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【決算解説シリーズ】東証2部上場企業の優等生『ブルドックソース株式会社』の財務分析

公認会計士 荒井薫
【決算解説シリーズ】東証2部上場企業の優等生『ブルドックソース株式会社』の財務分析

3月期決算企業の第2四半期決算発表が続きます。全般的にコロナ禍で業績が厳しい企業が多いですが、このような環境の中でも年初来高値を更新している企業もあります。今回は、その一つであるブルドックソース株式会社を取り上げます。自粛生活の中でソースの売上が堅調な同社の決算短信を中心に分かりやすく解説します。

創業118年目を迎える老舗企業ブルドックソース

東証2部上場企業に対しては、一般的に地味なイメージを持っている人が多いと思いますが、地味ながら財務体質が健全で好不況に関わらず安定した業績を出している企業もあります。その中の一つとして挙げられるのがブルドックソース株式会社(以下ブルドックソース㈱とする)です。

ブルドックソース㈱は、1902年の創業以来、基本的にソースの製造販売に特化してきた企業です。最近ではドレッシングや買収をしたイカリソースなどの別ブランドも展開していますが、事業の多角化はしていません。しかしながら、ソース分野では圧倒的なブランド力を誇り、また、景気に影響を受けない商品であるため業績は安定しており、その結果財務体質も盤石です。

また、事業セグメントが一つなので、それほど難しい財務分析力を必要としません。そのため、財務分析の基本を深めたい初心者にはお勧めの企業でもあります。

2021年3月期第2四半期決算の概要

まず、10月23日に発表された2021年3月期第2四半期の業績を確認します。
決算短信では、1ページ目に主な業績数値が記載されています。まず、この1ページ目の財務数値を確認して業績概要を把握します。

参照:2021年3月期 第2四半期決算短信 [日本基準](連結)

第2四半期累計での売上高は前年同期比105.2%、9,077百万円、同様に営業利益は148.6%、514百万円と堅調な業績となりました。その結果、1株当たりの四半期純利益は35.46円となり、前年の25.33円から大幅に増加しています。そして、元々自己資本比率が高く財務体質が良好でしが、2020年9月末時点で自己資本比率は77.9%であり、1株当たり純資産額は1,513.61円です。年間配当額は35円を予定しています。これは、年初来高値の1,370円で計算をして、配当利回りが約2.5%、PBR(株価純資産倍率)は0.81倍であり、長期保有目的の個人株主の人気が根強いのも納得できる財務数値となっています。

ブルドック㈱の財務分析ハイライト情報

次に、当該第2四半期決算短信を中心に、2020年3月期の有価証券報告書も参照しながら、ブルドックソース㈱の財務分析から企業の特徴を説明したいと思います。

参照:2020年3月期の有価証券報告書

①実質無借金経営

自己資本比率が80%近くある財務体質が強固な企業ですから、貸借対照表を見ると実質無借金経営であることが分かります。
2020年9月末時点での貸借対照表によると、以下のようなバランスになっています。

・現金及び預金47億円
・短期借入金0.3億円、1年内返済予定長期借入金2.5億円、長期借入金3.3億円
⇒有利子負債総額6.1億円

有利子負債をいつでも返済出来るだけの現預金を保有していることが分かります。
更に買掛金、支払手形、未払費用等の営業債務の額は24億円であり、運転資金も十分であることが窺えます。このように、実質無借金経営の中でも実態としてかなり優秀であることが貸借対照表から見ることが出来ます。

財務分析をすると、実質無借金経営の企業と無借金経営の企業を見ることが出来ます。無借金経営をすること可能なのに、ブルドックソース㈱のように敢えて金融機関から借入をする意図はどこにあるのかについて理解をすることも併せて重要です。

ブルドックソース㈱のように歴史が長い企業においては、その歴史の中で何度か経営危機に直面することもあるはずです。どんなに財務体質が強固であっても、経営危機に直面した場合には、金融機関の支援が必要になることもあります。借入金を必要としなくても、常に金融機関から借入をすることで、企業としてのクレジットヒストリー(信用履歴)を積み上げることが出来ます。このクレジットヒストリーは、いざという時に金融機関から借入をする場合に、スムーズに条件が良い借入をするために必要なものなのです。

このように考えていくと、無借金経営が必ずしもすべての面において優れていると判断することは出来ません。実質無借金経営のメリットを理解しておきたいところです。

②単一セグメント経営

ブルドックソース㈱は、その企業名が示している通り、ブルドックソースを製造販売している企業です。同社のHPは大変分かり易いサイトとなっていて、企業概要やIR情報などに分かり易くアクセス出来ます。その中には商品情報もありますが、ほぼブルドックブランドで占められています。

ブルドックソース株式会社の商品情報
どのような商品群を取り扱っているかは、有価証券報告書の第1部企業情報→第一企業の概況→3事業の内容で確認をすることが出来ます。そして、いわゆるリスク情報と呼ばれるものは、第1部企業情報→第2事業の状況→2事業等のリスクで確認をすることが出来ます。この2つの定性情報を読むと、同社の事業がほぼ完ぺきな単一セグメント経営となっていることを読み取ることが出来ます。

実際に、HPで確認をしても、ソースとソース関連商品以外で見つかるのはドレッシングくらいです。日本で初めてウスターソースの製造を始めた、ソースにおいては絶対的なブランド力を誇る同社の強みはそのブランド力と市場シェアであることが良く分かります。

