M&Aの会計処理を理解するためには、まずどのようなM&Aがあり、それぞれにどのような会計処理を適用するかを考えなければなりません。
そこで今回は、M&Aの会計処理について、徹底解説します。
まず、M&Aとは、merger(合併)とacquisition(買収)の略を言います。よって、合併や買収の形態を知り、その上で会計処理を考えなければなりません。
M&Aは、MAと呼ばれる等、今では一般的な用語となっていますし、専門の仲介業者も多くなっている等、近年とても活発になっていると言えます。
M&Aにおける会計処理では、基本的には次の会計基準等を参照します。
・企業結合に関する会計基準
・事業分離等に関する会計基準
・企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
いわゆるM&Aでは二つ以上の企業がくっつくため、企業結合と言い換えられます。よって、企業結合に関する会計基準と、その適用指針が対象となってきますが、M&Aをしながら会社を分社化するなど、事業分離等も必要となる可能性があります。
よって、M&Aではこの三つの会計基準と適用指針が同じくらい重要となってきます。ただし、公認会計士でもこれらの基準は膨大であるため、隅から隅まで覚えてはいません。事例にあたるたびに、適用指針を読んでいるというのが本音です。
M&Aの会計処理で最も議論となるのが「のれん」です。
のれんというのは、日本でよく「のれん分け」という言葉がある場合のものと同じ意味です。よく、ブランド等と言い換えられることもありますが、あくまでのれんと表現します。
のれんは、買収金額から買収先の時価純資産を差し引いて計算されます。買収金額の方が大きいと、その差額はのれんとして固定資産に計上され、逆に買収先の時価純資産が大きいと負ののれんとして特別利益に計上されます。
特にのれんの金額が大きくなると、財務諸表に計上される固定資産と純資産が大きくなるため、注意が必要となります。
買収金額と企業の時価純資産の差額がのれんとなりますが、単純に差額がのれんとなるかというと、少々違います。
まず、わかりやすいのが企業の持っている土地の時価が取得原価よりも高い場合、通常買収金額も上がるはずですが、当然企業の時価純資産も上がるはずです。よって、両者どちらとも上がる場合は差額がゼロとなるためのれんは発生しません。
一方で、目に見えないブランド力があり、企業の時価を大きく買収価額が超える場合があります。このような場合はまさしくのれんとして固定資産計上されることとなります。
のれんは、固定資産と同じように、減価償却を行います。ここで、何年で償却するかが問題となりますが、20年以内の年数で処理する、ということになっています。
これは、買収した企業がもつ超過収益力が、何年間持続することを前提としてM&Aしたかということと関連しています。
例えば、10年分の超過収益力を期待して企業を買収したのであれば、のれんの償却も10年で行うことが望ましいでしょう。
のれんは固定資産のように減価償却を行っていきますが、固定資産と同じように減損会計の適用もあります。
固定資産の減損は、例えば店舗ごとに2期連続赤字の場合に固定資産の簿価を切り下げることがありますが、のれんの場合は、のれんの単位ごとに赤字があるかどうかで決定します。
例えば、企業全体の収益力を見て買収をしたのであれば、企業全体が2期連続赤字となるかどうかが重要となりますし、のれんの発生原因がセグメント毎であれば、そのセグメント毎に赤字であるかどうかが重要となってきます。
いままで買収金額が企業の時価純資産を上回る話を中心にしてきました。
一方で、買収金額が企業の時価純資産額を下回る場合、つまりお得な買収をした時には、のれんではなく「負ののれん」として利益に計上されます。
この負ののれんはのれんとは違い、一括での収益計上となるため、買収差額が何十億とあったとすると、即時に収益計上され、企業の損益ががらりと変わることがあります。
余談ですが、某有名企業でも負ののれんを計上し続けて黒字を保っていた例がありましたが、ある時から負ののれんが計上されなくなってしまったことがあります。
恐らく考えられるのは、格安で企業が買えるということは、何らかの潜在的な負債が存在していると言えるため、そのような負債をあらかじめ計上して、負ののれんを発生させなくしたのではないかと考えられます。
M&Aにおいては、企業結合会計基準、分離会計基準とその適用指針を参考にした会計処理が求められます。
その中でものれんはその取得価額、耐用年数、減損の要否に加えて、負ののれんの計上額の妥当性等、検討すべきことがたくさんあります。
のれんや負ののれんは重要な論点となりますので、慎重な取り扱いをしましょう。
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