会社の資金調達は、大きく増資と借入の2種類に分類されます。増資とは一言でいうと資本金を増加させる行為のことです。今回は資本金の意味から増資の定義、種類、手続、費用、メリット・デメリット、会計処理を具体的な事例や留意を含めて丁寧に解説していきます。
増資とは、資本金を増加させることを指します。
まずは「資本金」の意味からおさらいしてみましょう。資本金と資本準備金について説明します。
資本金とは、とても簡単に説明すると、「会社が事業を行う際の元手」のことです。事業を行なう際には、基本的には会社やお店を借りたり、商品やサービスを準備する必要がありますよね。その元手をどれだけ用意するかという意味を指します。
法律的には、会社法第445条第1項において、以下のように定義されています。「株式会社の資本金の額は、設立又は株式の発行に際して株主となる者が、当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とする」
創業者や関係者が実際に払い込むか、借りるかしたお金を企業の資本金として元手とするのです。また、株式会社の場合は株主に株券を発行し、株主から調達した資金を資本金とするわけです。
資本金の大きさは、会社の信用度に関係します。資本金100万円の会社は、貯金額が100万円のようなものです。一方、資本金1億円の会社は、貯金額が1億円あるのと同じです。貯金額が大きければ、損失の補てんできる金額も増えますし、倒産リスクも減少します。つまり、資本金を増やすことは、信用を増やすことに繋がります。
似たような言葉に「資本準備金」という言葉があります。株式会社では株主から資金を調達しますが、この一部を資本準備金として当てることができます。この資金は調達資金の1/2までとなっていますが、資本金は後述のメリットもありデメリットもあるため、より柔軟に使える資金として会社が保持しておくこともあり、それを資本準備金と呼ぶのです。企業が新たな投資をすぐに行なう場合や、業績が悪化した場合の補填に当てることがやりやすくなります。
増資は、公募増資、第三者割当増資、株主割当増資の3種類に分けることができます。それぞれ対象としている投資家が異なっている点が違いです。また、対価の有無により、有償増資(対価あり)と無償増資(対価なし)に分類することもできます。ここからは有償増資の種類について深ぼっていきます。
有償増資は一般的には主に株主から資金を調達することを指す言葉です。
資本金を増やすと聞いて一番最初に思いつくイメージとなるのではないでしょうか。株主に株式を発行し、対価として資金を得て、その得た資金を資本金に充当させることです。
株式の発行方法は主に3種類あり、その方法が増資の種類となるので、以下で確認してみましょう。
公募増資とは、新株発行の際、広く不特定多数の投資家から出資を募ることです。未上場企業がIPOするケース、上場企業が増資をするケースなどに使われます。小規模な未上場企業が使われることは稀であり、一般的には上場企業のための手法です。公募増資をする場合、自分の持株比率は減少しますので、会社に対する影響力も減少してしまいます。
また、公募増資をする際は、株価は時価に近い少し割安な水準に定められます。これは、公募増資にあたって発行された新株によって、会社の保持する株の総数が変化するからです。
企業の時価総額は変わらないままに株の総数が増加すると、一株あたりの価格は下落することになります。そのため、公募増資の際の一株あたりの株価は通常、時価に近い多少割安な水準となる場合が多くなります。これを「株価の希薄化」(一株あたりの価値が薄くなるため)といいます。
また、株の時価よりも大幅に安い価格で株価を発行する場合は、既存株主の利益を保護するため、株主総会での理由開示・特別決議を経て決定される必要があります。
第三者割当増資とは、特定の第三者に対して新株を発行することです。特定の第三者とは、現在の株主であるかは問いません。スタートアップがベンチャーキャピタルから出資を受ける場合は、第三者割当増資が使われ、会社の株主資本を充実させ、財務内容を健全化させるために行われます。
第三者割当増資は、未上場の会社が資金調達の一環として行う場合が多く、取引先や取引金融機関、自社の役職員などの繋がりを持つ第三者から資金を調達するため、「縁故募集」とも言われます。
また、関わりを持ちたい会社や人との連携強化、それにより事業を推進させるというねらいも第三者割当増資によって達成させることができます。そのためベンチャー企業などでは福利厚生として扱われることもあります。
加えて、第三者割当増資も公募増資と同様、自分の持株比率が減少する点には留意が必要です。特に、株主総会の普通決議を通せる過半数、特別決議を通せる2/3超という持株比率には注意しておきましょう。
また、第三者割当増資はM&Aの手法として活用されることもあります。
第三者割当増資は、新株の引受人が発行会社の一定割合の株式を取得できるようになるため、過半数の株式を取得し、対象企業の経営権を得る第三者割当増資は、株式譲渡の応用ともいえます。
株式を譲渡することによる資本金取得と第三者割当増資による資金調達の違いとしては、譲渡先の形態が異なります。既に発行されている株式を扱う株式譲渡の場合、譲渡対価は株主に支払われますが、第三者割当増資では譲渡対価が対象会社に支払われます。
第三者割当増資を検討する中小企業は、資金調達の必要性が高い一方で、銀行などの金融機関から既に融資を借り入れていて、これ以上の借入金を増やしたくないという考えがあります。そこで、株式譲渡に比べて社外への株の放出割合を少なくすることができる第三者割当増資では、M&A後にも株式の保有数に応じて経営に参画することができます。
また、平成27年度の税制改正によって、内国法人からの受取配当金の損益不算入制度が見直されましたが、完全子会社株式と、関連会社株式は受取配当金の全額が変わらず損金不算入額となります。
