税理士として顧客と接していくと税務の知識では答えることが難しい相談を受けることがあります。このような相談は他の士業が税理士や顧客の問題を解決してくれる場合が多くあります。
今回は税理士が他の士業と協業することのメリットや、協業相手として多い弁護士との職務の違いについて解説していきます。
税理士は租税に関する税務代理、税務書類の作成、税務相談の事務である税理士業務を行うほか、税理士の名称を用い税理士業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行うことが出来ます。
税務代理とは、納税者の代理として、確定申告、青色申告の承認申請、税務調査の立会い、税務署の更正に不服がある場合の申立て等を行います。
税務書類の作成とは、納税者の代わりに確定申告書、相続税申告書、青色申告承認申請書、その他税務署等に提出する書類を作成します。
このような内容が税理士として行うことの出来る業務です。
税理士の業務は上記のような内容であることから、それ以外の内容について相談があった場合、専門家ではないため直ぐに応じられないことは当然のことです。また一般的なことは調べて答えることは出来ても、他の士業の独占業務を行うことは違法であり、また報酬を得ることも出来ません。
税務の知識では答えることが難しい相談を受けることに備えて、他の士業と協業を行うことは非常に有効です。税理士が他の士業と協業をすることのメリットを下記にてご紹介致します。
まずメリットの1つ目として、顧客への包括的なサービスが可能となり顧客の満足度が高まることが挙げられます。
例えば会社を設立したいという相談を受けた場合、その発起のための定款や議事録の作成が必要となります。そしてその定款を基に登記を行う必要があります。これらの一連の作業に対して、税理士は助言をすることは出来ますが、定款や議事録の作成の専門家は行政書士、登記の専門家は司法書士であり、適切なアドバイスが必ずしも出来るとは限りません。
適切なアドバイスが出来ずに他の士業を頼る場合も、あらかじめ協業していなければ、その士業を探す作業を顧客自身が行ったり、税理士が代わりに探すことになり、非常に時間が掛かってしまいますし、必ずしも見つけた士業が応じてくれるとは限りません。
税理士のみでは適切なアドバイスが出来ない、他の士業を探すにも時間が掛かってしまうことは顧客に良い印象を与えません。
しかしこの場合にあらかじめ行政書士、司法書士と協業する取り決めを行っていれば、会社を設立したいという相談を直ぐに別の士業に連絡することが出来、また別の士業もその相談を断ることなく応じてくれることでしょう。
このように税務相談以外の相談を顧客から受けた場合にも、他の士業と協業をすることで包括的なサービスが可能となり、顧客の満足度は高まるといえます。
次にメリットの2つ目として、協業の取り決めによって紹介料収入を税理士が得られる可能性が高まることが挙げられます。
上記の例が既存の顧客で、その顧客が別会社を設立したいと考え相談を受けた場合、既存の顧客会社の税務業務に係る顧問料収入の他に、新たに設立に係る一連の作業を他の士業に依頼することで、紹介料収入が他の士業から得ることが出来る可能性があります。
協業の取り決めが無い場合には逐一他の士業を探さねばならず、その度に紹介料収入の打診をすることは困難であり、得ることは難しいです。
更にメリットの3つ目として、協業の取り決めによって税理士自身も新規顧客の獲得のチャンスが生まれることです。
協業の取り決めでは税理士から顧客を紹介することだけではなく、反対に他の士業から顧客の紹介を受けることもあります。
税理士の新規顧客の獲得のための営業方法は様々な方法がありますが、協業の士業者の紹介という方法であれば税理士が特段の営業活動を行う必要がありません。
他の士業からの紹介であれば、既に他の士業との信頼関係が築かれている比較的優良な顧客であることが多く、またその士業と顧客が優良な関係である以上、税理士との顧問契約も解除されにくい、長く顧問料収入を得ることが出来る顧客になることが期待されます。
このように他の士業と協業することには様々なメリットがあります。これらのメリットを享受するためには、協業相手としてふさわしいか、協業の取り決めを行う前にしっかり見極める税理士自身の力も必要となります。
多くの税理士の協業する相手として弁護士が選ばれています。弁護士の業務は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によつて、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為、その他一般の法律事務です。
人の権利がぶつかりあった時にその調整を行い、不正が行われることのないよう社会を監視する役割を担っています。
弁護士はニュースやドラマのイメージでは、重大な事件や事故が発生した際に、その加害者や被害者の弁護をする仕事であり、何事も無く生活している人にとっては無縁の士業であると考える人は少なくありません。
しかし重大な事件や事故でなくても弁護士を必要とする場面が意外と身近にあります。それは相続税の申告です。
相続税は税という言葉により、相続に係る全ての業務を税理士が行えるように感じますが、相続の一連の手続きには税理士の業務の範疇ではないことが沢山あります。下記にて相続の一連の手続きにおける税理士と弁護士の業務の違いをご紹介致します。
税理士が相続の一連の手続きの中で行える業務は、生前贈与の方法の相談、相続財産の評価、相続税の申告、準確定申告、相続税の更正請求、事業承継です。
一方で弁護士が相続の一連の手続きの中で行える業務は、遺言書の作成や検認や執行、遺産分割協議や調停や審判の代理人、遺産分割協議書の作成、相続人の調査、相続財産の調査、遺留分減殺請求等です。
相続税の申告は被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内に行うことが必要です。相続税の申告は簡単に説明をしますと、その被相続人の財産額の確定をし、相続人毎の取得する財産を決定し、その取得する財産に応じた相続税の支払額を計算し、その税額や内容を申告します。
相続税の申告そのものは税理士の業務ですが、相続人毎の取得する財産を決定する際に重要な役割をもたらす遺言書の作成、検認、執行は弁護士の仕事です。
遺言書にはどの財産をどの相続人に引き渡したいという被相続人の想いが記載されていることがあり、その記載がある場合には遺言内容に基づいて相続人毎の取得する財産を決定します。
このように相続人毎の取得する財産の決定には、弁護士が関与した遺言書の確認が必要となることをはじめ、相続税の申告においては様々な点で弁護士の協力が必要となる場面があります。
弁護士の協力が必要となる場面が相続に多いということは、相続税の申告対応をすることが出来る税理士は、あらかじめ弁護士との協業の取り決めをしておくと、上記でご紹介したようなメリットが享受出来るといえます。
特に相続税の申告は、比較的顧問料収入を多く得やすい仕事であるといわれています。協業を行える弁護士がいないか、日々情報収集をすると良いでしょう。
協業相手の探し方は、税理士事務所の近隣の士業事務所が無いかインターネットで検索をする、異業種交流会に参加する、士業マッチングサイトに登録する等様々な方法があります。
いずれの方法を選択するにしても、協業によってどのような経営を行いたいか税理士が明確なビジョンを持つ必要があります。
どのような顧客を新規獲得したいのか、どの程度の利益を上げることを期待するのか、協業サービスの提供方法はどのようにするのか等です。
このようなビジョンを明確に持たないと、協業相手に言うなれば良いように使われてしまう、というような状態になってしまうことが考えられます。
協業相手とお互いに良い関係を築き、顧客に良いサービスを行うためにはまず協業における明確なビジョンを持つようにしましょう。
税理士が協業すること、またその協業相手として弁護士を選択することは、税理士にとって非常に有効です。
より良いサービスの提供や税理士事務所の発展のために、ご検討をされてみてはいかがでしょうか。