少子高齢化により労働人口減少が深刻さを増す近年、働き方改革や休み方改革等々、様々な取り組みがある中で、組織は従業員個々のパフォーマンスを上げていくため、「従業員が前向きである状態」が求められます。今回は仕事に対してのポジティブさを表すワーク・エンゲイジメントについて、その定義や及ぼす影響、測定方法等を解説していきます。
*尚、「ワークエンゲージメント」と表記される場合が一般的ですが、本文では、日本での研究の第一人者である慶應義塾大学教授の島津明人氏の表記する「ワーク・エンゲイジメント」で表記を統一しています。
仕事に対して前向きで充実している心理状態であることを表す指標を指します。絆/愛着信/思い入れ等を持ってポジティブに仕事と向き合う状態をワーク・エンゲイジメントが高い状態。
その逆にやる気が出なかったり、集中できなかったり、ネガティブな要素が強い状態をワーク・エンゲイジメントが低い状態と表現します。仕事そのものに向けられた継続的全体的な捉え方(状態)であり、特定される個々の事象や個人、行動等を指すものではありません。
オランダのウィルマー・シャウフェリ教授によって提唱されたこの言葉は以下の3つの要素によって構成され、これらが兼ね備えられた状態はワーク・エンゲイジメントが高い=前向きで充実している状態であるとされています。
・熱意:仕事に誇りややりがいを感じる
・没頭:仕事に熱心に取り組んでいる
・活力:仕事から活力を得て、いきいきとしてる
ワーク・エンゲイジメントはシャウフェリ教授がバーンアウトの反対にある状態として提唱したものです。バーンアウトとは疲れ切って仕事への熱意が低下した状態。熱意が不足しているといくら活力や没頭があっても最終的に燃え尽き(バーンアウト)てしまいます。バーンアウトせず熱意をキープする人こそワーク・エンゲイジメントが高い人であると定義されます。
よく混同される言葉として「従業員エンゲージメント」があります。
従業員エンゲージメントとは、所属する組織に対する貢献意欲。それに対して、ワーク・エンゲイジメントは、その仕事内容に対する貢献意欲(主体的に取り組んでいる心理状態)と線引きされています。
ワーク・エンゲイジメントは現在、以下の3つの尺度で測定されています。
前述のシャウフェリ教授らによって開発され、現在最も多く使用されている尺度です。この尺度では上記の3要素を17項目に分解した質問に回答することで簡易に測定が可能です。日本版は17項目の他に9項目版、3項目版が追加されています。
倦怠感5項目、シニシズム(仕事に対する無関心度合い、皮肉)5項目、職務効力感の低下6項目の計16の質問からバーンアウトの度合いを測定し、逆説的にワーク・エンゲイジメントを測るものです。この調査結果が低いとワーク・エンゲイジメントは高いと判断されます。
MBI-GS同様バーンアウト度合いを測定することでワーク・エンゲイジメントを測るものです。先行して研究発表されていたMBI-GSの測定項目を補足する意味合いもあり構築された方法で、疲労感や離脱等の否定的な質問によってバーンアウト度合いを測定します。
では実際、ワーク・エンゲイジメントは仕事にどのように関与し影響が及ぶのかを高い場合と低い場合で解説します。ワーク・エンゲイジメントが高い場合は良い影響、低い場合は比較的悪い影響が及ぶことを前提としています。
高めることによっておおまかに以下の3点が期待されます。組織全体を活性化させ、最終的に成果へとつなげていきます。
ポジティブに仕事と向き合い、自主的に行動を起こす状態ですので、不満や不安は感じにくく、仕事に集中し、夢中になっていることもあり、心理的ストレスも感じることが減り、むしろ解消している状態です。ストレス耐性ができ、健康な精神状態を維持することが可能になります。
自発的に取り組み、自ら自身のスキルに磨きをかけようとします。そのため、自分の役目以外のアクションを積極的に行えたり、新たなアイディアを生みだしたり、行動の質が上昇し、ひいては生産性向上にもつながります。
所属する組織や仕事に対しての貢献意欲があり、前向きな状態ですので、離職率が下がる傾向にあります。余分な採用コストは育成コストを抑えることにもつながります。
反対に低いと以下のような状態になりがちです。
仕事に対してネガティブな気持ち、捉え方なので、ストレスがたまり、不満も多く、身が入らず、常にゆううつな状態です。結果気持ちが病んでしまったり、離職が増えるといったケースに陥りやすくなります。
自ら改善したり効率的に進めようとする熱意がありません。無駄な時間や無駄な作業が生まれやすく、無駄なコストがかかり、結果として生産性が落ちていきます。働き方や休み方の改革以前の問題になります。
ワーク・エンゲイジメントを高めるということは、従業員が心身ともに健康で前向きで自発的な行動が取り組める状態になることであり、結果組織活性化や業績向上につながります。ここではワーク・エンゲイジメントを高めるために、どのような取り組みが必要となるかを解説します。
ワーク・エンゲイジメントを高めるために必要な要素は以下の2つとされています。
心的ストレスを軽減したり、やる気を醸成するために個人が保有する原動力を指します。
・仕事と生活の切り替え
・自己効力感(自分ならできるといった自己に対する信頼)
・仕事への自信
・仕事の調整感(自分で仕事を管理している感覚)
・所属先での心理的安定性など
仕事に関してストレスとなる部分を緩和するための組織としての強み/工夫を意味します。
・組織における上司や同僚からの支援(ソーシャルサポート)
・パフォーマンスに対すフィードバック/コーチング
・裁量権
・仕事のやりがい
・トレーニング等の成長する機会
・経営層との信頼関係など
では具体的な方法を3例お伝えします。
近年の職場のメンタルヘルス活動では、精神的不調の予防からさらに視野を広げて、精神的健康のポジティブな側面(ワーク・エンゲイジメント)を向上させることが潮流となっています。これらの潮流の中でストレスチェックを活用し、ストレス対策と共に活性化対策を進めていくことが有効とされています。
2005年にアメリカで開発された手法です。チームで仕事をする職場に特に効果が見られるプログラムで、定期的にメンバーが集まり、仕事/組織をより良くするための話し合いを行います。
参考:CREWプログラム 実施マニュアル|厚生労働省
3つ目は社内外の研修でもよく見られるジョブ・クラフティングです。これはやらされ感のある仕事を「捉え方」、「やり方」、「ヒトとの関わり方」の3つで俯瞰していくことでよりやりがいのある仕事に変容していくアプローチです。
取り巻く環境や仕事への捉え方を変化させて、文字通り自分の仕事を作っていくことでワーク・エンゲイジメントを高める手法とされています。。
仕事に没頭することは良いことではありますが、没頭しすぎるあまり心身の健康を損ねたり、やりがいを感じるあまり、中毒的になってしまったりする可能性があります。日本人は特にその傾向が強い。没頭/熱意/活力は重要ですが、それだけではなく、個の資源にあるON/OFFの切り替えもある意味重要な要素です。