士業・管理部門のキャリアコラムが集う場所|HUPRO MAGAZINE
士業・管理部門のキャリアコラムが集う場所

カテゴリ

スモールM&Aとは?税理士がわかりやすく解説!

税理士 都鍾洵
スモールM&Aとは?税理士がわかりやすく解説!

最近様々なメディアで、中小企業のM&Aのニュースが流れてきます。そして、「スモールM&A」という言葉を聞く機会も増えました。
しかし、周りの経営者から実際にM&Aした話を聞くことは少ないですね?スモールM&Aとは何なのか、実情はどうなっているのか、現場の最前線でスモールM&Aを見ている税理士がわかりやすく解説します。

そもそもM&Aとは?

そもそものM&Aとは、合併、買収のことをいいます。
10年ほど前にNHKでハゲタカというネガティブなM&Aをテーマにしたドラマが流行ったこともあり、経営者からは眉を潜められることも多いです。
しかし、時代は大きく変わりつつあります。
日本全国の経営者年齢の分布をみると、1995年の経営者年齢のピークが47歳であったのに対し、2015年は66歳となっており、経営者年齢の高齢化が進んでいます。

中小企業の経営者の高齢化

出典:中小企業の経営者の高齢化|中小企業庁

一方で後継者がいない会社はその半数もあります。
今後5年で60万社の中小企業が後継者不足により廃業するものと試算されています。(中小企業庁)

前述した通りM&Aはネガティブなイメージがあり、またメディアでは主に上場企業のM&Aのニュースが流れていますので、中小企業の経営者にとっては「うちには関係ない」と考える方が多いです。

しかし、後継者不足の中小企業にとって、M&Aは有力な選択肢となります
廃業することとなれば、従業員は路頭に迷い、積み上げてきた技術ノウハウは途絶え、売上先は発注先を失い、外注先は仕事を失います。会社を清算しても経営者には資産から負債を引いた清算金しか残りません。個人保証しているので、借金だけが残る場合もあります。

M&Aで事業を他社に引き継げば、従業員は継続勤務でき、譲受会社の規定に合わせて待遇も上がるケースがあります。積み上げてきた技術は生かされます。売上先、外注先も安心します。社名も残ります。更に、経営者は営業権(のれん)を付加された多額のキャッシュが入ります。

スモールM&Aとは

これは大企業の話ではありません。一般的に譲渡価額1億円未満のM&AがスモールM&Aと言われています。このスモールM&Aはかつてないほど活況です。例えば、中小企業M&AマッチングサイトのTRANBIでは、年間300社以上成約しており、同様のM&Aサービスを展開しているサイトは私が知るだけで6つもあります。
この一年でスモールM&Aに特化した仲介会社も全国で数えきれないほど増加しています。

さて、気になる譲渡価格ですが、通常は会社の清算価値に2~3年分の経常利益が営業権(のれん)として付けられています。純資産3,000万円で毎年800万円の経常利益のある中小企業であれば、5,000万円くらいが相場でしょう。まとまった退職金くらいのイメージでしょうか。介護事業や運送業、ソフトウェア業などの人気業種であれば営業権はもっと付く場合があります。先ほどの例で言えば、7,000万円の株価が付くこともあります。

しかも株式譲渡であれば分離課税となり、約20%の低率課税のみです。ここに退職金を絡めた節税をすることで、10%の税率で済む場合もあります。

## スモールM&Aの進め方

スモールM&Aの進め方

では、実際のスモールM&Aの手順を紹介しましょう。

株価の算定

まずは株価の算定です。前述した通り、ある程度の相場があります。決算書をお手元に、算定してみましょう。スモールM&A仲介会社では簡易シミュレーションが出来るサイトを用意しています。複数試算してみましょう。もう少し詳細の試算が必要なら仲介会社に依頼しましょう。多くは無料で査定してくれます。

仲介会社の選定

次に、仲介会社を決めます。M&Aは結婚のプロセスに似ています。仲介会社の選定は仲人の選定となります。仲人の能力が成否を分けます。もちろんマッチングサイトを利用し自身で買い手を探すことも可能ですが、交渉にはノウハウがあり、また取引の進め方がわからない場合もありますので、仲介会社の利用をオススメします。ご自身で取引されるよりも3,000万円も譲渡金額が変わった例もあります。ここは仲介手数料を支払っても専門家に依頼しましょう
仲介会社も様々です。銀行や信用金庫など、金融機関もスモールM&Aの取り扱いをしています。手数料は最低1,000万円から、が相場です。

