高校時代から公認会計士になることを目指し、大学生活と公認会計士試験の勉強を両立し、大学卒業後すぐに試験合格。その後、監査法人トーマツに在籍し、現在は会計事務所に在籍しながらブログを通じて自らも情報発信を行う公認会計士の酒井隆馬先生に、HUPRO編集部がお話を聞いてきました。
―公認会計士を目指したきっかけは高校時代の家庭教師の先生だと伺ったのですが、具体的にはどのような理由で会計士を目指すことになったのですか?
ちょうどその当時就職氷河期で、高校のとき家庭教師の先生から今の時代なかなか就職が難しいという話を聞いていました。もともと私自身、人と喋るのがあまり得意な方ではなく、できれば何か手に職をつけたいという話をその先生にしたところ、公認会計士という資格があることを教えていただきました。当時数学の成績も良かったので、それだったら公認会計士になろうかといった感じで決めました。
―なるほど。それはもう完全に家庭教師の先生がきっかけということですね。
その家庭教師の先生が少し独特な先生で、高校時代から就活のことも考えて色々話をしてくれていたので、高校のときから大学卒業後の就職のことも考えていました。
もし当時その先生と出会っていなかったら公認会計士の資格自体知らなかったですし、今は間違いなく別の職業についていたと思います。
―公認会計士の資格を目指すにあたり、予備校はいつから通いましたか?
当時簿記の勉強からスタートしたのですが、簿記2級の勉強をしていたときに、かなり難しく感じ、大学2年生の終わりぐらいから予備校に通いはじめました。
―予備校に入ってから猛勉強といった形だったのですか?
大学3年生の途中までは基礎講座ばっかりで、そこまで大変には感じなかったのですが、3年生の終わりぐらいで基礎講座が一巡して、そのあたりからはずっと缶詰状態でひたすら勉強をしていました。
そして、大学卒業後も勉強を続けて、卒業した同年に短答式と論文式に受かり、無事公認会計士試験に合格することができました。
―およそ2〜3年の受験勉強の中で、1番大変だったことは何ですか?
予備校での早朝答練というものです。それがあったせいで、7時半に学校に行かなければいけなかったのですが、実家から予備校までが遠かったので朝の5時半には電車に乗らなければ早朝答練に間に合いませんでした。それに加えて夜は21時半まで予備校にいたので、そこから家に23時とかに帰って、また次の日は5時半からという生活でした。周りと比べても勉強している方だったと思います。
―そんな生活だとあまり寝れてないですよね?
そうですね、必要最低限の睡眠時間を何とか確保して、あとは行き帰りの電車でずっと寝ていました。よく通学の電車の中では理論の勉強をしろと先生に言われていましたけど、絶対にしない、とにかく寝る、といった感じでした。(笑)
―勉強方法で工夫された点はありますか?
人によって合う合わないはあると思いますが、1日で全ての科目を勉強するようことをノルマにしていました。1科目1時間でもいいので手をつけるようにしていました。浅く広く覚えるのを積み重ねていく感じです。新しいことを覚えることよりも、覚えたことを忘れないことを重視していました。
―科目数が多いのでやらないと忘れてしまいますよね。受験勉強中に今後の不安などはなかったですか?
とにかく早く受験勉強が終わって欲しいという思いが強く、目の前のことだけで、先のことは何も考えていませんでした。簿記を最初にやり込んでおいたおかげで、計算科目は点が取れていたので、理論科目さえコケなければ大丈夫だろうと思っていました。もし落ちたらどうしようとかは考えていませんでしたね。
ちなみに、私が受験した2006年がちょうど公認会計士の試験制度が変わった年で、科目合格制度が新設され、試験科目の名前が変わるなどあった年でした。ただ、そうした変更について、そこまでは不安には思わなかったです。内容はそんなに変わらないだろうと楽観視していました。
―試験に合格した後はすぐ監査法人に就職されましたか?
はい、合格した翌年に監査法人トーマツの神戸事務所に就職しました。
トーマツに決めた理由は本当にたまたまで、その当時に通っていた予備校に行く途中の道に新しいビルができまして、そこに監査法人トーマツが入りました。試験の勉強をしながらも、監査法人なんて実際にそれまで見たことなかったので、本当にあるんだという実感が出て、建物も綺麗だしここに就職しようといった感じで決めました。
一応、別にもう一つ監査法人を受けて両方とも受かることができたのですが、どちらが自分にとって良いのかも全くわからなかったので、建物が綺麗という単純な理由でトーマツを選びました。
―そうなのですね。監査法人トーマツには約6年在籍なさっていたと伺いましたが、その6年間で一番印象に残っているクライアントさんや仕事は何ですか?
