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年度最年少で合格した公認会計士の資格に頼らない挑戦

HUPRO 編集部
年度最年少で合格した公認会計士の資格に頼らない挑戦

当時18歳で2012年度の最年少として公認会計士試験に合格された渡邉孝江さん。大学生のときに監査法人に非常勤として勤務し、その後ベンチャー企業1社を経験しています。今回、公認会計士を目指した経緯や、その後の監査法人、ベンチャー企業での仕事についてHUPRO編集部が聞いてきました。

中学生で目指すことを決めた公認会計士

—公認会計士を目指したきっかけを教えてください

父が薬剤師というのもあり、将来的には何かしらの国家資格を持って働きたいというのは小さい頃から思っていたのですが、たまたま中学3年生の時に当時の担任の先生から薦められたのがきっかけで公認会計士を目指しました。

担任の先生から、岐阜の中部学院大学にいる森 均(ひとし)先生という、高校教師時代に11年連続で税理士試験の最年少合格者を輩出した方の存在を教えてもらい、後日森先生にお会いしました。そして、中学3年生から簿記の勉強を始め、普通の高校に進学するという選択を捨て、通信制の高校に席を置き森先生が教壇をとる中部学院大学の聴講生として、大学生に混じりながら一緒に授業を受けることになりました。

—勉強を始めたとき、いつまでに合格したいという目標はありましたか?

高校入学時から本格的に公認会計士試験の勉強を始めたので、高校生のうちに合格したいと思っていました。しかし、結果としては、高校3年生のときに短答式試験には合格したのですが、論文式はわずかに合格点に届かず落ちてしまいました。
当時、高校3年生で国公立の大学進学を目指していましたが、不合格というのが分かってからは、会計士試験の勉強を再開し、寝る以外の時間は全て勉強に費やすという生活を送っていました。でもやはり大学受験と会計士試験の両立は難しく、どっちも中途半端な結果になるのが一番ダメだと思い、センター試験が終わったタイミングで大学進学を諦めることにしました。そして、そのまま聴講生として授業を受けていた中部学院大学に進学し、大学1年生で無事、公認会計士試験に合格することができました。

試験合格後の大学生生活

—公認会計士試験に合格されてからはどのような学生生活でしたか?

念願の公認会計士試験に合格したので、大学を退学し、監査法人で働こうと思っていました。ただ、監査法人で働くには、「若すぎる」という声もあり、監査法人には就職できませんでした。それでも、大学生の期間は「学生」という立場を活かせば色々なことに挑戦できると思い、学生だからこそできることをしようと、アルバイトや大学のサークル、色々なスポーツも経験しました。しかし、大学2年生になってから、試験に合格したのに普通のアルバイトをしていたらもったいないな、と感じ、税理士法人でのアルバイトも始めました。税理士法人では入力作業中心に行なっていましたが、周りで会計士試験に合格した同期の人たちが監査法人で働いているのを見て、やはり自分も試験に受かったのであれば監査法人で働きたいという思いが強くなっていきました。基本思ったことは行動してしまうタイプなので、後日監査法人の法人説明会に参加し、運良くお声がけいただき、監査法人に非常勤で働くことになりました。

監査法人は大学4年生の途中まで、約2年半勤めました。働く中で若いからこその目線も当然あり、学生が監査法人で働くことに対して、よく思ってくれる人もいれば、反対にそうでない人もいた印象です。当時は監査法人で働いている学生は僅かで、社内外を含め苦労することはありました。ただ、監査法人の仕事自体は、経営者や経理部のトップクラスの方と一緒に仕事ができ、また大企業の組織の仕組みやビジネスの商流なども知ることが、楽しさややりがいを感じながら働くことができました。

監査法人を辞めてベンチャー企業へ

— 監査法人からベンチャー企業に転職したと伺いましたが、どのような経緯ですか?

監査法人で働いていた当時、学生起業家のコンテストに参加したこともあり、いつかは自分で事業を立ち上げることに挑戦したいとは思っていました。

会計士の仕事は企業の財務状況など主に数字を扱う仕事で、その数字は様々な人の思考や行動が反映されたものですが、でもその数字を見ただけではわからないことも多々あると思います。会計士は数字のプロフェッショナルだけれども、自分が働きながらどこか表面上の数字でしか話ができていないような気がしていました。
そんな時に、自分は会計士として数字の専門家になるのと同時に、企業側にも寄り添ってビジネスの現場に立ちたいと思ったのが、ベンチャー企業にいこうと決めたきっかけです。会計士の修了考査が受かったタイミングで監査法人辞め、事業の立ち上げを経験したいと思い、東京のベンチャー企業に転職しました。

ベンチャー企業に就職したのは、大学4年の年でしたが、単位はとれていたので、正社員と同じく週5日フルに出社して働いていました。そのベンチャー企業は医療とITを掛け合わせることをコンセプトに事業展開していました。もともと親が薬剤師で、監査法人時代にも医薬品関係に携わっていたこともあり、医療というジャンルには自分自身の興味や関心が強く、また社長の考え方や事業内容にも惹かれて入社しました。

