会計・税務の世界には似て非なる用語や手続きがたくさんあります。今回取り上げる企業会計の減損損失と法人税の評価損はともに固定資産の帳簿価額を減額する処理であるという点は共通していますが、それが計上できる場面がそれぞれ異なります。今回は、両者の計上できる場面の違いを中心にご紹介します。
まず、固定資産の減損とは、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態であり、減損処理とは、そのような場合において、一定の条件の下で回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理であると「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」で解説されています。
ただし、これだけではやや抽象的なので、実際に実務において減損会計を適用するにあたっては「固定資産の減損に係る会計基準」で規定されている以下のフローに沿って適用していくことになります。
<減損会計基準の適用フロー>
① 資産のグループピング
② 減損の兆候の把握(兆候がなければ減損処理は不要)
③ 減損損失を認識するかどうかの判定(帳簿価格<割引前将来CFの場合は減損処理不要)
④ 減損損失の測定
⑤ 減損損失を損益計算書の特別損失に計上
上記適用フローで最初に行われる適用要件の判定は、②減損の兆候の把握になります。すなわち、最終的に⑤の段階で減損損失が計上される場合とは、②減損の兆候がある場合といえます。そして、「固定資産の減損に係る会計基準」では減損の兆候について以下のような具体例が示されています。
<減損の兆候の具体例>
① 資産又は資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが、継続してマイナスとなっているか、あるいは、継続してマイナスとなる見込みであること
② 資産又は資産グループが使用されている範囲又は方法について、当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化が生じたか、あるいは、生ずる見込みであること
③ 資産又は資産グループが使用されている事業に関連して、経営環境が著しく悪化したか、あるいは、悪化する見込みであること
④ 資産又は資産グループの市場価格が著しく下落したこと
法人税の評価損は、内国法人の有する資産につき、以下のような事実が生じ、当該固定資産の時価がその帳簿価額を下回ることとなったときに計上することができます(法法33②、法令68①三、法基通9-1-16)。
<法人税の評価損が計上される場面>
① 固定資産が災害により著しく損傷したこと
② 固定資産が1年以上にわたり遊休状態にあること
③ 固定資産がその本来の用途に使用することができないため他の用途に使用されたこと
④ 固定資産の所在する場所の状況が著しく変化したこと
⑤ ①から④までに準ずる特別の事実(例えば、法人の有する固定資産がやむを得ない事情によりその取得の時から1年以上事業の用に供されないため、当該固定資産の価額が低下したと認められること)
企業会計の減損損失と法人税の評価損が計上される場面の具体例を見てきましたが、それぞれ計上され得る場面が異なる点はお分かりいただけたかと思います。
ただし、それぞれ計上され得る場面の具体例を見比べて、それぞれ具体例が異なるからそれで終わりではつまらないので、以下私見にはなりますが、両者の違いを少し深堀りしてみようと思います。
まず、企業会計の減損損失は、固定資産の経済的減価や市場性減価に着目しているが、法人税の評価損は、具体的に目に見えるような固定資産の物理的減価に着目しているように思われます。また、法人税の評価損の具体例の方が、企業会計の減損の兆候の具体例よりもより具体的かつ限定的であると思われます。
さらに、企業会計の減損の兆候は、「見込みでること」というように現にその状態にない将来の状態にも着目しているのに対し、法人税の評価損は、「見込みであること」という表現はなされておらず、現時点での状態を見ている点も異なります。
企業会計の目的は、投資家へ企業の財政状態と経営成績等の情報提供及び利害関係者間の調整機能を果たすことであるのに対し、法人税法(税法)の目的は、納税者間の課税の公平を保つことです。
ですので、将来の「見込み」等の判断を納税者に委ねるとこの課税の公平が保てなくなるので、法人税の評価損の具体例には「見込み」という表現は用いられていないのだと考えられます。
このように両者の目的が根本的に異なることが背景にありますので、企業会計の減損損失と法人税の評価損もそれを受けて適用場面に違いが生じているのだと思われます。
企業会計の減損損失と法人税の減損損失ついてその違いを中心にご紹介しました。
ただし、場合によっては企業会計の減損損失の適用場面と法人税の評価損の適用場面が同じになる場合もあり得ますが、その判断や立証は容易でないため、多くの上場企業では、企業会計の要請で損益計算書に計上した減損損失を、法人税の申告書上、損金不算入の加算調整を行っているところが多いと思われます。