難しくなっていること。もう1つは経営者とスタッフの間にギャップがあることです。
こういった問題を解消するために、情報収集を欠かさず、ポイントを見極めてお手伝いできる技術を磨いていきたいと思っています。
―最後に受験生へのメッセージをお願いします。
勉強は大変ですが、会計士は幅広いフィールドで活躍できる仕事です。監査はもちろん、税務、コンサルティングなど経営全般に広がっています。非常にやりがいのある仕事だと思います。
もし試験に合格して、監査法人に飽きたらぜひうちの事務所に来てほしいですね(笑)。
―本日はお話を聞かせて頂きありがとうございました。
今回インタビューさせて頂きた末吉孝章さんが勤める
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