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企業会計における開発費と研究開発費の違い

税理士 井上幹康
企業会計における開発費と研究開発費の違い

会計の世界には、似て非なる用語や取扱いがたくさんあります。今回ご紹介する開発費と研究開発費も一見すると似たような用語ですので、特に会計の勉強を始めて間もない方だと混同している方が多いですが、会計上は厳密に使い分ける必要があります。今回はそんな開発費と研究開発費の違いをご紹介します。

開発費とは

定義

まず、開発費とは何かですが、企業会計上、開発費は繰延資産の1つとして列挙されています。ちなみに、企業会計上、繰延資産は以下の限定列挙された項目とされています。

<企業会計上の繰延資産>
①株式交付費
②社債発行費等(新株予約権の発行に係る費用を含む)
③創立費
④開業費
⑤開発費

そして、開発費の定義は以下の通り規定されています(下線、太文字は筆者加筆)。

開発費とは、新技術又は新経営組織の採用、資源の開発、市場の開拓等のために支出した費用、生産能率の向上又は生産計画の変更等により、設備の大規模な配置替えを行った場合等の費用をいう。ただし、経常費の性格をもつものは開発費には含まれない。
なお、「研究開発費等に係る会計基準」の対象となる研究開発費については、発生時に費用として処理しなければならないことに留意する必要がある。
出典:「繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い」(企業会計基準委員会)

開発費の定義から除かれているものに経常費の性格を持つものが挙げられていますので注意が必要です。

会計処理

また、開発費の会計処理については、以下の通り規定されています。

原則 支出時に費用(売上原価又は販売費及び一般管理費)として処理する。
例外(できる規定) ・繰延資産として資産計上することができる。
・支出のときから 5 年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却する。
・支出の効果が期待されなくなった繰延資産は、その未償却残高を一時に償却しなければならない。

出典:「繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い」(企業会計基準委員会)

このように開発費については、例外的に繰延資産に資産計上することができるのですが、「研究開発費等に係る会計基準」の対象となる研究開発費については、資産計上は認められず、全て発生時に費用処理する旨が開発費の定義のなお書き(太文字部分)で規定されています。

会計処理

研究開発費とは

定義

肝心の研究開発費の定義については、「研究開発費等に係る会計基準」に規定されています。

基準では、「研究」及び「開発」を以下の通り定義することで、研究開発費が生じ得る企業活動の範囲を規定しています。

研究とは、新しい知識の発見を目的とした計画的な調査及び探究をいう。 
開発とは、新しい製品・サービス・生産方法(以下、「製品等」という。)についての計画若しくは設計又は既存の製品等を著しく改良するための計画若しくは設計として、研究の成果その他の知識を具体化することをいう。
出典:研究開発費等に係る会計基準

ただし、基準の「研究」及び「開発」の定義はやや抽象的であり、一読しただけではわかりにくい面もありますので、実務指針にてその具体例が以下の通り紹介されています。実務である企業活動が「研究」・「開発」にあたるか否かはこの具体例にあたるか否かを見ていくことになるでしょう。

<「研究」・「開発」の具体例>
① 従来にはない製品、サービスに関する発想を導き出すための調査・探究
② 新しい知識の調査・探究の結果を受け、製品化、業務化等を行うための活動
③ 従来の製品に比較して著しい違いを作り出す製造方法の具体化
④ 従来と異なる原材料の使用方法又は部品の製造方法の具体化
⑤ 既存の製品、部品に係る従来と異なる使用方法の具体化
⑥ 工具、治具、金型等について、従来と異なる使用方法の具体化
⑦ 新製品の試作品の設計・製作及び実験
⑧ 商業生産化するために行うパイロットプラントの設計、建設等の計画
⑨ 取得した特許を基にして販売可能な製品を製造するための技術的活動
出典:「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」(日本公認会計士協会)2項

上記のような「研究」活動や「開発」活動を通じて各種様々な費用が発生しますが、具体的にどんな費用が研究開発費にあたるかについて、基準では以下の通り規定しています(太文字は筆者加筆)。

研究開発費には、人件費、原材料費、固定資産の減価償却費及び間接費の配賦額等、研究開発のために費消されたすべての原価が含まれる。(注1)

(注1)研究開発費を構成する原価要素について
特定の研究開発目的にのみ使用され、他の目的に使用できない機械装置や特許権等を取得した場合の原価は、取得時の研究開発費とする。
出典:研究開発費等に係る会計基準

結局のところ、「研究」活動や「開発」活動を通じて発生した費用は全て研究開発費に含まれることになります。

会計処理

研究開発費の会計処理としては、すべて発生時に費用処理することとされており、開発費と違い資産計上する取扱いは設けられていません。

ここで注意なのが、上記波線部の取扱いです。通常機械装置のような固定資産を取得した場合には資産計上した上で、毎期減価償却費として耐用年数にわたり費用化するのが原則ですが、「特定の研究開発目的のみに使用され、他の目的に使用できない」ものである場合には、研究開発費に含まれ、発生時に費用処理することとされています。すなわち、機械装置のような固定資産でも資産計上されずに一時の費用として処理されることになります。

まとめ

企業会計における開発費と研究開発費の違いを定義や会計処理の面から解説しましたが、まだイマイチ違いがわからないという方も多いかと思います。

これはあくまでも私自身の直感的な区別の仕方ですが、開発費はより文系的な企業活動のイメージ(市場分析、マーケティング、組織人事等)、研究開発費はより理系的な企業活動のイメージ(ものづくり関係)として区分してみていますので、1つ参考になれば幸いです。

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この記事を書いたライター

大学在学中に気象予報士試験に独学一発合格。社会人として働きながら4年で税理士試験官報合格。開業税理士として税務に従事しながら不動産鑑定士試験にも一発合格。税理士試験や不動産鑑定士試験受験生向けの相談サービスや会計学ゼミも開催。
カテゴリ:コラム・学び

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