収益認識基準は、昭和の時代の企業会計原則における実現主義から始まり、財務会計の概念フレームワーク(H18)における「投資のリスクからの解放」の概念、そして、収益認識に関する会計基準(H30)における「履行義務の充足」の概念へと考え方が変遷しています。今回は、こうした収益認識の考え方の変遷を税理士がご紹介します。
はじめに、収益認識基準という用語に関して若干補足させていただきますと、収益認識基準とは、収益を損益計算書に計上するタイミング(時点)に関する基準を意味します。
似たような用語で、収益測定基準というものがありますが、これは収益を損益計算書にいくらで計上するか(金額)に関する基準を意味します。会計上、「認識」と「測定」というのは似て非なるものですのでそれぞれ意識して使い分ける必要があります。今回のテーマは収益認識になります。
収益認識基準として会計実務上一番初めに確立されたものとしては、企業会計原則に規定されている実現主義の原則が挙げられます。以下、企業会計原則のうち実現主義の原則に関係する部分を引用します。
すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない。ただし、未実現収益は、原則として、当期の損益計算に計上してはならない。
売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。
出典:企業会計原則 損益計算書原則より抜粋
実現主義の原則における実現とは、①企業外部の第三者に対する財貨又は役務の提供及び②その対価としての現金又は現金同等物の受領の2要件を満たすことを意味します。
なぜ実現主義の原則が収益認識基準として採用されていたのか、その根拠としては、①客観性・確実性のある収益が認識できること及び②資金的裏付けのある収益が認識されることにより利益の処分可能性が確保されること等が挙げられます。
昭和の時代から平成の時代になり、日本の会計基準を国際的な会計基準へコンバージェンスする流れ(会計ビッグバンなどといわれることもある)が加速してききます。この流れは従来の会計観である収益費用アプローチから資産負債アプローチへの移り変わりとしても表現することができます。
収益費用アプローチとは、簡単に言えば、企業業績を明らかにすることを会計の主目的とし、収益・費用を重視する考え方を言います。企業会計原則はこの収益費用アプローチを基礎に置くものです。
資産負債アプローチとは、簡単に言えば、企業価値を明らかにすることを会計の主目的とし、資産・負債を重視する考え方を言います。概念フレームワークや、最後に解説する収益認識に関する会計基準もこの資産負債アプローチを基礎に置くものです。
平成18年に公表された概念フレームワークの位置付けやその役割に関しては本文冒頭で解説されているのですが、ポイントを抜粋すると以下の通りです。
・概念フレームワークは、企業会計(特に財務会計)の基礎にある前提や概念を体系化したものである。
・概念フレームワークは、将来の基準開発に指針を与える役割も有するため、既存の基礎的な前提や概念を要約するだけでなく、吟味と再検討を加えた結果が反映されている。
・その役割は、あくまでも基本的な指針を提示することにある。
出典:財務会計の概念フレームワーク 前文より抜粋
概念フレームワークでは、上記のような趣旨のもと、収益認識に関して以下の通り規定しています。
収益とは、純利益または少数株主損益を増加させる項目であり、特定期間の期末までに生じた資産の増加や負債の減少に見合う額のうち、投資のリスクから解放された部分である。
収益は、そのように投下資金が投資のリスクから解放されたときに把握される。
出典:財務会計の概念フレームワーク 本文より抜粋
収益を認識するにあたり、「資産の増加や負債の減少に見合う額のうち」という表現を用いていることからも、概念フレームワークが資産負債アプローチを前提としている点が垣間見えます。
また、「投資のリスクから解放」という抽象的な表現を用いていますが、これは個別具体的な取引の収益認識基準だけを対象にしたものではなく、概念フレームワークの趣旨に根差して収益全般に広く当てはまるような表現にする必要があったので、こうした抽象的な表現になったのではないかと個人的には推測しています。
平成30年に公表された収益認識に関する会計基準では、金融商品会計基準の適用のある金融取引やリース取引の貸手の収益認識等、一部例外を除き、顧客との契約から生じる収益の認識基準について以下の通り規定しています。
本会計基準の基本となる原則は、約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように、収益を認識することである。
前項の基本となる原則に従って収益を認識するために、次の(1)から(5)のステップを適用する。
(1) 顧客との契約を識別する。
(2) 契約における履行義務を識別する。
(3) 取引価格を算定する。
(4) 契約における履行義務に取引価格を配分する。
(5) 履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する。
出典:収益認識に関する会計基準 16項、17項
収益認識に関して具体的に(1)から(5)まで5つのStepを適用するとあり、個々のStepごとに固有の論点はあるのですが、いつの時点で収益を損益計算書に計上するかというタイミングに関する部分は最後の(5)のStepになります。
(5)では、「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて」と表現されていますが、これは、企業が履行義務を充足し負債が減少した時点と解されますので、概念フレームワークでいう「負債の減少」という表現と整合していると考えられます。収益認識に関する会計基準も資産負債アプローチを基礎に置いているのでこうした整合性が確認できるわけです。
収益認識の考え方の変遷は、従来の企業会計原則に代表される収益費用アプローチから国際的な会計基準が採用している資産負債アプローチへの移り変わりという大きな会計観の流れの中で起きています。
企業会計原則、概念フレームワーク、及び、収益認識に関する会計基準をバラバラに捉えるのではなく、こうした大きな流れの過程として順を追って捉えるとより収益認識に関する理解がより深まるのではないかと思います。特に会計系の資格試験受験生はどうしても個々の会計基準に目が行きがちで木を見て森を見ずになることが多いので、注意してみると良いと思います。