中央大学法学部卒業後に公認会計士試験に合格。監査法人トーマツを経て、現在は株式会社ブリヂストンの企業内会計士として管理会計部に所属し、活躍する横井智哉さんに、HUPRO編集部がお話を聞いてきました。
【経歴】
2009年3月 | 中央大学法学部法律学科卒業 |
2009年11月 | 公認会計士試験合格 |
2009年12月 | 有限責任監査法人トーマツ入所 名古屋事務所配属 |
2009年9月 | 公認会計士登録 |
2015年6月 | 有限責任監査法人トーマツ退職 |
2015年7月 | 株式会社ブリヂストン入社 ブリヂストンタイヤジャパン株式会社出向 財務企画部 所属 |
2018年6月 | 株式会社ブリヂストン 管理会計部 所属 |
―いつ頃から公認会計士になろうと思いましたか?
元々法律の勉強に興味があったので、高校卒業して中央大学の法学部に進学して最初は司法試験の勉強をしていました。しかし、徐々に自分の将来を考える中で、ロースクールに進学しても自分にとって時間とお金がかかり過ぎてしまうと感じるようになり、大学2年生の終わり頃に司法試験受験を断念しました。しかし、何か手に職を付けたいという気持ちは変わらず、今まで勉強した内容や勉強のやり方を活用できる道をと思い、公認会計士を目指すことにしました。
そのため、正直特に強い意志があって公認会計士を目指したというわけではないです。公認会計士を目指すと決めてからはすぐに大学の駅近くの予備校に通いはじめ、就職活動はせずに勉強に専念していました。
―法学部から公認会計士を目指す上で苦労したことはありますか?
法学部だったので硬い文章を読む機会は多くあり、あとは公認会計士試験にも法律科目があるので、それは司法試験の勉強内容がそのまま役に立ちました。ただ、数字との関わりがなかったため簿記など計算科目の勉強には苦労しました。最初の一年間くらいは8割簿記の勉強をしていました。好きな科目と得意な科目は違っていて、結果的に簿記は得意になったのですが、ずっと嫌いでした。そのため毎日のタイムスケジュールで嫌いな科目を先に取り組み、夕方頭が疲れてきたら法律のテキストを読むなど工夫して勉強していました。
―学生時代は資格を取った後のビジョンは考えていましたか?
具体的なものは持っていませんでした。それこそ手に職じゃないですけど、そういうしっかりした資格があれば将来食べていくのには困らないかなと思い、そのあとのキャリアプランは強く考えていなかったですね。漠然とまずは監査法人で修業したいなという程度でした。
―監査法人トーマツに入所したきっかけを教えてください。
公認会計士試験合格当時はリーマンショックの真っ只中で、2009年に論文試験の合格者数が昨年の3分の2になり、監査法人の採用人数もぐっと絞られた時期でした。監査法人の説明会や面接の予約を取るのも一苦労でした。まずは大手の監査法人で基礎的な経験を積みたいと思い、東京だけでは厳しいので地元である名古屋の監査法人も受けていました。最初に内定をもらえたのが監査法人トーマツの名古屋事務所採用枠でした。
―特に印象に残っているお仕事やクライアントさんはありますか?
ある上場準備中のクライアントに対して、上場準備支援業務の契約当初から私が退職する最後まで継続してお仕事をさせてもらった経験が印象深いです。業界でいうと製造業なのですが、少し特殊な業界のため上場している同業他社がほとんどおらず、加えて経理業務に関しても、乱暴な言い方をすれば税理士に丸投げに近い状況であり、いわゆる「経理部」という部署が存在していないような段階でした。そのような状況下で監査のスタートであるバランスシートの検証(期首残高監査)を進めた結果、上場会社の監査とは異なりたくさんの改善事項が出てきたのをよく覚えています。
その後もたとえば内部統制の整備においても、業務記述書のようなものはほとんど何もないので一からヒアリングして雛型を作るという進め方で、大変でしたが密度の濃い経験ができましたね。やっぱり自分自身で一から作りこんでいたので、今でも企業の基本的な業務プロセスを考えるときはとっかかりとしてそのクライアントのことが頭によぎったりします。
―監査で大事な点はどんなことが挙げられますか?
監査というものは、基本的にはその業務で必要な範囲でしか情報収集することができないのですが、クライアント側にはもっと深いところで過去の事例や人間関係など、直接的には監査に関係ない部分でも様々な背景が存在します。そこをしっかりと理解しようという「姿勢」が大事だと思います。あとはクライアントとの関係性は当然大事です。クライアントの社風にコミュニケーションの仕方を合わせたり、些細でも親しくなれる機会があれば積極的に活用したりするように意識していました。
―たくさんの会社を見るなかで危険な会社の判断基準はありますか?
監査の際にディスカッション等をする中で、クライアント社の管理部長や経理部長が自分の会社のことについてストーリー建てて十分に説明できないようなことがあったときは、黄色信号として判断していました。あと、財務指標には如実に現れますので、同業他社との比較や10年間の推移分析をした結果明らかに不自然な点があると、後々問題が発生するケースが多いように思います。やはりどこかに異常点は出てくるものだと考えています。
―転職のタイミングやきっかけは何ですか?
監査法人に入って、経験しておきたかった業務を一通り行い、インチャージを経験してもうすぐ半年が経つ頃でした。ここで自分自身が次に何をしたいか考えたときに、そこまで強く残る理由が思い浮かばなかったことが転職のきっかけです。
―なぜブリヂストンを選んだのですか?
