米国公認会計士のライセンスを取り、現地採用としてアメリカで18年間、経理財務の仕事をして、現在はアトランタ近郊の会社でコントローラーをしてる筆者が、今回はその経験をもとに、米国公認会計士の将来性や業務内容、可能性について解説していきます。
米国公認会計士=監査人というのは固定観念で、むしろ資格は武器であり、米国公認会計士にとって幅広く活躍できるフィールドがあります。
20年も前の話になりますが、私が米国公認会計士の試験勉強をしている時、合格すれば監査人になるんでしょう?とよく聞かれました。何も知らなかった私も漠然とそういうもんだろうなあ、としか思っておりませんでした。
なにしろ当時の私は合格してアメリカで働くことしか考えていませんでした。営業職のままではアメリカのビザを取るのは困難でした。米国公認会計士の資格を取って、現地で仕事を見つけて、ビザをサポートしてもらって、と捕らぬ狸の皮算用をしていました。
行動力だけでチャレンジしたのですが、紆余曲折はあったものの、結果としては皮算用の通りに進みました。
米国公認会計士の仕事は大きく分けて2通りあります。会計事務所に勤務して監査や税務、コンサルティングなどの業務に就く(英語でPublic Accounting)、そして、一般企業や公企業で経理財務に就く(英語でPrivate Accounting)です。
どちらがいいのかは本人が描くキャリアパス次第なのですが、私は後者を選びました。経理、財務だけでなく、管理部門から経営企画まで活躍できるフィールドは広く、初歩の簿記レベルからCFOの役員レベルまで、様々なステップがあり、キャリアレベルに応じで活躍できます。
アメリカにおける一般的な会社に入った人のキャリアパスの例は、スタッフアカウンタント→シニアアカウンタント→スーパーバイザー→アカウンティングマネージャーといったところでしょうか。
その先、才覚があればコントローラー→CFOまで昇り詰める人もいます。内部で昇格する例もありますが、アメリカでは転職によって高い地位を得ることのほうが多いです。昇格も転職も、間違いなく米国公認会計士のほうが有利です。
このように、米国公認会計士になったからと言って監査人になる必要はなく、米国公認会計士の資格はむしろ各フィールドで活躍するための武器であると言えます。
ちなみに、アメリカの会計事務所では米国公認会計士でないとマネージャー以上にはなれないところがほとんどです。一般企業でも大きな会社の会計部門では、マネージャー以上の人は米国公認会計士であることが多いです。武器でもあり、スタートラインに立つパスポートでもあるとも言えます。
米国公認会計士の将来性を説明するにあたって、次の3つの観点から見ていきたいと思います。
・会計業務とAIの将来像
・自分を軸にした将来性
・日本における国際化としての将来性
会計業務はAIに取って代わられる? 私もよく質問を受け、自問自答することもあります。アメリカではAIが騒がれる何年も前から、単純作業を多く抱えた大手企業では、会計業務の一部をインドに外注に出している所が多くありました。
インド人の給料はアメリカ人の半分以下、インド人は数字に強く、英語もでき、時差の関係上アメリカから指示を出せば夜の間に作業を終え、翌朝には仕上がっているということがアメリカ企業にとってはかなり都合がよかったからです。
そういった素地があるからなのか、アメリカ企業では単純作業はAIに任せるということを積極的にすすめています。一例を見ていきましょう。
単なる入力作業、例えばアメリカではAccounts Payableと呼ばれているポジションがあるのですが、請求書をERPに入力し、支払いをし、伝票を整理する作業がメインの仕事です。入力、整理の仕事は実際にAIに取って代わられつつあります。
具体例を挙げます。初めて取引する納入業者の最初の請求書は一度手入力して最初のAIに覚えさてあげる必要はあります。ですが、二度目以降は請求書をスキャンさえすれば、AIが納入業者の名前、請求日、請求金額等が請求書のどのあたりに記載されているのかを覚えていますので、それらの情報を一瞬で読み込み、前回と同じ支払い項目を拾ってきて完成です。
担当者は内容を確認するだけとなり、作業時間は大幅に短縮されます。また、以前のように倉庫に大きなキャビネットに請求書をアルファベット順に並べて整理、保管する必要もありません。電子的に保管していますので、数年前の請求書も会社名だけで一瞬にして探せます。場所も時間も選ぶ必要がありません。これではAccounts Payableの業務の将来性はないと言わざるを得ません。
分析や判断を伴う仕事のほとんどはAIがこなせるとは思えません。アカウンティングマネージャーのような管理業務、部下を指示したり、やる気にさせたり感動させたりと言ったことはAIにはできないでしょう。
結局AIは単純作業を専門にこなし、将来もそれ以外のすべての会計業務はERPなりExcel等を駆使した人間が行うことになると思います。前述の通り、アメリカにおいてはアカウンティングマネージャーは米国会計士であることが多く、米国公認会計士の将来性は今までもこれからも変わらず高いと言えます。
社内での昇格、他社への転職が格段に有利になります。応募条件に米国公認会計士は必須、そうでないにしても転職の際の面接に呼ばれる確率が上がります。また、米国公認会計士であることで、ある一定の会計知識があると見なされます。
面接時だけでなく普段の業務の時、監査人や取引先さえも、はたまた泣く子も黙ると言われるIRS(米国国税庁)の係員ですら一定の敬意は払ってくれることがよくあります。
だからと言って、米国公認会計士の資格さえ取れば、バラ色の未来が広がると言うことではありません。上述のようにスタートラインに立つパスポートに過ぎない場合も多くあります。アカウンティングマネージャー以上のポジションの場合は、特にその傾向が強いです。どんな仕事も常に努力は必要です。ですが、米国公認会計士になって将来の選択肢やチャンスが増えるのは間違いありません。
ご存知の通り、国内市場が縮小していく日本で、外国と関わらないでやっていける業種はほとんどありません。海外の取引先があったり、海外に子会社がある日本の会社も当たり前の風景です。
ある時、勤務先が外国の会社に買収され、外国人の上司がやってくることもあるかもしれません。日本における国際化は会計だけが例外のままであるはずはありません。日本における会計も国際化していきます。アメリカの会社の日本支社へ転職し、親会社にアメリカの会計基準で決算報告することもあると思います。
ここでアメリカと日本の会計基準の優劣を述べるつもりはありません。ただアメリカは何事においても経済力と軍事力を背景に、自分たちのやり方を世界に広め強制させることにおいては非常に熱心です。
この先、IFRS(国際財務報告基準)とUS GAAP(米国会計基準)は統合する方向にあります。その結果、アメリカの会計基準を知っている米国公認会計士は世界中で重宝され、将来性も継続して多くあることがはっきりしてきました。
IFRS公認会計士というものはありません。米国公認会計士がアメリカや日本のみならず、世界各地で活躍できるチャンスや将来性は果てしなく広がっていると思います。
米国公認会計士の将来性について、次のことを説明しました。
・米国公認会計士=監査人ではない。活躍できるフィールドは幅広い
・米国公認会計士は自分自身の武器でもあり、スタートラインに立つパスポートでもある
・アカウンティングマネージャーレベルの仕事がAIに取って代わられることはない
・日本における会計の国際化から米国公認会計士の優位は将来もゆるぎない
・日本はもとより、世界各地で活躍できるチャンスが広がっている