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国際税務とは?基本を簡単に紹介!

税理士 川口拓哉
国際税務とは?基本を簡単に紹介!

経済活動のボーダーレス化がますます進展する経済環境下で、日常的に外国の企業との取引をする会社に勤務されている方も多いのではないでしょうか。
外国の企業と取引をするにあたっては、国内税務だけではなく国際税務もケアする必要があります。今回は、企業における国際税務の基本について解説していきます。

国際税務とは?

「国際税務」とは、国境をまたぐ取引で生じる各国での課税関係に関する議論のことを言います。自社と取引先が共に日本法人であれば基本的に日本の税法をケアすれば足りますが、たとえば自社が日本の企業で取引先が米国の企業である場合、この取引の課税関係を考えるにあたっては、日本の税法、米国の税法、そして日本と米国の間で締結されている租税条約(日米租税条約)をそれぞれ考慮する必要があります。

租税条約とは?

「租税条約」とは、簡単に言うと「租税に関する二国間での条約」のことです。法律では「我が国が締結した所得に対する租税に関する二重課税の回避又は脱税の防止のための条約」と定義されています。(租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律第2条第1号)

また、租税条約の目的は、簡単に言うと「①二重課税・二重不課税を排除すること、②取引当事者に法的安定性を提供すること」の2点です。財務省のホームページでは、「租税条約は、課税関係の安定(法的安定性の確保)、二重課税の除去、脱税及び租税回避等への対応を通じ、二国間の健全な投資・経済交流の促進に資するものである」と紹介されています。

出典:租税条約に関する資料|財務省

国際税務の主要な論点(外国子会社がない場合)

外国子会社がない場合の国際税務の主要な論点は、①外国税額控除、②恒久的施設の有無、③消費税の課税関係の3つです。

①について、日本の税法では、外国で課された所得に対する租税(以下、「外国所得税」)の額を日本の法人税額から控除することができます。(外国税額控除)

外国税額控除の適用にあたっては、控除計算の基礎が外国所得税のみであること(たとえばVATは外国所得税に入らない)、外国所得税の額のうち控除限度額までしか日本の法人税額から控除できないこと、外国税額控除を選択する場合は日本の法人税額の計算上外国所得税の額が損金不算入となること等に留意が必要です。

②について、「恒久的施設がなければその国で事業所得は課税されない」という国際的ルールがありますが(このルールは、上述した日米租税条約にも記載されています)、逆に言うと恒久的施設があればその国で事業所得に対する課税を受けることになります。恒久的施設の有無の判断に関するルールは国ごとで異なるため、外国で想定外の課税を受けないために、取引を行う前に詳細な検討を行うことを推奨します。

③について、消費税は資産の譲渡や役務の提供を行う場所が国内か国外かで課税関係が変わるため、取引スキームの検討においては消費税の課税関係も考慮する必要があります。また、国外の事業者からインターネットを通じて電子書籍を購入したり広告サービスを受けたりする場合は、一定の場合を除いてその取引には消費税が課されます。

通常、消費税の納税義務者は資産の譲渡や役務の提供を行う者ですが、このインターネットを通じて国外事業者から役務の提供等を受ける取引については例外的に資産の譲渡や役務の提供を受ける者が申告・納付の義務を負う点、留意が必要です。

国際税務の主要な論点(外国子会社がない場合)

国際税務の主要な論点(外国子会社がある場合)

外国子会社がある場合、上述した①ないし③までの他に

④移転価格税制
⑤外国子会社に対する寄附金の損金不算入
⑥海外子会社配当の益金不算入と源泉税の損金不算入
⑦過小資本税制・過大支払利子税制
⑧タックスヘイブン対策税制

にもそれぞれ留意する必要があります。

ここでは④と⑤について簡単に紹介します。
④について、まず移転価格とは、一定以上の資本関係のある法人間で行われる財・役務等の取引の取引価格のことを言います。

そして、移転価格税制とは、その取引価格が不相当に低い場合、その取引が相当の価格で取引されたものとみなして課税を行う税制を言います。なお、ここでいう「相当の価格」は、独立企業間価格と呼ばれます。移転価格税制による課税は巨額となることが多いため、取引価格の設定は慎重に行う必要があります。

⑤について、一般的な寄附金は損金算入限度額を超過した金額のみが損金不算入となりますが、一定以上の資本関係のある外国の会社への寄附金は損金算入限度額の規定がないため、その寄附金の額の全額が損金不算入となります。

設立して間もない外国子会社へ支援を行う場合や損益状況の苦しい外国子会社に対して債務免除を行う場合は、それが損金算入できるか否かについて適切な検討を行う必要があると考えます。

まとめ

国際税務は、考慮・参照すべき法令や条約が国内税務と比べるとかなり多い分野です。特に外国子会社がある場合は、移転価格税制やタックスヘイブン対策税制等、複雑な税制に対応しなければなりません。対応にあたっては、必要に応じて専門家を活用することをおすすめします。

この記事を書いたライター

税理士事務所代表。社会人5年目で経理職に転じ、以降は経理畑。事業会社に勤務しながら税理士試験の勉強を始め、官報合格。移転価格税制対応業務や、外資系企業日本法人の各種申告業務の経験などを有する。
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