上場大手仲介会社もノウハウや買い手先の蓄積があり、強い味方となります。こちらも同じく手数料は最低1,000万円から、です。
そんなに支払えないよ、という場合には、地元のスモールM&A仲介会社を検索しましょう。手数料は500万円から、が相場です。
もっと小さな株価の場合には、われわれのようなスモールM&Aに強い税理士事務所も選択肢の一つです。財務に強く、交渉も出来る税理士事務所を探しましょう。
いずれにせよ、相性もありますので、複数の仲介会社と接触されることをお勧めします。

基本的には成功報酬となります。どこも受けてくれない場合を除き、リテーナー(月額課金)契約は避けるべきです。
仲介契約は専属となります。稀に専属でなくても受けてくれる仲介会社もありますが、情報が拡散しないよう、信頼できる仲介会社一社に絞ることをお勧めします。仲人が何人もいたらややこしくなりますよね。

買い手探し

次に買い手候補探しです。結婚のプロセスの中のお見合い相手探しに当たります。お見合い相手は仲人が探して、お見合い写真をくれます。皆さんはお見合い写真やプロフィールを見て、候補になりそうだと判断すれば皆さんの情報開示を依頼します。稀に取引先や知人など、開示して欲しくない候補に当たる場合がありますが、この段階でお断りすれば大丈夫です。皆さんの情報は流れることはありません。
この一連の作業をネームクリアと言います。ネームクリアは多い時には50を超える件数となります。

そして、皆さんの詳細情報を見て、前向きに進めたいという候補が出てくれば、トップ面談をします。お見合いですね。金額面などの生々しい話は不要です。双方の性格や将来計画など、お互いの想いを共有する場になります。

お見合いの結果、結婚を前提にお付き合いしましょう、となれば、相手先から意向表明があります。だいたいこのくらいの条件で、だいたいこのくらいのスケジュールで、上手く行けば結婚しましょう、というラブレターのようなものです。このラブレターはお見合いの前に提示される場合もあります。

その後、より詳細な情報開示がなされます。お付き合いの期間です。決算書などの社内資料の開示をする必要があります。

基本合意〜譲渡契約

そしていよいよプロポーズです。基本合意というプロセスがあります。何も無ければ結婚しましょう、という段階です。意向表明よりも詳細な条件が提示されます。

プロポーズを受けた後は、身辺調査を受けます。デューデリジェンスという工程です。財務DDだけでなく、法務DD、事業DDを受ける場合があります。
DDでも問題がなければ、めでたく結婚、となります。譲渡契約と言います。調印し、定められた結婚日に譲渡金額決済があり、引き渡しとなります。

仲介契約から譲渡契約まで、案件によりますが、2か月から1年の期間です。事業を走らせながら、このような取引をご自身だけで進めるのは至難の技ですよね?

私は、売上が年間2,500万円の飲食店、従業員2名の印刷業、売上高3,000万円の介護事業など、この2年間で10件以上のスモールM&Aを成約まで伴走しました。
売上が小さくても、利益が少なくても、成約しています。出口戦略の選択肢として、スモールM&Aも検討しましょう。

スモールM&Aのリスク

一方で、もちろんリスクもあります。M&Aは秘密保持に始まり秘密保持に終わると言われるほど、最重要機密事項です。もしも譲渡契約前に従業員や得意先、取引金融機関に情報漏洩があれば、従業員の離散や信用不安を招きます。
また、もちろん必ず譲渡出来る保証はありません。場合によっては譲渡に日数を要し、清算した方が良かった、というケースもあります。

今ではわれわれのような税理士事務所でもスモールM&Aを取り扱うほど身近な取引となりました。まずは信用できる顧問税理士さんへ相談したり、複数のスモールM&A仲介会社に相談することをお勧めします。

この記事を書いたライター

関西大学大学院卒。中堅税理士法人代表税理士。自身でも4回起業し、2回は失敗、多額の借金を背負ったこともあり、経営者の気持ちがわかる希少な税理士。税務業務の他、ものづくり補助金申請支援やスモールM&A支援といった付加価値の高いサービスを展開。
カテゴリ:用語解説

おすすめの記事