フリーアドレスを導入する企業が増えています。しかし、フリーアドレスはやみくもにやればいいというものではありません。業務の特性などを踏まえておこなわないと、結果的には生産性を下げてしまい、従業員のストレスがたまるばかりの結果に終わってしまうことも。失敗の原因と成功の鍵はどこにあるのでしょうか?
フリーアドレスは、これまで「新たなクリエイティビティ」がもたらされるという「新しいオフィスのあり方」として注目されることとが多かったのですが、目下、状況が異なっています。
現在、多くの企業がフリーアドレスに踏み切る原因は、新型コロナウイルス感染症の影響によるものです。
コロナ渦の緊急事態宣言が発令された当時、リモートワークが推奨されたことから、できる限り在宅勤務への移行が進められています。
2020年7月には、富士通が国内のオフィスのスペースを3年後をめどに半減させると発表。
オフィスへの出社は最大25%までにとどめ、在宅勤務を基本とするために通勤手当を廃止するかわりに、自宅の環境整備や通信費補助として月額5000円を支給するという策を打ち出しました。
いわゆる一流企業・大企業は、一等地に広い面積のオフィスを構えている事が多く、コロナ渦で出社しない分の空いたスペースを抱えていることは、それだけで賃貸料などの大きなコストとなっています。
このコスト削減のためにフリーアドレスを導入する企業が増えています。
しかし、「コスト削減」を目当てにフリーアドレスに飛びついてしまうと、思わぬ失敗を被ることになるのです。
コスト削減を目当てにフリーアドレスを導入する場合、なおざりにされがちなのが、「フリーアドレスの場合に必要な設備投資」です。
例えば以下のようなものがあります。
どこででも仕事ができるように、執務環境にあるスペースには全てWi-Fiの敷設が必要です。
また、在宅勤務からでもデータにアクセスできるクラウド環境も整備しなくてはなりません。
有線から無線に切り替える場合は、速度やセキュリティ面なども考慮した設備をおこなわない場合、労働環境の低下だけでなく、情報漏洩のリスクもあります。
社員一人一人に、必要なノートPCや固定電話の代わりになる携帯電話の配布をおこないます。
フリーアドレスになると、誰がどの席にいるか、そもそも出社しているかどうかがわかりづらくなります。
いちいちメールで確認するのはとても手間なので、簡単にメッセージができるチャットツールを導入し、慣れておきましょう。
フリーアドレスにすると、それまで各人が机の引き出しに入れていたマニュアルや資料などをいったん別の場所にしまう必要があります。
もちろんそれらはある程度は「断捨離」が必要でしょうが、今まで私物を入れていた個人ロッカーとは別に収納場所を設けておかないと、かえって混乱を招いてしまうのです。
フリーアドレスは、全ての業種にむいているわけではありません。
例えば、
・人事部など社内の機密情報を取り扱っている部門
・大きな画面を見る必要があるクリエイティブ職や開発部門
・固定電話を使う必要があるカスタマーサポートやコールセンター
など、フリーアドレスにすると、著しく業務の妨げになってしまう業種もあります。
既存の業務のやり方を変えることは難しいかもしれませんが、席数を減らしたいだけであれば、部門内だけのフリーアドレスとするなど、業務に必要な環境は確保するようにしましょう。
席を変えるメリットがない場合は、フリーアドレスといいつつも、結局「固定席が便利」となり、当初期待されていたコミュニケーションなどは生まれません。
実際にフリーアドレスを導入している企業からは
・上司が席を決めるまで皆で待つ
・嫌いな人が隣に来たらモチベーションが下がる
・喫煙者が近くに来るとタバコのにおいで集中できない
・席をきれいに使わない人がいるので、その人が座った後に座りたくない
・いつも隣や向かいに座ってくる人がいてストーキングされているように感じる
などの声も上がっています。
特に日本では、至る所に上座と下座の概念があるため、オフィスでフランクに座ることは難しいのではないでしょうか。
なお、「フリーアドレスが嫌で転職した」「フリーアドレスが嫌で在宅にした」という声もありました。
実際に、フリーアドレスで成功している企業は、フリーアドレスの良い点を生かすために
・十分なスペースと座席の確保
・カフェエリアなど社員同士がより気軽にコミュニケーションを図れるような場を設ける
・掃除や整理整頓は専用スタッフが行う
など、スペースの確保とメンテナンスに予算をかけており、コスト削減とは真逆です。
企業が短絡的にフリーアドレスを導入すると、コストは下がっても生産性も下がるという失敗を招きかねません。
なんのためにオフィスがあるのか?その存在意義を考えることが、フリーアドレスを成功させるカギなのです。