やっぱり金融機関の監査は面白かったです。自己査定といって、銀行が自己の資産、特に融資先からの回収可能性を評価して債務者区分を決めるのですが、私たちはその銀行が実施した事項査定が正しいかどうかを確かめるといった業務をします。
1週間で何十社も見ることになるのですが、そうするといろいろな会社があることがわかって、すごく大変でしたけど面白かったです。なかにはすでに倒産しかけている会社があったり、いま大丈夫と言っているけど来年には倒産していると思われるような会社もありましたね。金融機関の監査に関われたのはすごく運がよかったと思います。
―6年間ご在籍されても金融機関の監査はなかなか関われない業務なのですか?
私が在籍していたときのことなので今はわからないのですが、関与先の金融機関があるかどうかにもよりますし、自分が所属しているチームがそのような業務を行なっているかどうかも関係してくると思います。
やはり、都市部の事務所や大きいチームとかになってくると、金融機関専門のチームなどそれぞれが専門部署を構成しているので、一度配属が決まると、なかなか希望通りには関わりにくくなると思います。
それに比べ、地方の事務所や小さいチームだと、みんなでいろいろな業務をこなすという形になるので、専門チームがない分、様々なタイプの業務に関われる機会は多いと思います。
―その後にご転職して、今の事務所を選んだ理由は何ですか?
地元に近いかつホームページを持っている会社を調べた結果、今いる会社のホームページが一番事務所の雰囲気がわかりやすかったのでそこに決めました。
―ご自身で探されて、ご自身で転職された感じなのですね。事務所のホームページには動画などがたくさん挙げられていますよね。
そうなのです。会計事務所の仕事は一部は今のままだとAIに取って代わられてしまうという話もあるので、情報発信であったり、何か新しい技術をどんどん取り込んでいかなければいけないということで、他があまりやらないような動画コンテンツの配信などを積極的にやっています。
―最近、ご自身でもExcel処理のコラムを書かれていると伺いましたが、そういった業務改善や業務効率化をお考えですか?
はい。進めていきたいところなのですが、やはりお客さんの中には経理が初めてという方もいらっしゃって、Excelがほとんど使えないという方も多いです。そういう方たちにとっても参考にしていただけたらと思い、そのような形の記事を書いています。もともとプログラミングなどのシステム関係の話は好きな方なので、続けているという感じですね。
こういったコラムの発信をはじめたのは去年ぐらいからなのですが、今後このコラムで書いているような内容を簡単な電子書籍にしてAmazonとかで出せたら面白いなと密かに考えています。
―今後活躍できる公認会計士像はどんなものだと思いますか?
すごく難しい質問だと思います。というのも、公認会計士は活躍できるフィールドが多いと思っていて、例えば先ほど述べたプログラミングもそうですし、事業承継の話でも活躍できる場はあると思いますし、もちろん会計税務の分野でも活躍できます。それぞれの専門領域を磨くことで活躍できると思いますが、私自身は今は公認会計士としての知識を生かしつつ、プログラミングを使った業務改善などに力を入れていきたいと思っています。
あとは、ミクロ的な話になるかもしれませんが、ただ知識があるというだけではだめで、まだ誰も気づいてないリスクの示唆・基準や関係法規との当てはめ、問題解決への道筋の整理・提案といった問題解決力やプレゼンテーション能力を持った公認会計士が活躍するのではないでしょうか。
―独立などはお考えですか?
以前は考えていました。今は事務所の居心地も良くて色々なこともできるのであまり独立は考えていません。独立して自由になることもあれば、その分大変なことや制約も増えると思うので悩みどころです。
―士業の強みはどんなことが挙げられますか?
やはり専門知識があることは大きな強みだと思います。そして、資格があることで、その後の選択肢や可能性が広がっていくと思います。
あとは、横のつながりが広がっていくことも挙げられますね。何か難しい案件にぶつかったりわからないことがあったときに、知り合った士業の専門家の方に聞くことができる点は大きいと思います。資格があることで、士業特有のつながりを築きやすいと感じています。
―最後に公認会計士試験の受験生に応援メッセージがあればお願いします。
公認会計士試験はいろんな科目が多岐に渡り、本当に大変だと思いますが、絶対に役に立つ知識であることは間違ありません。
先ほども述べたように、会計関係の職業は今後無くなる職業として必ず上位に上がってきますが、それはあくまでも仕訳起票など単純作業が効率化される結果にすぎません。反対に今後ますます複雑化する会計基準や経済環境を前にしてその道の専門家は必ず重宝されるものと思いますので、ぜひ頑張ってほしいと思います。
―本日はお話を聞かせていただきありがとうございました。
今回インタビューさせて頂いた公認会計士の酒井隆馬先生が在籍する
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