資産除去債務とは、有形固定資産の取得等によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令または契約で要求される法律上の義務およびそれに準ずるものと定義されています。今回は有形固定資産のライフサイクル(その取得時から除去時まで)の各段階における資産除去債務の会計処理をご紹介します。
資産除去債務は、有形固定資産の取得等によって発生した時に負債として計上することとされています(資産除去債務に関する会計基準4)。
ただし、資産除去債務の発生時に当該債務の金額を合理的に見積ることができない場合には計上せず、当該債務額を合理的に見積ることができるようになった時点で負債として計上することとされています(資産除去債務に関する会計基準5)。
ここでは、有形固定資産の取得時に資産除去債務の金額を合理的に見積もることができる場合を前提として、その会計処理を示せば以下の通りです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
有形固定資産(資産) | ××× | 資産除去債務(負債) | ××× |
会計処理の特徴は、資産除去債務を負債計上すると同時に、同額を資産計上する点です。この会計処理を資産負債の両建処理といいます。借方の有形固定資産として計上される部分は、付随費用と同様に本体の有形固定資産の取得原価に加算します。
肝心の金額はどう計算するのかですが、取得等した有形固定資産の除去費用の将来キャッシュ・フロー見積額を現在価値に割り引くことで算出します。
この除去費用の将来キャッシュ・フロー見積りに関しては、合理的で説明可能な仮定及び予測に基づく自己の支出見積りによることとされています(資産除去債務に関する会計基準6⑴)。
また、割引率に関しては、貨幣の時間価値を反映した無リスクの税引前の利率とされています(資産除去債務に関する会計基準6⑵)。
この将来キャッシュ・フロー見積りと割引率の査定には企業の恣意性が介入しやすい部分ですので、会計監査でも必ずチェックされる部分です。基準の取扱いに準拠するのはもちろんのこと、主観性・恣意性を排除して客観的に見積もる必要があるでしょう。
なお、あえて書いてませんが、上記の資産負債の両建処理の仕訳以外に、当然に有形固定資産の取得の仕訳も計上されます。
有形固定資産の保有期間中の会計処理としては、①借方に計上した有形固定資産(資産)の会計処理と、②貸方に計上した資産除去債務(負債)の会計処理の2つに分けて見ていくと分かりやすいです。
まず、①借方に計上した有形固定資産(資産)の会計処理ですが、こちらは、計上時に本体の有形固定資産の取得原価に加算されておりますので、本体の有形固定資産の減価償却費に含めて残存耐用年数にわたって各期に費用配分されます(資産除去債務に関する会計基準7)
有形固定資産保有期間中の会計処理①
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
減価償却費(費用) | ××× | 有形固定資産(資産) | ××× |
有形固定資産の保有期間中この処理を続けていくので、当初資産計上した有形固定資産(資産)の金額はどんどん減少していき、耐用年数満了時にゼロとなります。
次に、②貸方に計上した資産除去債務(負債)の会計処理ですが、こちらは、負債計上されている資産除去債務の帳簿価額に当初負債計上時の割引率を乗じて算出した金額(基準では、「時の経過による資産除去債務の調整額」という。)を負債計上し、同額を費用計上していきます。この際、費用計上する科目は、有形固定資産の減価償却費の科目を用いることとされています(資産除去債務に関する会計基準14)。
有形固定資産保有期間中の会計処理②
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
減価償却費(費用) | ××× | 資産除去債務(負債) | ××× |
有形固定資産の保有期間中この処理を続けていくので、当初負債計上した資産除去債務の帳簿価額はどんどん増加していき、最終的には当初負債計上時に見積もった除去費用と同額になります。
最後に、有形固定資産の除去時の会計処理を見ていきましょう。
有形固定資産の除去時には、実際に支払うこととなった除去費用の金額Aと負債計上されている資産除去債務の帳簿価額Bの差額(「資産除去債務の履行差額」という)を費用計上します。この際費用計上する科目は、有形固定資産の減価償却費の科目を用いることとされています(資産除去債務に関する会計基準15)。
有形固定資産除去時の会計処理
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
資産除去債務(負債) | B | 未払費用 | A |
減価償却費(費用) | AーB |
なお、上記の仕訳例では、履行差額を借方に表示していますが、負債計上されている資産除去債務の帳簿価額Bの方が実際の除去費用の金額Aを上回っている場合には、貸方に計上されることになります。
有形固定資産の取得時、保有期間中、除却時における各段階での資産除去債務に関する会計処理をご紹介しました。各段階における会計処理をバラバラに押さえるのではなく、今回のように資産除去債務の計上から最後の履行差額の計上まで全体を俯瞰しておくと良いでしょう。
士業・管理部門に特化!専門エージェントにキャリアについてご相談を希望の方はこちら:最速転職HUPRO無料AI転職診断
空き時間にスマホで自分にあった求人を探したい方はこちら:最速転職HUPRO
まずは LINE@ でキャリアや求人について簡単なご相談を希望の方はこちら:LINE@最速転職サポート窓口