企業が新たに資産を購入した場合、それを財務諸表に計上する必要があります。その金額を「取得原価」といいます。
ただし資産の新規取得には、購入する場合だけでなく、自ら建築したり、譲与されたりする場合がありますが、そのような際の取得原価はいくらになるのでしょうか?今回は、取得原価について解説していきます。
あなたの会社で新しく自動車などの資産を購入した場合、それを貸借対照表にいくらで計上しますか?買ったときに支払った金額なのは明白ですよね。このように、企業がある資産を取得したり建築したりした場合に、これを取得するために支出した現金等の額あるいは引き渡した対価の公正価値、すなわち原価のことを取得原価といいます。
ところで、資産評価の基準として、日本では「取得原価主義会計」が取られています。
これはつまり、すべての資産を取得時の原価で評価するという手法になります。よって、その後の減価償却の計算でも取得原価は非常に大事な基礎となるため、取得原価がいくらかというのは、実は大変重要なトピックと言えるのです。
まず、資産を購入した場合の取得原価は、「購入代金+付随費用-値引・割戻」で算定されます。
企業会計原則では、有形固定資産の取得原価には、原則として、当該資産の引取費用等の付随費用を含めるとされています(企業会計原則第三・五D)。
先ほどの自動車を例にとると、購入時に車本体にカーナビをオプションとして埋め込んだ場合、このカーナビの代金にあたるのが付随費用になります。
他にも購入手数料、運送費、荷役費、事業の用に供するための据付費、調整試運転費、土地や建物の取得に際して支払う立退料、土地とともに取得した建物の取り壊し費用といったものが付随費用となり、それらを加えて取得原価とされます。
また、値引きまたは割戻しを受けた場合には、購入代金から控除することとされています(連続意見書第三・第一・四1)。
一方で、正当な理由がある場合には、付随費用の一部または全部を加算しないすることができます。例えば、以下のような費用です。
このように、思いのほか取得原価に含められる費用が多いことに驚かれるかもしれません。
では、資産を自家建設した場合はどうなるのでしょうか?その場合は、適正な原価計算基準に従って製造原価を計算し、それに基づいて取得原価を計算します。また建設に要する借入資本の利子で稼働前の期間に属するものは、これを取得原価に算入することができます(連続意見書第三・第一・四2)。
ただし借入資本の利子については、支払利子は原則として期間費用とし、次の要件のすべてを満たす場合に取得原価への原価算入が認められています。
株式会社が株式を発行して、その対価として固定資産を取得する場合はどうなるでしょうか。その場合は、会社から出資者に対して交付された株式の発行価額をもって取得原価とします(連続意見書第三・第一・四3)。
元々持っていた固定資産と交換に新しい固定資産を取得した場合には、交換に出した資産の適正な簿価をもって取得原価とします。つまり、元の資産の簿価を引き継ぐということです。一方、自己所有の株式あるいは社債等と固定資産を交換した場合には、当該有価証券の時価又は適正な簿価をもって取得原価とします。
すなわち、株式のように時価が容易に判定できる場合は、交換の時点でいったん評価替えが行われるということです(連続意見書第三・第一・四4)。
贈与を受けた場合には、時価等を基準として公正に評価した額をもって取得原価とします(連続意見書第三・第一・四5)。つまり不動産鑑定士等に、適正な額を評価してもらう必要があります。
土地や建物を所有するにあたっては、固定資産税の支払いをする義務がありますが、固定資産税は毎年1月1日現在の所有者に対して課税されます。すなわち、取得後も数か月間は、元の所有者である売り主に支払い義務が生じる場合があります。
そのため、取得後の期間に係る固定資産税相当額を月割りで按分して、買い手側が売り手側に対して支払う場合、その固定資産税相当額は土地・建物の取得価額に含めることになります。
今回は、取得原価について解説してきました。一口に取得原価と言っても、実は重要な論点が多くあることがおわかりになりましたでしょうか。この記事を、適正な額の算定の参考にしていただければ幸いです。