監査法人で勤務した東海地方は製造業の上場会社が多く、クライアントも製造業中心でした。親和性が高く経験を活かせる部分もあると思ったため、ブリヂストンを選びました。また、自動車業界に関連する事業という点でも多くのクライアントと近しい業種なので、そこも魅力的でした。公認会計士として見たときにいい会社だなと思いましたし、面接を受けたときも派手でなく真面目な社風で居心地の良さを感じました。
入社してわかった点ですが、川上のゴム農園から川下の小売店まで事業を持っており、タイヤメーカーと一言でいっても非常に奥が深いです。またタイヤというのは完成品としての製品と自動車に納める部品という2パターンがあるので、完成品メーカーとしての業績管理とサプライヤーとしての業績管理の両方が同時に経験できるというのはとても面白く感じます。
―転職の際、何社くらい受けましたか?
20社くらい受けたと思います。当時は今よりも監査法人から一般事業会社に転職するパターンが少なかったので、採用する側にとってもイレギュラーだったのか、結構書類で落ちてしまいました。今は企業内会計士というキャリアパスが徐々に当時よりは浸透してきているのかなと感じています。
他にも選択肢は色々あるとは思いますが、自分の中で企業内会計士という道に進むことを固めていたので、コンサルティングファームなどは受けずに、メーカー業界に絞って企業選びをしていました。
―どのような人が企業内会計士に向いていると思いますか?
頭でっかちじゃない人ですかね。会計監査のプロフェッショナルであるという「軸」はずらしてはいけないと思うのですが、それはそれとして、自分が働く会社の考え方やミッションが明確にあります。ですので、そこに至った歴史を理解しないといけないですし、違う物差しがあるということを理解しておかなければならないと思います。そこを真正面に公認会計士の物差しでぶつかる角が立ってしまうのかもしれませんね。公認会計士ということをあまり前面に出しすぎないようにはしています。
私たちは公認会計士として同僚よりも会計監査についての知識・経験はあるかもしれませんが、同僚はそもそもの会社のビジネスモデルに関する知識だったり、販売部門や工場など様々なバックグラウンドだったりを持っていますので、そこは吸収すべきものとして、十分に尊重することが大切だと思います。
―入社してから今までどのようなお仕事をされてきましたか?
最初の3年間は子会社のブリヂストンタイヤジャパンに出向しました。、販売部門の人ばかりでそれこそ公認会計士の仕事を知らない人がいっぱいいる中に飛び込んだので面白かったです。このときの管理会計の範囲は日本のみで狭い範囲でしたが、入札価格など具体的な採算管理に携わったり、社内カンパニーの業績評価の枠組みを検討したり、担当領域としては深かったです。
出向後は本社の財務部門に異動しました。本社財務では連結の管理会計部署に配属となっており出向時と比較すると内容としては広く浅くといった感じですね。日本もアメリカもヨーロッパもみるが、どっぷりやるというよりかは、経営層の目線で連結での動きをどのようにメリハリをつけて伝えるかということにフォーカスを置いています。
―今のお仕事のやりがいを教えてください。
大所帯の会社のなかで比較的経営層に近い部署にいるので、この大所帯がダイナミックに動いていく局面に多少なりとも関われていることはありがたいです。売上3兆円規模の会社が意思決定をするにあたり、CFOなどの経営層に直接報告できることはとても貴重であり、自分が携わった内容が新聞に掲載されたりニュースで報道されたりすることにはやりがいを感じます。
―管理部門で活躍される方はどんな方だと思いますか?
やはり頭でっかちにならず、柔軟な思考を持って話を理解できる人だと思います。管理部門として襟を正す役割はちゃんと果たすべきですが、それだけだと内々に閉じこもってしまい活躍することは難しいです。たとえそれが効率的でないように見えるかもしれない他部署の物差しも、十分に理解に努め尊重することも大事です。私たちは経理財務のプロフェッショナルとして業務を遂行していますが、他部署もそれぞれプロフェッショナルとしての考え方を持ち、会社の方針に沿って業務に取り組んでいますので、そこはきちんと各々の立場に立って理解しなければならないと思いますね。
―将来のキャリアパスで思い描いたものはありますか?
不確実な世の中なので5年後10年後にどうしているかという計画はあまり細かくは立てていないです。門戸は広げて、色々な選択肢はちゃんと持っておきたいという程度です。
ただ、それでも道を踏み外さないでいられるのは公認会計士の資格があるからだと思います。今まで積み重ねたキャリアは公認会計士を軸に考えてきたので、次に新たな選択肢を判断するなかでも、これまでの経験をどう活かせるのか、そしてそれがどのように今後のキャリアに繋がっていくのかという点で柔軟に判断していきたいと思います。
―経理の仕事に興味をもっている人にアドバイスをお願いします。
伝票起票に代表されるような昔ながらの経理業務は今後減るとは思いますが、残る仕事は確実にあってその仕事はとっても面白いものだと思います。もっとちゃんと考える経理と言いましょうか、今後は単なる数字の計算や記帳だけではない仕事が求められると思うので、そういう目線に立つと経理という仕事はやりがいがあって楽しいはずです。
具体的な話をするのであれば、決算説明会資料をはじめとした企業のIR資料を読み漁るのはとても面白いと思います。定性的な企業の特徴や数字に表しにくい取組みなど、企業のオリジナリティを織り込んだ情報が開示されています。新聞やニュースでは十分に知ることのできない企業のビジネスに沿った詳しい説明が記載されているので、読んでみるとこの企業はここに力を入れているのだなとか、この企業とあの企業は似たビジネスモデルだなといったことを知ることもでき、経理以外にも役立つかもしれないです。
―本日はお話を聞かせていただきありがとうございました。
今回お話をお伺いした公認会計士の横井智哉さんが勤める株式会社ブリヂストンのホームページはこちら:株式会社ブリヂストン