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有形固定資産の減価償却と減損会計の共通点・相違点

税理士 井上幹康
有形固定資産の減価償却と減損会計の共通点・相違点

会計の世界には、似て非なる用語や取扱いがたくさんありあります。今回ご紹介する有形固定資産の減価償却と減損会計も似たような用語で共通点もあるせいか同じような感覚で捉えている方も多いですが、実は全く異なる取扱いです。今回は、そんな減価償却と減損会計について、共通点と相違点を中心にご紹介します。

減価償却と減損会計の共通点

まず、減価償却と減損会計の共通点からいうと、どちらも取得原価主義の下で実施される固定資産の帳簿価額の減額処理になります。

会計仕訳で示せば以下の通りです。どちらも固定資産の帳簿価額が減額されているのがわかると思います(仕訳の貸方)。

<減価償却の仕訳例>

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額
減価償却費 〇〇〇〇円 建物 〇〇〇〇円

<減損会計の仕訳例>

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額
減損損失 〇〇〇〇円 建物 〇〇〇〇円

また、取得原価主義って何?って方もいらっしゃるかと思います。

取得原価主義とは、別名で取得原価基準ともいわれ、貸借対照表に計上される資産の評価基準の1つです。より感覚的に取得原価主義の意義について捉えるならば、いわゆる時価主義と対比して捉えるとわかりやすいのです。

つまり、時価主義では資産の時価評価を行った結果、評価益の場合はその分資産の帳簿価額を増額やし、評価損の場合はその分資産の帳簿価額を減額します。この時価主義は、売買目的の有価証券などで適用されています。

一方で、取得原価主義では、仮に時価評価すれば評価益の場合でも資産の帳簿価額を増額することはせず、取得時に資産計上した金額(取得原価)を基に、上記減価償却や減損会計を適用して帳簿価額を減額していくことになります。この取得原価主義は、販売目的の棚卸資産や事業用の固定資産などに適用されています。

なお、もう1つの共通点としては、減価償却も減損会計も期末決算時(四半期決算含む)に行われる手続きであるということです。

もちろん、減価償却は月次で毎月減価償却費を計上しているので決算以外の月もやってる企業も多いですが、期中は固定資産の取得や除却がタイムリーに把握できず概算で減価償却費を計上している場合も多く、最終的に決算書に計上される減価償却費が固まるのは決算時ということになります。

減損会計は、適用要件の検討等の手続きが非常に煩雑なので、月次で計上している企業は無く、四半期決算や期末決算で検討するのが普通でしょう。

有形固定資産の減価償却と減損会計の共通点・相違点

減価償却と減損会計の相違点

次に、減価償却と減損会計の相違点をご紹介しますが、こちらは共通点と違い切り口が複数あるので以下相違する項目ごとに記載します。

実施する目的の違い

減価償却の目的については、「連続意見書」に以下の通り書かれています。

減価償却の最も重要な目的は、適正な費用配分を行うことによって、毎期の損益計算を正確ならしめることである。

より端的にいうと、適正な期間損益計算を行うことが目的といえます。

減損会計の目的は、「固定資産の減損に係る会計基準」に以下の通り書かれています。

固定資産の減損処理は、(中略)事業用資産の過大な帳簿価額を減額し、将来に損失を繰延べないために行われる会計処理である。

このように、両者の会計処理は実施する目的が明確に異なります。

実施するタイミングの違い

減価償却を実施するタイミングについては、「連続意見書」に以下の通り書かれています。

減価償却は、所定の減価償却方法に従い、計画的、規則的に実施されなければならない。利益におよぼす影響を顧慮して減価償却費を任意に増減することは、(中略)、損益計算をゆがめるものであり、是認し得ないところである。

より端的に言えば、「一度定めた減価償却方法(定額法、定率法等)で毎期淡々と減価償却していってください。どうしても利益出したいから今期は減価償却費を計上しないとか、逆に利益を低く見せたいから減価償却費を多めに計上するというのはNGですよ」ということです。

減損会計を実施するタイミング、すなわち、減損損失を損益計算書の特別損失に計上するタイミングは、「固定資産の減損に係る会計基準」に定める適用要件判定を行い、最終的に減損損失を認識するという段階に至ったタイミングになります。具体的には、以下記載の減損会計適用フロー③の要件判定の結果、減損損失の認識が必要となったタイミングになります。

<上場企業における減損会計基準の適用フロー>
① 資産のグループピング
② 減損の兆候の把握(兆候がなければ減損処理は不要)
減損損失を認識するかどうかの判定(帳簿価格<割引前将来CFの場合は減損処理不要)
③ 減損損失の測定
④ 減損損失を損益計算書の特別損失に計上

このように、減価償却に関しては、固定資産を事業の用に供している以上、毎期決められた償却方法で必ず実施しなければなりません。一方で、減損会計に関しては、適用要件の検討は毎期やらないといけませんが、適用要件判定の結果、減損処理不要となれば減損損失は損益計算書上計上されないことになります。

難易度の違い

これはやや実務的な話になりますが、減価償却と減損会計は適用に当たっての難易度が大きく異なります。

減価償却は、固定資産の取得時に所定の事項を固定資産管理ソフトに入力すれば、あとはソフトが毎期計上する減価償却費の金額を自動計算してくれます。

一方、減損会計は、上記に記載の適用フローを1つ1つ検討する必要があり、これはソフトで全て自動的に行うことは困難です。特に③④の段階で用いる将来キャッシュフローや割引率の査定は見積りを要し、その難易度が高いです。

まとめ

減価償却と減損会計の共通点と相違点のうちメジャーなものをご紹介しましたが、細かく見ていくと他にもいくつか相違点はあります。日頃の実務では改まってこうした違いについて考えることは少ないでしょうが、似て非なるものどうし比較してみるとより理解が深まりますので、是非日頃の実務でも今回のように似ている会計処理の共通点と相違点を考えてみると良いでしょう。

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この記事を書いたライター

大学在学中に気象予報士試験に独学一発合格。社会人として働きながら4年で税理士試験官報合格。開業税理士として税務に従事しながら不動産鑑定士試験にも一発合格。税理士試験や不動産鑑定士試験受験生向けの相談サービスや会計学ゼミも開催。
カテゴリ:コラム・学び

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