このように一つの事業や1つの商品群に特化している企業は、単一セグメント経営と呼ぶことが出来ます。企業の強みと弱点がとても分かり易いのが特徴で、特にブルドックソース㈱の場合は、余剰資金でシナジー効果が見込めない異業種などへの投資なども一切行っていないことは、有価証券報告書の「事業の状況」や「設備の状況」を読むと簡単に理解することが出来ます。

③高い自己資本比率

これは、既に先に具体的な数値を挙げて説明をしています。2020年9月末時点で、自己資本比率80%近い堅牢な財務体質を誇ります。貸借対照表の固定資産の内訳と有価証券報告書の事業上のリスクを読むと、総資産の30%程度を占める80億円ほどの投資有価証券を保有しており、これは取引先等の株式であることが分かります。

純資産額が約203億円なので、純資産額に占める投資有価証券が占める割合が比較的高く、事業継続のためには投資有価証券を換金することは簡単ではないことが読み取れることから、仮に業績不振になった場合には、やはり金融機関の支援が必要になるのであろうことが読み取れます。このように読み解くと、金融機関との関係を維持している同社の姿勢は評価できるものと判断出来ます。

④安定した大株主構成

有価証券報告書の、第4提出会社の状況→1株式等の状況の中には、上位10位までの大株主の記載があります。ブルドックソース㈱は、創業から120年近く経つ企業で、現在大株主の創業家の名前は有りません。また、外資系の大株主の名前は見当たらず、大半の大株主は取引先企業であることが分かります。

また、同社の代表取締役社長は創業家一族ではなく、生え抜きの取締役から選ばれています。2017年に亡くなった池田前代表取締役は女性で、ベンチャー企業の女性経営者ではないのでメディアでの露出度は決して高くなかったのですが、剛腕なやり手経営者として知られています。

同社は、2007年当時、株式の10.25%を保有する米国の外資系ファンドの大株主がいました。そのファンドであるファンドスティール・パートナーズは、2007年5月、同社の全株式の取得を目指してTOB(株式公開買付)を行うと発表しました。ブルドックソースは直ちに同ファンドへ質問状を送りました。それに回答したファンドの説明によると、同社の会社経営の意図はなく、事業計画なども策定していないことが判明しました。

最終的に、会社は女性経営者だった池田社長(当時)の判断に基づき、同ファンドのTOBは同社の企業価値を毀損するものであるとして新株予約権無償割当による防衛に出ることを決めました。具体的には全株主に1株につき3個の新株予約権を割り当て、スティール関係者のみ株式の代わりに金銭を公布するというものです。

これに対しファンド側は、株主平等原則に違反しており、また著しく不公正な方法であるとして、その新株予約権無償割当差止を求める仮処分を申し立てています。
最終的には、裁判においては会社側が全面的に勝訴をしています。

その年の定時株主総会の様子は、メディアで大々的に取り上げられました。この一連の事件を会社のトップとして乗り切った池田社長(当時)の采配は素晴らしいものだったと記憶に残っています。この事件の教訓から、今の大株主のような構成になっているのであろうと想像出来ます。

有価証券報告書を読み取ると、現在の主要株主である取引先と思われる企業とは株式の持ち合いをしているものと思われます。これは、買収防衛策の一つであると判断出来ます。ブルドックソース㈱のような業績が堅調な単一セグメント経営をしている企業は、株価が割安であるとこの事件のようにTOBを掛けられるリスクが相対的に高いと判断出来ます。このTOBを阻止するための買収防衛策は過度なものは、既存株主の権利を阻害するものであるとして株主総会などで批判されることがあるのも事実です。

ブルドックソース㈱は、配当性向も50%程度と比較的高いのは、持ち合いをしている取引先への配慮であるとも見ることが出来ると思います。
このように、有価証券報告書の定性情報を読み解くと、財務諸表だけを読んでいては分からない企業の姿を理解することが出来ます。

まとめ

財務分析を勉強すると、日経新聞の一面で決算が取り上げられる東証一部上場企業の決算短信、決算発表資料、有価証券報告書などを読んで、自力で財務分析を深めてみたいという人が多いと思います。けれども、日経新聞の一面に取り上げられている大企業は、事業が多岐に渡っていて、決算短信のトップページの財務数値と連結財務諸表だけでは、具体的な事業の実態まで理解することはまず不可能です。

一部上場の大企業の場合には、セグメント情報を丁寧に読み解き、複数年度の財務指標の推移を読み込まないと、腹の底まで落とし込める財務分析は難しいので、財務分析が途中が挫折してしまうかもしれません。

そのような財務分析初心者には、まずはここで取り上げたブルドックソース㈱のような単一セグメントで財務諸表がシンプルな企業の全体像を丁寧に読み解くことをお勧めします。このようなシンプルな企業で、事業の内容も身近な企業の財務分析は、定性情報も読みながら行うと企業の実態までよく理解できます。そして、Yahoo!ファイナンスでは、よく比較される企業が挙げられています。それらの企業の財務分析を行うことで、財務分析に慣れることが出来ますので、機会があればチャレンジしてみてください。

この記事を書いたライター

公認会計士としてIPO準備支援業務に従事後独立。M&A業務や中小企業支援業務を行い、その後事業会社のCFOに就任。ブランドプリペイドカード発行事業の立上げなど行う。現在は主に海外Fintech企業への日本市場のサポート業務などを行っている。
カテゴリ:コラム・学び

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