日本で活躍する税理士のなかには、国税局出身のOB(国税OB)の人がいます。税理士のおよそ3〜4割程度が国税OBです。国税OBの税理士は、若くして試験を突破してきた税理士よりも年収が比較的高い傾向にあります。今回はなぜ国税OBの方が年収が高いのか、その理由を税制度の歴史を紐解きながら解説します。
国税OBの税理士の年収が高い理由には日本の税制度環境が関わっています。
もともと、現在の申告納税制度は、第二次大戦後のアメリカの占領下において制度化されたものです。遡ること1946年に、日本国憲法が公布されました。その憲法において、教育、勤労にならぶ国民の三大義務の一つとして「納税の義務」が定められたのです。
また翌年には、納税者が自主的に自分の所得や税額を計算して申告・納税する申告納税制度が導入されました。ときは戦後ということもあり、一般の方が自分で所得や税額を計算して申告し、納税することは大変困難であったということあり、納税者の税務申告をサポートするための専門家として税理士という国家資格が誕生しました。
当時は、税理士が誕生したばかりの資格であったことから、国民の需要に対して供給が追いつかない状況でした。つまり、国民の数に対して、税理士の人数が絶対的に足りていなかったのです。そんな状況では、国民の3大義務の一つである納税の義務を果たすことができません。そこで、税務に関することであれば、「国税局の職員が良く知っている」ということもあり、一定以上のキャリアを積んだ国税職員に対しては、税理士試験を突破せずとも、無試験で税理士資格を与えることを認めました。
その結果として、戦後は、国税出身のOBが数多く存在していました。現在も、国税OBの税理士が多く、税理士試験上も国税OBであれば科目が免除されるのはその名残です。たとえば、税理士法8条4号によれば、所得税、法人税、相続税、贈与税、消費税若しくは酒税の賦課に関する事務に従事した期間が10年以上となれば、税理士試験の税法に属する科目のうち国税を免除とすることができます。
国税で働く人は採用されると、所得税・法人税・資産税の調査事務に携わることが多いことから、10年間国税での業務を経験することで税理士試験の税法科目がすべて免除になります。
さらに、税理士法8条10号イによると、所得税、法人税、相続税、贈与税、消費税若しくは酒税の賦課に関する事務に従事した期間が23年以上となった場合には、会計学に属する科目が免除になります。調査事務に携わり、23年間経験すると、税理士試験の会計科目が免除になります。税法科目の免除と合わせて、これで税理士試験は免除となり、税理士となることができるのです。
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うえで述べた事情があったことから、現在でも、国税OBの税理士は数多く存在しています。税理士試験には科目合格制が採用さており、10年以上の月日を要する人います。それだけのリスクを負いながら、長い時間かけて勉強できる人は多くありません。
結果として、現在でも、税理士試験を突破して税理士になる人が4割程度、国税OBの税理士3割程度となっているのが現状です。残りの3割は、公認会計士から税理士になる人たちです(公認会計士となると、税理士として登録することができます)。
こうした現状があるため、国税OBの税理士はすでに税務の経験が豊富で、人脈のネットワークもあることから、税理士として働きはじめたときから多くの仕事を得ることができます。これは、税理士試験を突破して税理士になった人と比べると大きなアドバンテージです。
その結果として、国税OBには仕事がたくさん回ってくることから、年収も高くなる傾向にあります。税理士になった年数は同じでも、国税OBというだけで年収が高くなるのには、こうした理由があるというわけです。
一般に税理士の年収が高いと言われるのは、昔はこうした措置がとられていたことから、年齢を重ねている国税OBが税理士になっていたためです。したがって、若くして(30歳程度)税理士試験を突破した場合、まだまだ経験もなく、人脈のネットワークもないため、年収が低くなってしまいます。
最近の税理士の平均年齢の高さは、税理士業界も高齢化が進み、かつて試験に合格して税理士になった方々も時代と共に年齢を重ねているからです。そのため、単純に年収で比較した場合、税理士全体としては年収が一見高いように見えますが、実際には、同じ年齢の税理士であっても、年収は様々で、年収にばらつきがあるのは、税制度を取り巻く環境要因が大きく関係しているのです。
税理士となるためには、様々な方法があります。そのなかでも、全ての試験科目を実力で突破して税理士となった人はそれほど多くありません。そうした人は、税理士試験を突破するために猛烈な試験勉強をしていることから知識も豊富です。
そうした人が、税理士事務所に所属して経験を積んでいけば、大きな戦力となります。したがって、大手の税理士事務所は、国税OBよりも、税理士試験をきちんと試験で突破してきた人を採用したいと考えています。
したがって、国税OBの方が年収が高いという事実は受け入れつつも、税理士として今後活躍したいという人は、試験をきちんと突破して税理士となることを考えるべきです。今後、人工知能の発展によって税理士の業務の自動化は益々進行していきます。そうした環境のなかで活躍できる税理士となるためには、税務に関する高度な知識だけではなく、その他の分野の知識を応用していく力が必要です。
税理士業界全体の年収事情についてはこちらのコラムでも詳しく紹介していますので、あわせて是非ご覧ください。
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