第三者割当増資に関して詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
株主割当増資とは、既存株主に対して、その保有株式数に応じて新株の割り当てさせることです。公募増資や第三者割当増資とは異なり、既存株主が希薄化しない点が大きな特徴ですが、既存株主が新株の割当を引き受ける義務はありません。
そのため、既存株主が新株を引き受けない場合は、増資後の株式構成比率が変化することもあります。株主割当増資が使われる場面としては、二社が持株比率50%同士で設立した合弁会社の増資を行う際などがあります。
では資本金を増資する場合の法的な手続きはどのようになっているのでしょうか。
基本的には有償増資と無償増資で手続き方法は変わってきますので確認しておきましょう。
まずは、有償増資、無償増資に共通して必要なことです。
当然のことながら、増資を行ったことを知らせる必要があります。
市区町村の役場への登録と、税務署や県税事務所などへの申告で「移動通知書」を提出する必要があります。
まずは、会社法に基づいた決議について説明します。
定款に譲渡制限の定めを設けている会社では、「株主総会特別決議」を行います。
定款に譲渡制限の定めを設けていない会社では、「取締役会決議」または、第三者に「特に有利な価額」で株式発行する場合は「株主総会決議」を行なう必要があります。
一般的な上場企業では定款に譲渡の定めを設けていない会社が多く、会社法上「公開会社」とされている企業のことですが、担当者は確認が必要です。
次に増資の中でも最も一般的に使われる方法である第三者割当増資に関して、説明します。第三者割当増資を行う場合、原則として株主総会の特別決議が必要です。その際、「募集事項」を定める必要があり、具体的な内容は下記のとおりです。(会社法199条1項)
となります。増資の機関決定後は、
・投資家への案内
・株式の申込
・出資の履行
・登記手続
と続きます。登記手続は、増資完了後2週間以内に実施しなければならない点には留意が必要です。
最後に定款の変更決議についてです。
増資を行った際に「授権資本の枠を越える」場合は定款の変更決議が必要となるため覚えておきましょう。
増資には「登録免許税」という費用が必要になります。登録免許税とは、募集株式の発行による登記情報の変更にかかる税金となっており、「増加する資本金の額×7/1000」で計算されます。
ただし、この計算式で計算された金額が3万円未満である場合は3万円となります。また、自分ひとりで登記手続を行う場合は登録免許税だけで済みますが、司法書士のような専門家に依頼する場合は、さらに報酬が必要です。
また、登録免許税は募集株式の発行(増資)の効力発生日から2週間以内に登記情報変更の申請を行う必要があります。この申請が遅れた場合、過料(罰金)として代表者が最大100万円の支払いを求められたり、他の登記が行えなくなる可能性があります。そのため、増資を行った際は忘れずに「登録免許税」の申請・納付を行いましょう。
会社法に基づいた決議として株主総会の普通決議が必要です。
このとき、「準備金の額が減少」する場合には、「債権者保護手続」が要求されることになりますが、準備金の全ての額が資本金として振替えられる際には債権者保護手続は不要となります。
注意事項としては、無償増資を行い剰余金を資本金に繰り入れる場合は「剰余金額」が限度となるので覚えておきましょう。
増資を行おうとする場合、まずは増資のメリット・デメリットを検討する必要があります。一度増資を行うと後戻りのできない取引であるため、実行前に慎重に検討しましょう。
・借入のように返済する必要がない
・資本金が増加し、会社としての信用度が上がる
・万が一破産した場合、借金が自分に残ることはない
・自分の持株比率が減少する(株主割当以外)
・資本金の金額によっては税制優遇を受けられなくなる
・公募増資、第三者割当増資であれば株主数が増加し、関係者が多くなってしまう
・会社法に沿って適切に手続を行う必要がある
・登録免許税が高額となる場合がある
増資のメリットとデメリットについてはこちらの記事で詳しく解説しております。
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増資を行った場合は、基本的には下記の会計処理を行います。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
現金 | xxx円 | 資本金 | xxx円 |
増資の金額を全額資本金にせず、最大半分まで資本準備金に振り替えることができます。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
現金 | xxx円 | 資本金 | xxx円 |
資本準備金 | xxx円 |
資本金によって税制優遇の区分が変わることや、増資の登録免許税を節約するため、スタートアップなどは資本金と資本準備金に半分ずつ振り分けることが一般的です。また、税制優遇を受けるため、増資後に資本金を減資することも実務上ではよく行われています。資本金を1億円まで減資することで、数百万円以上の税務メリットを受けられる場合もあります。
資本金の意味から増資の定義、種類、手続、費用、借入と比較した際のメリット・デメリット、会計処理について解説してきました。増資は会社法上の手続であり、登記も必要です。会社登記簿は基本的には誰でも見ることができるため、いついくらどのような増資が行われたかにつき、広く一般に知れ渡ることになります。
また、資本金の金額によっては税務メリットが受けられなくなる可能性もあるため、増資を行う際は事前にきちんと税務も含めたシミュレーションを実施しましょう。