ー具体的にはどのような仕事内容でしたか?
一応、経営企画というポジションでしたが、なんでも屋という感じで、料理動画を配信していたので食材買いに行ったこともありましたし、どのように配信をしたらサイトのページビューが伸びるかなどメディアの構想を考えたり、SNSの運用から広告営業まで本当に色々やらせてもらいました。

ー公認会計士として経理財務の仕事はやらなかったのですか?
はい、経理財務とはあえて離れた仕事をしたかったのでやらなかったです。
でも、結局働き出して1年が経ったタイミングで会社を辞めざるを得ない状況になってしまいました。私の力不足ですが、ニッチな分野のメディアだったので、事業としてのメディアを確立するのにどうしても時間がかかり、方向性が定まらなかったからだと思っています。

会社を辞めるまでの最後の3ヶ月はひたすら営業していて、1日100件のテレアポをやっていました。電話口ですが、「迷惑」や「もうかけてこないでください」と言われ、これまで「先生」とも言われていたので、なんだかとても屈辱でした。ただ、慣れてくると話し方がうまくなったのか、企業との商談を含め徐々に手応えをつかんでいきました。なので、退職はすごく悲しくて悔しかったですね。そして、大学を卒業した年の6月に退職して、人生のどん底ぐらいの挫折感を味わいました。

人生のどん底を味わってから次の環境へ

ー大学卒業して新卒でいきなりその経験はすごいですね。その後、今の会社に入社されたとのことですが、入社経緯を教えてもらえますか?

次の仕事は正直すごく悩みました。また会計士に戻るのか、それとも前の会社で学んだことを活かして再び事業会社で働くのか。悩みながら転職活動を開始しましたが、大学卒業してまだ数ヶ月とかなので、なかなか条件に合う求人がなく難航しました。

約3ヶ月間、就職活動をしましたが、私としては今までの経験を踏まえた評価を望んでいましたが、当たり前ですが年齢や学歴では新卒採用の扱いになっていました。中途採用ならもっと実力が欲しいと言われることもありました。中途採用で考えるとベンチャーで勤めた実績は1年しかないので、経験が浅いという判断だったのだと思います。

そして色々な会社を見ていく中で、会計士として勤めた監査法人での経験とベンチャー企業での経験の両方を活かせる業界はないかと考えていたら、たまたま知り合いの会計士に勧められたのをきっかけに、事業再生というものに興味を持ちました。
特に、様々な法律で縛られていて思うように拡大できていないけれども、実は大きな可能性を持っていてイノベーションを起こしやすそうなレガシーな業界はたくさんあります。

例えばその地域の畳屋さんとか、地方産業が多いのですが、せっかく一定の需要はあるけれども、後継者が育たず、思うように経営ができていない会社がたくさんあることを知りました。そういった会社の財務状況を見て数字を扱いながら、同時に事業計画を立てて経営側に立ってビジネスのことも考えることができる仕事にとても魅力を感じて、今の会社に入社することを決めました。

実際に今まで関わったクライアント企業ですと、地方の衣類メーカーからタクシー会社、健康食品まで様々挙げられます。クライアントは中小企業が多いのですが、中小企業だと資料整備が十分ではないので、一から資料を集めるという作業が発生します。そのためすごく時間もかかり大変ではあるのですが、フォーマットが決まっておらず、型にハマっていない分いろいろな切り口で分析ができるため毎回新たな発見があり、やりがいに感じています。

公認会計士という資格の存在とは

—会計士を目指している方に向けて、公認会計士試験の勉強で大変だったことはどんなことがありますか?

大変だったのは、自分の努力に対して学力がなかなか正比例で伸びていかないことですね。勉強したらその分すぐに結果に出ればいいのですが、努力してもなかなか結果がついてこず、苦しい時期もありました。でも不思議なことに、努力も一定の水準を超えるとある地点で一気に学力が伸びることがあって、テストの点数も取れるようになりました。そのため、すぐに成績が出なくてもとにかく耐えて続けることが大事だと思います。
あとは私の場合は、ひたすら問題を解くことと、解くスピードを意識してやっていました。試験本番は絶対にいつもより解くペースが遅くなってしまうと思ったので、通常の制限時間より短く設定して問題を解く練習を繰り返していました。

—渡邉さんにとって公認会計士の資格の強みとはどんなことですか?

資格があることで一定の効果は得られると思いますが、資格を持っているからすごいというわけでは当然ありません。会計士というのは自分以外にも数万人いるので、単にその資格だけ持っていても何も自分の強みというのは無く、会計士の中でも他の人と何か違う強みをしっかり持っていないといけないと思っています。

新卒で入社したベンチャーで挫折を経験したのもあり、会計士という肩書きに溺れて、現状に満足してしまうことが怖いと感じます。肩書きに頼るのではなく、ビジネスマンとしてあくまでも個人の強みや売りがあって、その上で会計士の資格も実は持っているというぐらいがちょうどいいと思います。
“会計士の渡邉孝江”ではなく、“渡邉孝江は会計士”となるように心がけています。

—今日はお話を聞かせて頂いてありがとうございました

この記事を書いたライター

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